医療特集

子宮筋腫について - 治療・注意点・予防

更新日:2016/10/27

子宮筋腫の治療・注意点・予防(早期発見)について伺いました。

東北医科薬科大学若林病院 産婦人科 部長 渡辺 正

お話を伺った先生:

子宮筋腫の治療

子宮筋腫の治療は、症状や患者の年齢、妊娠希望の有無などによって1人1人対応が異なります。

治療と経過

子宮筋腫は良性の病気のため、もし検診で筋腫が発見されて精密検査を受けた場合でも、2人に1人は今すぐ治療の必要がない、「経過観察」となります。一方、貧血や月経痛など日常生活に支障が出るような症状がある場合には、積極的に治療を行ったほうがよいでしょう。

治療には、薬物療法、手術療法などがありますが、年齢や妊娠の希望の有無などを十分考慮して治療法を決める必要があります。

なお、妊娠中に子宮筋腫が見つかった場合は、そのリスクの程度にもよりますが、注意を払いながらも積極的に手術などの治療をすることはありません。

経過観察

子宮筋腫があっても日常生活に支障がないような場合には、経過観察とすることがあります。この場合でも、半年から1年に1回は定期的な検査を行って筋腫の状態をチェックするのが望ましいと考えます。

筋腫がある程度の大きさで変化がないことも多いのですが、逆に早期に治療しても筋腫が再発してしまう場合もあります。

対症療法

筋腫そのものは治療せず、問題となっている症状だけを抑えるために、月経時の経血量の減少・月経痛緩和などの目的で対症療法を行うこともあります。

例えば、月経時の経血量が多いという場合に、止血剤によって経血量の減少を図ることがあります。同様に、造血を目的として鉄剤を処方することもあります。また、痛みが激しいという人の場合は、痛みを和らげるために鎮痛薬を用います。

ホルモン療法

LEP

排卵を抑制して出血量を減少させるため、低用量ピル(経口避妊薬)を用いることもあります(LEP:Low dose Estrogen-Progestin<低用量エストロゲンープロゲスチン>)。

ただし、子宮筋腫を有する例に使用する場合には、筋腫の増大や出血量のコントロールが難しくなる場合もあります。特に子宮の内側に向かって発育する粘膜下筋腫の場合、低用量ピルの服用は避けたほうがよいでしょう。

LNG-IUS

プロゲステロンを含有する子宮内リングを留置する方法です(LNG-IUS:レボノルゲストレル放出型子宮内避妊システム)。プロゲステロンは子宮内膜の増殖を抑える働きがあるため、子宮内膜は薄い状態となり、避妊、および月経量を減少させる効果を示します。ただし、このリングは正常な大きさの子宮を基準にして作られています。したがって、筋腫の存在により、子宮内腔が拡張、変形している例ではリングの装着が難しい場合があります。

なお、LEP、LNG-IUSは、子宮筋腫の病名での保険適用はありません。

GnRHアナログ

GnRHアナログは、子宮筋腫の病名で保険適用を取得しているホルモン療法で、筋腫の増殖に関わる女性ホルモンの分泌を抑える働きを持っています。「GnRHアナログ」には点鼻薬と注射製剤の2種類があります。

点鼻薬は使い忘れると血中濃度が維持できず、効果が弱まってしまうことがあります。また、鼻炎のある人は使いにくい場合もあります。こういった場合には、注射製剤を選ぶこともできます。注射製剤は、徐々に薬が溶け出して1カ月ぐらい効果が続くという徐放剤(じょほうざい)のため、副作用が出た場合にすぐに止められないというデメリットもありますので両者の特性を理解して使用します。

女性ホルモン分泌の仕組み

女性ホルモンとは、卵巣から分泌されるエストロゲンとプロゲステロンです。まず、脳の視床下部から下垂体を刺激するホルモン(GnRH)が分泌されます。次に下垂体からFSH、LHが分泌されて、卵巣のエストロゲン分泌が高まり、排卵がおこります。そして、排卵の後に形成された黄体からプロゲステロンが分泌されるのです(図3)。

図3 女性ホルモン分泌のメカニズム

図3 女性ホルモン分泌のメカニズム

GnRHアナログは、GnRHとよく似た構造の薬で、薬が効き続けると本来のGnRHの働きをブロックするようになり、その結果女性ホルモンの分泌が抑制されます。

この治療法は意図的に一時的な閉経の状態を作り出し(偽閉経:ぎへいけい)、筋腫を小さくすることが狙いです。筋腫が消えることはありませんが、半年続けるとかなり大きかった筋腫でも縮小することが期待できます。ただし、ホルモン分泌を抑え込むことはできても筋腫の大きさは変わらないこともあります。また、子宮の内側に向かって発育する粘膜下筋腫の場合には、出血を抑え切れない場合があります。

