病気事典[家庭の医学]
ぱーきんそんびょう
パーキンソン病
パーキンソン病について解説します。
執筆者:
横浜市立大学医学部長・神経内科学教授 黒岩義之
済生会横浜市南部病院神経内科 波木井靖人
どんな病気か
50歳以降に発症することが多く、いくつかの特徴的な症状がみられます。手足が震える、筋肉がこわばる、動作が遅くなる、歩きづらくなるなどで、徐々に症状が進行し、10数年後には寝たきりになる患者さんもいます。有病率は、人口10万人に対し100人程度です。
原因は何か
原因は現在も不明です。脳の病理学的変化では、中脳の黒質(こくしつ)ドーパミン性神経細胞の変性が確認されています。ドーパミン性神経細胞の変性により、神経伝達物質であるドーパミンの産生が減少し、前述した特徴的な症状が現れます。
症状の現れ方
初発症状は、片方の手の震え(安静時振戦(しんせん))や歩きづらさ(歩行障害)が多く、前かがみで小きざみに歩くようになります(図23)。筋のこわばり(歯車様固縮(こしゅく))や手足の震え(振戦)は当初は片側だけですが、進行するにしたがって反対側にも現れます。
1歩めが出にくくなり(すくみ足)、歩幅も小さくなります(小きざみ歩行)。全体に動作が遅くなり(動作緩慢(かんまん))、方向転換や寝返りが苦手になります。歩いているうちに足が体に追いつかなくなり(突進現象)、姿勢の反射も障害されている(姿勢反射障害)ために前のめりの姿勢を立て直せずに転倒することもあります。
そのほか、表情が乏しく(仮面様顔貌(がんぼう))、おでこや頬が脂っぽくなります。自律神経系では、便秘や立ちくらみ(起立性低血圧(きりつせいていけつあつ))が現れます。精神症状として、うつ状態もみられることがありますが、一般には知能は正常に保たれます。
検査と診断
左右差のある安静時振戦を示し、筋のこわばりやすくみ足、小きざみ歩行、動作の緩慢などがある場合、抗パーキンソン病薬の効果が認められれば、まずパーキンソン病と考えられます。類似した症状を示す疾患には、脳血管性パーキンソニズム、薬物性パーキンソニズム、多系統萎縮症(たけいとういしゅくしょう)といわれる変性疾患などがあり、これらを除外することが必要になります。
そのためには、頭部MRIなどで多発性脳梗塞(のうこうそく)などの脳血管障害がなく、明らかな脳萎縮(のういしゅく)がないことを確認します。また、薬剤性の場合、服薬を中止することで症状が改善するため、パーキンソニズムを呈する可能性のある薬剤をのんでいないか確認することも大切です。このような変性疾患に関しては、初期の段階ではパーキンソン病との区別が困難な場合があり、神経内科のある専門機関を受診して相談するのがよいでしょう。
治療の方法
治療の基本は、抗パーキンソン病薬の内服治療です。中心になるのはドーパミンの前駆物質レボドパ(L‐ドーパ)で、脳内で減少したドーパミンを補充します。しかし、長期使用によって効果が減弱したり、血中濃度の変化に応じた症状変動(ウェアリング・オフ現象)、自分の意志とは無関係に口元が動いたり体がくねる不随意(ふずいい)運動(ジスキネジア)が現れることがあります。また、吐き気、不整脈などの合併症も認められることがあります。
近年では、レボドパの内服量を減らし、補助薬を併用することが推奨されています。補助薬には、ドーパミンを受け取りやすくするドーパミン受容体刺激薬(ビ・シフロール、レキップなど)、ドーパミン放出を促進するアマンタジン(シンメトレル)、ドーパミン分解阻害薬のセレギリン(エフピー)などがあります。これらの併用で副作用を少なくし、効果を持続させることが可能になります。
内服治療でコントロールが困難な症例では、定位脳手術や深部脳刺激法などの外科的治療法が検討されます。
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