病気事典[家庭の医学]
はいけっせんそくせんしょう、はいこうそくしょう
肺血栓塞栓症、肺梗塞症
肺血栓塞栓症、肺梗塞症について解説します。
執筆者:
埼玉医科大学呼吸器内科教授
金澤 實
埼玉医科大学呼吸器内科助教
加賀亜希子
どんな病気か
心臓から肺へ血液を運ぶ血管である肺動脈に、塞栓子(そくせんし)(血液の塊(かたまり)、脂肪の塊、空気、腫瘍細胞など)が詰まり、肺動脈の流れが悪くなったり閉塞(へいそく)してしまう病気を広く肺塞栓症といいます。このなかで血液の塊(血栓)が原因で起こったものを肺血栓塞栓症と呼び、肺塞栓症の大部分はこれにあたります。
肺梗塞症は、肺塞栓症によって肺組織への血流が途絶え、その結果、その部分から先の肺が壊死(えし)(組織が死んでしまうこと)してしまった状態をいいます。
原因は何か
最も多いのは、下肢(脚)の静脈内でできた血栓が原因となるものです。近年問題になっている、いわゆる「エコノミークラス症候群」もこのひとつです。
海外旅行などで長時間飛行機に乗ると、座ったままで長時間同じ姿勢を保つため、下肢の深部静脈で血液が固まり血栓ができます。飛行機から降りようと立ち上がった時に、血栓が血液の流れに乗って移動し、肺動脈を閉塞するというものです。病気や手術のため長い間寝たきりの人なども、同じように下肢静脈での血液の流れが悪くなり、血栓をつくりやすい傾向にあります。
下肢の屈伸運動をする、長時間の座位を避ける、脱水にならないように水分を十分にとることが予防になります。
また、近年、日本においても生活の欧米化、高齢化、さらには手術方法の変化や血管カテーテル治療の増加に伴い、発生数は増加しています。
症状の現れ方
肺血栓塞栓症の3つの徴候として、突然の胸痛、呼吸困難、頻呼吸(ひんこきゅう)(呼吸回数が多い)があげられます。血栓が小さい場合には症状がないこともあります。しかし、血栓が大きく、太い血管に詰まった場合には、ショック状態となり死に至ることもあります。
肺梗塞症を合併すると胸痛のほかに、血痰(けったん)や発熱、発汗が現れます。
検査と診断
突然の胸痛や呼吸困難では、まず心電図と胸部X線検査、血液検査が行われます。これらの検査だけでは肺血栓塞栓症の確定診断はできませんが、同じような症状を示す心筋梗塞や解離性大動脈瘤(かいりせいだいどうみゃくりゅう)、気胸(ききょう)などとは、ある程度鑑別ができます。
次に、血液ガス分析で低酸素、心臓超音波検査で右心不全を認めれば本症が疑われ、造影CTによって、肺動脈内の血栓を確認できれば診断は確定します。
その他、診断のために肺換気・血流シンチグラム、肺動脈造影、造影MRI検査などを行うこともあります。
治療の方法
(1)発症直後の治療
基本的にヘパリンなどの血液が固まらないようにする薬(抗凝固薬(こうぎょうこやく))を点滴静注で使います。重症の場合には組織プラスミノーゲン活性化因子(t‐PA)といった血栓を溶かす薬(血栓溶解薬)を使って積極的に治療します。そのほかに、手術やカテーテルで血栓を取り除く方法もあります。
(2)病状安定後の治療
肺血栓塞栓症は、再発が多く発症すると命に関わることがあるため、予防的治療として抗凝固薬(ワルファリン)の内服を少なくとも6カ月、危険因子をもつ人は一生涯服用します。下大静脈にフィルターを留置して肺動脈に血栓が流れ込むのを予防する方法もあります。
病気に気づいたらどうする
肺血栓塞栓症は、急性期の死亡率が約10%と高く、救急の病気です。いかに早く診断し、いかに早く血栓を取り除くかが大切です。したがって、突然の胸痛や呼吸困難が起こったら、できるだけ早く循環器内科や呼吸器内科を受診することが必要です。
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