GnRHアナログ治療の注意点

治療に伴って女性ホルモンが低下するため、排卵がなくなり月経も止まります。また、「のぼせ」などのいわゆる更年期症状も程度には差がありますがほぼ全員に出現します。50歳を超えている人の場合は、この偽閉経療法を行っている間に閉経に持ち込むことを期待して使うこともあります。

原則的には月経が開始する時期から始めます。女性ホルモンの分泌を抑え続けると 骨粗鬆症(こつそしょうしょう) の発症リスクが高くなるので、半年以上は継続できません。再発などで再度投与したい場合にも、半年間はあける必要があります。

この薬は大変高価であり、また更年期症状の副作用も強いため安易に行う治療ではなく、筋腫の縮小効果を期待して、その後の手術をやりやすくするために行うことが多いです。

ごく一部ですが、子宮筋腫を再発しやすい人がいます。子宮筋腫を核出してもまた筋腫が再発してくることがあります。その場合、何度も手術を繰り返すことはできないので、GnRHアナログと別のホルモン剤の投与を交互に行って対応することもあります。

表1 子宮筋腫のホルモン療法
薬物
LEP
(ルナベル®)(ヤーズ®)など
エストロゲンとプロゲステロンの合剤
低用量ピル
排卵を抑制して出血量の減少を期待
筋腫が増大することがある
子宮内膜症、月経困難症に保険適用を取得
GnRHアナログ 下垂体ホルモンの分泌抑制により排卵を抑制 作用は強力
連続使用は6か月まで
子宮内膜症、子宮筋腫に保険適用
LNG-IUS
(ミレーナ®)
子宮内リング、子宮内膜が薄くなる
排卵を抑制するわけではない
避妊効果
過多月経、月経困難症に保険適用を取得

マイクロ波治療

この療法は、「マイクロ波子宮内膜アブレーション(MEA)」と呼ばれ、平成24年4月1日より健康保険適用となりました。MEAは、筋腫はそのままにして過多月経の症状を改善することを目的とした治療法で、マイクロ波を用いて子宮内膜を破壊します。これにより、剥がれ落ちる子宮内膜の量(出血量)を減らすことができます。

しかし、子宮内膜は再生能力を持っているため、時間が経つと症状が逆戻りする場合もあります。原則として、妊娠を希望している方にはおすすめできません。

手術療法

手術療法は、筋腫だけをくり抜いて取る「筋腫核出術」と、「子宮全摘術」の2つに大別されます。また、手術のアプローチの方法として、開腹、腹腔鏡、子宮鏡(腟式)があげられます。東北医科薬科大学若林病院では、腹腔鏡下手術を年間300件以上(うち子宮筋腫150件以上)、子宮鏡下手術を100件以上(うち子宮筋腫50件以上)手掛けています。

手術療法の分類

  • 筋腫核出術

    開腹、腹腔鏡、子宮鏡

  • 子宮全摘術

    開腹、腹腔鏡、腟式

子宮を全摘すれば基本的には筋腫の再発はありませんが、妊娠することもできなくなります。今から30年ほど前は、出産を終えた人の子宮筋腫の手術術式は子宮を全摘することがほとんどでしたが、近年は患者のニーズが多様化しており、妊娠の予定がなくても子宮は残したいと核出術を望む人が増えています。

腹腔鏡下手術

腹腔鏡下手術は、腹部に直径1-3cm程度の穴を4カ所程度開け、そこから腹腔鏡用の手術器具を入れて行います。

腹腔鏡下手術の場合、退院までの期間は手術してから1週間前後で、開腹手術でも1週間から10日程度です。痛みや身体の負担などは腹腔鏡下手術のほうが軽く、回復までの時間も短いのが特徴です。

子宮全摘術について

子宮筋腫が発生するのは子宮体部がほとんどですが、筋腫を含めて、子宮体部・頸部を摘出する術式を子宮全摘術といいます。通常は、腹腔鏡下手術や腟式手術では、子宮(筋腫)を腟から必要に応じて分割して取り出します。

筋腫核出術について

腹腔鏡下(開腹)手術は、漿膜下筋腫や筋層内筋腫の核出術に適していますが、子宮の内側に向かって発育する粘膜下筋腫の場合でも核出をすることもあります。また、あらかじめ、自己血貯血を行う場合もあります。

