病気事典[家庭の医学]

てつけつぼうせいひんけつ

鉄欠乏性貧血<血液・造血器の病気>

鉄欠乏性貧血<血液・造血器の病気>について解説します。

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どんな病気か

血液のなかにはさまざまな成分が含まれています。そのひとつに赤血球(せっけっきゅう)があり、そのなかに含まれるヘモグロビンは、体中に酸素を運ぶ重要なはたらきをしています。

ヘモグロビンは、酸素と結合するヘムという物質と、グロビンという蛋白質が結合してできていますが、ヘムの合成には鉄が必要です。鉄は胃酸により吸収されやすい形に変わり、十二指腸や小腸から吸収されます。人の体のなかに約4g含まれており、約3分の2がヘモグロビン鉄で、残りは主に貯蔵鉄と、その他、血清、筋肉、酵素にも含まれています。

普通は、体内の鉄の出入りはごくわずかでバランスは保たれていますが、何らかの原因でこのバランスが崩れることによって鉄欠乏症が起きます。鉄が不足するとヘモグロビンの産生がうまくいかなくなるために赤血球1個あたりのヘモグロビンが減り、赤血球の大きさが小さくなって、小球性低色素性(しょうきゅうせいていしきそせい)の鉄欠乏性貧血になります。貧血の90%以上がこの鉄欠乏性貧血です。

原因は何か

鉄の欠乏は、供給量と需要量または喪失量とのバランスが負に傾くことによって生じます。表1に示すように、(1)食事性の鉄の摂取不足や消化管からの鉄吸収障害で供給量が不足した場合、(2)成長期や妊娠に伴って鉄の需要量が増えた場合、(3)慢性出血性疾患や月経過多により鉄の喪失量が増えた場合に、生体内の鉄バランスが負に傾き、まず肝臓、脾臓(ひぞう)、骨髄などの組織の貯蔵鉄が動員されて潜在的な鉄欠乏状態になります。

貯蔵鉄が枯渇してくると血清鉄が次第に低下し、この状態が数カ月続くと小球性低色素性貧血(いわゆる「血が薄い」)となります。さらに進行して組織鉄が減少すると、貧血以外のさまざまな臨床症状が現れてきます。日本赤十字社の調査では、男性の0・5%、女性の12・7%が鉄欠乏性貧血であるといわれています。

症状の現れ方

貧血による組織への酸素供給量の低下を補うために、心拍数の増加による動悸や息切れ、易(い)疲労感(疲れやすい)、全身の倦怠感(けんたいかん)、頭重感、顔面蒼白、狭心症様症状(胸の痛み)などの一般的な貧血症状が現れます。くわえて、組織鉄の欠乏が進むと爪がスプーン状になったり、口角炎、舌炎嚥下(えんげ)障害(プラマービンソン症候群)などがみられることもあります。

なお、立ちくらみ(いわゆる脳貧血(のうひんけつ))はひどい貧血の場合にも起こりますが、多くは自律神経機能の低下により下半身の血管が縮まらず、その結果、上半身が血液不足になって起こります。小児の鉄欠乏性貧血のなかには、泥、ちり、釘(くぎ)、チョークなどを食べる異嗜症(いししょう)を示す症例もあります。

貧血は徐々に進むことが多いため、ヘモグロビンが6~7g/dlくらいまでに減少していても、体が順応して明らかな貧血症状がみられないこともあります。

検査と診断

血液検査で、小球性低色素性貧血(MCV・MCHの低下)、血清鉄低値、総鉄結合能高値、貯蔵鉄を反映する血清フェリチン低値が認められた場合に鉄欠乏性貧血と診断されますが、原因がはっきりわからない時はさらに検査が必要です。60歳以上の高齢者では、鉄欠乏性貧血の約60%が消化管のがんなどの悪性疾患によると報告されているので、便潜血(べんせんけつ)や内視鏡などの検査も必要です。

治療の方法

鉄欠乏の原因に対する治療と鉄の補給を行います。偏食などの鉄の摂取不足、成長期や妊娠による鉄の需要の増大、生理や過激な運動による鉄の損失などの場合は、普段から鉄分を多量に含む食品の摂取が大切です。動物性食品中には吸収されやすいヘム鉄が、植物性食品には吸収されにくい非ヘム鉄が多く含まれています。また、ビタミンCは非ヘム鉄の吸収を促進します。

貧血がひどい場合や食事療法で改善が難しい場合は、経口鉄剤(硫酸第一鉄やさまざまな有機鉄)が1日100~200㎎前後で投与されます。鉄剤を服用すると便の色が黒くなりますが、心配はいりません。副作用として吐き気などの胃腸障害が時にみられますが、徐放性製剤(徐々に吸収されるように工夫されたもの)により軽減されます。なお、お茶に含まれているタンニンは鉄と結合して鉄の吸収を妨げますが、日常生活のなかで普通に飲んでいる程度ではさしつかえありません。

鉄の補給は経口が原則ですが、吐き気などが強くて経口投与が不可能な場合や鉄剤の吸収障害がある場合、急速に鉄欠乏状態の改善を必要とする場合には、鉄剤の静脈注射による治療法が用いられます。しかし、この場合は鉄剤の過剰投与による障害(ヘモクロマトーシスなど)を避けるため、必要以上に投与期間が長くならないように注意が必要です。

経口投与した場合の治療効果は、まず血清鉄が上昇し、網赤血球(もうせっけっきゅう)が7~10日後に増え、次いでヘモグロビンが上昇してきます。しかし、貯蔵鉄が完全に正常になるまでには3~4カ月程度かかるので、血清フェリチン値が十分に上昇するまで治療を継続します。

病気に気づいたらどうする

内科を受診して血液検査をしてもらいます。鉄欠乏性貧血と診断された時は、鉄欠乏の原因を調べることが大切です。痔や子宮筋腫(しきゅうきんしゅ)など良性の疾患による鉄欠乏性貧血は、適切な鉄剤の投与によって治ります。しかし、成人の場合は消化器のがんが原因疾患であることがあるので注意が必要です。

なお、出血などの明らかな原因がなく、2週間以上鉄剤を服用しても反応がない場合は、血液疾患の可能性もあるため、血液内科への受診が必要です。

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