病気事典[家庭の医学]
はいきせいちゅうしょう
肺寄生虫症
肺寄生虫症について解説します。
執筆者:
川崎医科大学呼吸器内科学講師
宮下修行
どんな病気か
肺に感染症を起こす寄生虫の種類は多く、その生活史から、
(1)肺が好発部位であるもの(肺吸虫(はいきゅうちゅう))
(2)幼虫期に肺組織に侵入したあと、他の組織で成虫になるもの(回虫(かいちゅう)など)
(3)成虫から産生された幼虫の一部が肺組織に移行するもの(糸状虫(しじょうちゅう)など)
(4)ヒトが固有宿主(しゅくしゅ)ではないために成虫まで成長できず、幼虫のままヒト体内を移行して肺病変を生じるもの(イヌ回虫など)
に分けられています。
日本では、寄生虫疾患は生活様式や保健衛生の向上などによって減少の一途をたどっていましたが、海外旅行者や発展途上国からの入国者の著しい増加、グルメ傾向による食生活の多様化、ペット愛好家の増加などにより、最近、再び増加傾向にあります。
ここでは、日本で比較的多いとされる肺吸虫症およびエキノコックス症について説明します。
肺吸虫症(はいきゅうちゅうしょう)
肺吸虫は、もともと野生のイヌ科、ネコ科などを宿主とする寄生虫ですが、ヒトの体内においても成虫になるため、人獣共通感染症に数えられています。日本でみられるのはウエステルマン肺吸虫と宮崎肺吸虫(少数)です。
どのように感染するか
モクズガニやサワガニに寄生する幼虫の経口摂取によるもので、カニの調理過程で幼虫が手指、包丁、まな板などに付着し、ヒトの口に運ばれます(図17)。また、イノシシの肉の刺身を食べることでも発症しています。
経口的に摂取された幼虫は腸管を貫通し、発育しながら腹腔に出ます。いったん腹壁筋内でとどまって発育し、再び腹腔内に入って横隔膜(おうかくまく)をへて胸腔内に侵入し、感染3~4週間で肺へ移行します。肺内で虫嚢(ちゅうのう)を形成し、産卵します。
宮崎肺吸虫は、本来ヒトが好適宿主ではないため、胸腔に侵入した虫体は胸腔内を徘徊し、肺実質に虫体が侵入しても虫嚢腫は形成されません。病変は胸膜腔が主であり、胸膜炎や気胸を起こします。
症状の現れ方
咳、胸痛、血痰(けったん)が主症状で、胸水貯留で発見されることもあります。
検査と診断
血液検査では、好酸球(こうさんきゅう)の増加およびIgEの上昇が重要な所見で、胸部X線写真では、診断時期によってさまざまですが、胸水の貯留や気胸、結節影などが認められます。
確定診断は、喀痰(かくたん)または糞便、胸水からの虫卵の検出によって行いますが、検出率は50%と低いため免疫学的診断法(血清中特異抗体)も補助診断として用いています。
治療の方法
ブラジカンテルが最も優れた薬剤で一般的です。副作用は一般に軽く、一過性の吐き気、腹痛、肝障害、発疹あるいは頭痛、めまいなどがみられます。
エキノコックス症(しょう)(包虫症(ほうちゅうしょう))
包虫症は、単包条虫(たんほうじょうちゅう)と多包条虫(たほうじょうちゅう)による人獣共通寄生虫症です。前者は九州や四国など温暖な地方でまれにみられ、後者は北海道で多発しており、本州では極めてまれです。
どのように感染するか
エキノコックスは、終宿主(キツネやイヌなど)の小腸に成虫が寄生し、糞便に排泄される虫卵を食物などといっしょに食べた中間宿主(ハタネズミなど)で、幼虫が肝臓や肺、脳などさまざまな臓器に寄生します。この中間宿主を終宿主が食べることによって生活環が成立します(図18)。
ヒトへの感染は、川の水、山菜などが終宿主の糞便で汚染された結果として経口感染するとの可能性が考えられています。
診断と治療の方法
初期では症状に乏しく診断は困難ですが、免疫血清学的検査(酵素抗体法で90%、ウエスタンブロット法で95%の陽性率)が有用です。
本症に有効な駆虫剤はなく、外科的切除が原則です。
注意すべき点と医者への相談時期
淡水産のカニやイノシシの肉を生で食べたり、不十分な加熱での摂取は避けてください。これらの食物の生食歴があり、好酸球の増加やIgEの上昇があれば肺寄生虫症を疑い、医療機関で胸部X線写真を撮影してもらいましょう。
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