一方、子宮鏡下手術は、粘膜下筋腫が良い適応となります。漿膜下筋腫には適していません。

腹腔鏡下手術の場合、術者が直接筋腫に触れることができないのがデメリットとされます。開腹手術であっても筋腫のすべてを摘出できるとは限りません。

手術後の出産・再発など

腹腔鏡下(開腹)筋腫核出術では、子宮の正常な部分にメスを入れることになるので、手術後に妊娠した場合の分娩は最初から帝王切開が望ましい場合もあります。

また、手術をしても、子宮筋腫は再発する可能性もあります。このため、早期に見つけて早期に取ることが必ずしもメリットになるというわけではありません。

切らない治療

子宮を温存する、“切らない治療”として、「子宮動脈塞栓療法(UAE)」と「集束超音波治療(FUS)」も一部の施設で行われています。

子宮動脈塞栓術

子宮動脈塞栓術は、足の付け根から動脈にカテーテルを入れて、造影を行いながら動脈にゼラチン製のスポンジを詰め、子宮に送られる栄養の流れを断つ治療です。スポンジは、徐々に溶けて消失します。この治療により、経血量が多いといった問題が解決されることがあります。しかし、いったん筋腫が縮小しても、また大きくなる場合もあります。原則として、妊娠を希望している方にはおすすめできません。子宮の外側に向かって発育する漿膜下筋腫の場合には適用しないことが多いです。

子宮動脈塞栓術を実施するのは放射線科医ですが、治療中は痛みを伴うことが多いので、あらかじめ硬膜外チューブを背中に入れておき、必要時に薬を注入します。硬膜外チューブを入れるのは麻酔科医に依頼することが多いです。術前や術後の管理は婦人科が行います。この治療は、実施できる施設が限られております。

集束超音波治療

集束超音波治療は、超音波を一点に集中させて筋腫を焼灼(しょうしゃく)する治療です。保険が適用されないため、私費診療となります。また、原則として、妊娠を希望している方にはおすすめできません。

治療上の注意点

妊娠を望む場合の治療選択・計画

妊娠を望む場合、最初から筋腫を核出して妊娠を目指す場合と、経過観察・一般不妊診療を一定期間行ってみて、妊娠に至らない場合には、筋腫を核出して妊娠を目指す場合とがあります。

また、一般に核出術後は3カ月から半年ぐらいあけてからの妊娠が望ましいとされます。

子宮内膜症を併発している場合

子宮内膜症と子宮筋腫をあわせ持っている人もいます。この場合は、両者を並行して治療することもあります。

内膜症の場合は、出血よりもむしろ激しい痛みが問題になることが多いので、偽閉経療法をあわせて行うことがあります。子宮筋腫単独の場合には低用量ピルは用いないほうが望ましいのですが、内膜症の症状が強い場合には低用量ピルによって症状が抑えられるので、問題がなければ服用を続けてもらうことがあります。服用中は妊娠できませんが、薬をやめれば卵巣の働きは元通りになり、妊娠も可能です。

子宮肉腫

子宮肉腫は、子宮に発生する悪性の腫瘍のことです。良性腫瘍の子宮筋腫が悪性腫瘍になることは極めて稀で、基本的に子宮筋腫と子宮肉腫は別物だと考えていいでしょう。

ただし、子宮筋腫と子宮肉腫は鑑別が難しいのが実情です。もし、閉経後、あるいは、人工的に偽閉経になっているにも関わらず、腫瘍がどんどん大きくなっているのであれば子宮肉腫の可能性も考慮すべきと言えます。

発症予防

子宮筋腫は、発生する原因がはっきりしていないことから特別な予防法はありませんが、月経周期を保つためにも、規則正しい生活を心がけましょう。

何か異常を感じたときに、心配なことを気軽に相談できる掛りつけ医を見つけておくようにしてください。若い方の場合でも、妊娠を考えていなくても、子宮がん健診の受診などを通して自分の子宮・卵巣に異常がないか確認しておくことは大切です。

また、自覚症状はなくても、40歳を過ぎたら数年に1度は人間ドックなどを利用して、腹部の超音波検査を受けるようにするとよいでしょう。

渡辺 正先生の詳細プロフィール
東北医科薬科大学若林病院 産婦人科 部長 渡辺 正

東北医科薬科大学若林病院 産婦人科 部長

取得専門医・認定医

  • 日本産科婦人科学会専門医
  • 日本生殖医学会 生殖医療専門医
  • 日本産科婦人科内視鏡学会 技術認定医
  • 日本産科婦人科内視鏡学会 技術認定制度 技術審査委員
  • 日本内視鏡外科学会 技術認定医
  • 母体保護法指定医