病気事典[家庭の医学]

はしょうふう

破傷風<外傷>

破傷風<外傷>について解説します。

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どんな病気か

破傷風菌が傷口(創(そう))などから体内に侵入して増殖すると、細菌がつくる毒素により、開口障害やけいれんなどの特有な症状が現れ、重症になる致死性の疾患です。

日本では、1953年から破傷風ワクチンの任意接種が開始され、1968年からは三種混合ワクチン(ジフテリア、破傷風、百日咳(ひゃくにちぜき))のひとつとして実施されました。その結果、1950年ころは年間数千人いた破傷風患者が、現在では年間50~100人程度にまで減りました。

発症後の治療は難しく、死亡率は一般に30%以上で、高齢者ほど重くなるため、予防が重視されています。

原因は何か

破傷風菌は、地表から数㎝付近の土や泥のなかなどの嫌気性(けんきせい)環境(酸素が少ない環境)で生息、増殖します。適さない環境では芽胞(がほう)という硬い膜におおわれて保存されます。創などから砂粒や木片などが入って体内に残ると、付着していた破傷風菌が皮下などの組織で増殖して毒素を放出します。毒素はヒトの神経の一部に接合して神経の興奮を持続的に引き起こすため、全身や顔面の筋肉のけいれんなどの症状が現れます。

一般的には、刺創のような深い創から感染するとされていますが、小さな創からも感染することがあります(4分の1は外傷歴不明例)。また、まれに分娩時の不適切な臍帯(さいたい)処理により感染し、新生児破傷風あるいは妊婦の産褥性(さんじょくせい)破傷風として発症する場合や、消化管などの手術時に感染する場合もあります。

症状の現れ方

潜伏期は2日~8週間であり、一般的に感染から発症までの時間が短いほど、また開口障害から全身けいれんまでの時間(オンセット・タイム)が短いほど高い死亡率を示します。

典型的な全身のけいれんを示す全身性破傷風、けいれんが創の周囲に限られている限局性破傷風、頭部の創から感染して顔面神経を中心とする脳神経の麻痺を来す頭部破傷風、新生児破傷風に分類されます。

最も一般的な全身性破傷風では、表10のような経過をたどります。

第1期では全身の倦怠感(けんたいかん)などの不定愁訴で、この時期の診断は困難です。第2期の顔の筋肉がこわばり、口が開きにくくなる特徴的な症状を牙関緊急(がかんきんきゅう)といい、こわばりから笑っているような顔の症状を痙笑(けいしょう)(ひきつり笑い)といいます。このような症状や所見から、歯科や耳鼻科を受診するケースが多く、破傷風と診断されると集中治療室がある病院へ送られます。この時期での診断とすみやかに治療を開始することが大切です。

第3期は全身的な筋肉のけいれんが現れる時期で、けいれんして背中が反り返る後弓反張(こうきゅうはんちょう)などの特徴的な症状を示します。呼吸筋のけいれんにより呼吸ができないため、人工呼吸器が必要になります。呼吸や血圧の管理が必要で、ICUなどでの集中治療が必要です。神経に結合した毒素の作用が低下すると、第4期の回復期に入ります。

検査と診断

破傷風免疫の欠如と、顔の筋肉のこわばりなどで破傷風を疑い、すぐに治療を始めることが重要です。創から破傷風菌が検出されれば診断が確定しますが、わずかな菌量でも破傷風が起こるため、菌が検出されないことも多くあり、菌の検出が診断の条件ではありません。

治療の方法

創を開いて洗浄し、壊死(えし)組織や異物の除去を行います。残っている破傷風菌を減らすため、抗菌薬を点滴します。また、抗破傷風ヒト免疫グロブリン(抗毒素血清(こうどくそけっせい))で破傷風がつくった毒素を中和しますが、神経組織にすでに結合した毒素に対しては無効です。

けいれんに対しては、抗けいれん薬を投与し、呼吸や血圧の管理を中心とした全身管理を行います。

病気に気づいたらどうする

すぐに病院の救急部門あるいは外科か内科を受診してください。全身的な筋肉のけいれんが認められる場合は、救急車を呼んでください。

破傷風の予防

(1)ワクチンで破傷風基礎免疫をつくる方法

日本では表11に示した方法で破傷風の予防接種が行われています。Ⅱ期の二種混合ワクチン接種後、5年から10年程度有効といわれています。

それ以降は、5~10年に一度の破傷風ワクチン(破傷風トキソイド)の追加接種が必要です。

(2)外傷時の破傷風予防

a.破傷風免疫:破傷風基礎免疫がある人は、破傷風ワクチンを接種します。一方、1968~81年に生まれた人や、混合ワクチンを受けなかった人は、破傷風免疫がない可能性があり、傷の汚染状況により、抗破傷風ヒト免疫グロブリン(抗毒素血清)を接種します。この効果は、1カ月程度持続します。

しかし、破傷風基礎免疫がない人には、1カ月以降も免疫を高めておく必要があります。破傷風基礎免疫あるいは破傷風免疫を外傷時からつくり始めるには、混合ワクチン接種の時と同様に破傷風ワクチンを用います。

このように基礎免疫がない人は、破傷風ワクチンを受傷時(1回目)と、3~8週後に接種(2回目)すると、短期間、破傷風免疫が高まる効果が期待できます。外傷時から12~18カ月後に追加接種(3回目)を行うと、破傷風免疫が5年間高まることが期待できます。3回目の接種から、さらに5年後に追加接種(4回目)すると、その後は10年間に一度の接種で効果が持続します。

b.創の処置:傷が嫌気性環境にならないように、汚染している深い創では切開して開放し、壊死組織があれば切除します。砂粒や金属片などの異物が残らないように洗浄します。

c.抗菌薬:毒素をつくる破傷風菌を抑制するのに効果がありますが、汚染物質や壊死組織が残っていると作用が低下します。

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