病気事典[家庭の医学]
めたのーるちゅうどく
メタノール中毒
メタノール中毒について解説します。
執筆者:
神戸女子大学公衆衛生学教授
栗原伸公
どんな病気か
メタノールを、お酒(エタノール)と間違えるなどして誤って飲んだり、管理の悪い工場や事故などで高濃度のメタノールの蒸気を吸い込むと、頭痛、めまい、悪心(おしん)(吐き気)や、視神経の障害による視力低下・失明が起こります。
原因は何か
メタノールもエタノールも、体に入ると“酔い”をもたらします。ただし、エタノールは体内で比較的害の少ないアセトアルデヒドから無害の酢酸に分解されるのに対して、メタノールは有害なホルムアルデヒドから有害な蟻酸(ぎさん)に分解されます。この蟻酸がたまることにより、頭痛などさまざまな症状をもたらすとともに、とくに視神経を傷つけて、視力障害さらには失明が起こります。
メタノールは、燃料、溶剤として、また各種の化学薬品、医薬品の原料として広く用いられています。そのため誤飲の機会も多く、また工場などで、急性、慢性に吸入することも多くあります。
症状の現れ方
急性中毒の場合、メタノールを飲む、あるいは吸入してから半日~1日程度は、エタノールを飲んだ時と同じような酩酊(めいてい)状態が起こるだけで、ほかにはとくに症状は出ません。ただし吸入した場合には眼や鼻の刺激を訴えることがあります。
翌日から頭痛、めまい、腹痛、悪心、嘔吐のほか、目がかすんだり、物が二重に見えたりし始めます。また、代謝性アシドーシス(血液が酸性になること)も生じます。
1週間以内に、視神経萎縮(いしゅく)と視野狭窄(きょうさく)のため著しい視力障害が起こり、しばしば症状が進んで失明します。多量に摂取した場合は、けいれん、循環障害、呼吸麻痺を起こし、死ぬこともあります。
慢性中毒の場合は、視力障害が起こります。
検査と診断
急性中毒の場合は、飲んだり吸い込んだりしたものがメタノールであることを知ることが大切ですが、それが困難な場合は、尿中にメタノールを検出することが役立ちます。さらに、前記の症状、とくに眼の症状と代謝性アシドーシスが診断の手がかりになります。視力障害がみられる時は、視神経の萎縮と視野の狭窄の有無を調べます。
慢性中毒の場合は、眼の所見と尿中メタノールの量を調べます。
治療の方法
メタノールを飲んで1時間以内なら、吐かせたり、胃を洗浄して、できるだけメタノールが体内に入らないようにします。メタノールもエタノールも同じ酵素(アルコール脱水素酵素など)で分解されるので、エタノールがたくさんあるとメタノールの分解が阻害されて遅くなり、有毒な蟻酸などができにくくなります。したがって、エタノールを経口または点滴で多量に与えることが最も有効な治療になります。
重症の場合には、透析(とうせき)によって血液中のメタノールを取り除く場合もあります。そのほか、代謝性アシドーシスに対して炭酸水素ナトリウム(メイロン)を投与するなどの対症療法も行います。
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