病気事典[家庭の医学]

いんふるえんざ

インフルエンザ<呼吸器の病気>

インフルエンザ<呼吸器の病気>について解説します。

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どんな病気か

インフルエンザウイルスの感染による炎症です。ヒトからヒトへ感染しやすく、数年に一度大流行が起こります。また、気管支炎肺炎だけでなく、心不全や脳症などを併発し、死亡率の高い病気です。高齢になるほど、および年齢が低いほど死亡率が高く(図4)、大流行の時には日本でも数万人、あるいはそれ以上が死亡しています。

インフルエンザウイルスはヒトの体内で爆発的に増えます。ウイルスは約8時間で100倍に増えるので、1個のウイルスは24時間後には100万個になります。数千万個にまで増えると症状が現れるので最初に数十個のウイルスに感染すると約1日後には症状が出始めます。潜伏期(感染してから症状が出始めるまでの時間)が極めて短いわけですが、これがインフルエンザの大きな特徴であり、爆発的に広がる原因のひとつです。

インフルエンザウイルスはいつまで体内で増加し続けるのでしょう。実は感染後2~3日でウイルスの数は最大になり、その後は免疫抗体ができるため、増えた時と同じような速度で減り始めます(図5)。感染して5~6日後には体内からインフルエンザウイルスはほとんどいなくなりますが、多くの場合はまだ発熱が続いています。ウイルスを退治するために役立つ物質(炎症性サイトカイン)が過剰につくられるため、症状を持続させるからだといわれています。

原因は何か

ヒトに感染するインフルエンザウイルスにはA型、B型、C型の3つがあります。A型とB型は重症になりやすく、とくにA型ではウイルスの表面にあるスパイク(感染の際に役立つとげや爪のようなもの)が時々姿を大きく変えるためにワクチンが効かなくなります。これを抗原変異(こうげんへんい)による新型(あるいは亜型(あけい))の出現といいますが、10~30年ごとの新型の出現時には、大部分の人が新型への免疫をもたないために大流行となり、多数が死亡します(図6)。

最も有名なのは1910年代後半のスペインかぜです。青壮年から高齢者まで世界中で4000万人が、日本でも38万人以上が死亡しました。当時の日本の人口は現在の半分ですから、現在同じことが起こったら80万人近くが亡くなる計算になります。しかし、2009年春から出現した豚由来の新型インフルエンザでは、診断や治療法の向上もあってそのような大きな被害は出ていないようです。

患者さんの咳(せき)やくしゃみは、インフルエンザウイルスを多数含んだしぶき(飛沫(ひまつ))を周囲にまき散らします。冬の乾燥した空気中ではウイルスを包む水分が蒸発しやすく、ウイルスが身軽になって浮遊し、周囲の人がそれを吸い込んでしまいます(飛沫感染)。ウイルスが身軽になるほど気道の奥まで吸い込まれます。冬にインフルエンザが流行するのはウイルスが身軽になりやすいからであり、これも爆発的に流行する理由のひとつです。

吸い込まれたインフルエンザウイルスは、自分の体の表面のヘムアグルチニンというスパイクで気道の粘膜に吸着し、細胞に侵入します。侵入したウイルスは細胞の仕組みを利用して自分の遺伝子を増殖させ、自分と同じ姿の子どもをたくさんつくります。生まれた子どもは細胞の外へ出て、まだ感染していない細胞へ感染し、同じように自分の子どもを多数複製します。

ウイルスが細胞の外へ出る時に役立つもうひとつのスパイクをノイラミニダーゼといいますが、後で述べるインフルエンザウイルスに直接効く薬は、このノイラミニダーゼのはたらきを抑えてしまうのです。それ以外にもインフルエンザウイルスが感染する仕組みを抑えてしまう薬が多数、開発されつつあります。

症状の現れ方

インフルエンザは、潜伏期が極めて短いのが特徴です。感染して1~2日後に体のだるい感じや寒気、のどや鼻の乾いた感じ(前駆(ぜんく)症状という)が出ますが、その時間は短く、突然38~40℃にも及ぶ高熱が出て、強いだるさや消耗感、筋肉痛、関節痛などが出ます。普段健康な若い人でも寝込んでしまうほどの症状が3~5日も続きます。解熱薬などで解熱してもしつこく何度も再発熱し、体力の消耗はさらに強くなります。

発症の3~5日後ころに急に解熱して起き上がれるようになりますが、体力の回復には1~2週間が必要です。気力の回復にも意外と時間がかかります。ところが、高齢者や普段から治療を要する慢性の病気をもっている人、妊婦や年少者などではこれだけにとどまらないことが多いのです。発病の早期から気管支炎肺炎、さらには脱水症状や心不全、呼吸不全を合併しやすく、不幸な結果になる人も出てきます。そうした状況に陥るまでの時間が極めて短いのがインフルエンザの特徴で、早めの対応が求められます。

検査と診断

流行の初期にはインフルエンザの診断は意外に難しいものです。医師はまず病歴を詳しく聞き出しますが、自分の周囲の流行状況を含めて前項の「感冒(かんぼう)(かぜ)」の場合と同じようなことが質問されます。診察も「感冒」と同じ手順ですが、インフルエンザでは最近、迅速検査が飛躍的に進歩しました。

これは、鼻の奥やのどなどを綿棒でこすり、そのなかにインフルエンザウイルスだけがもっている特有な部品(特異抗原(とくいこうげん))が含まれているかどうかを10~15分という短時間で調べる検査です。ただし、症状が出て3日目以降にはインフルエンザウイルスが体内で減り始めるので、発症後48時間までに検査を受けないと確実な診断ができません。インフルエンザでも早期受診、早期診断が大変重要です。

インフルエンザは感冒より重症なので、血液検査やX線検査の回数が増えます。インフルエンザの場合にも他の似た病気が隠れていることがあります。区別すべき最大の病気は他の感冒肺炎などで、それらとの区別は極めて重要です。肺結核(はいけっかく)や肺がんであることもあるので、検査が必要といわれたらしっかり受けてください。

治療の方法

インフルエンザの治療も大きく2つに分けられます。対症療法がそのひとつですが、症状が感冒より強い分、しっかりと行う必要があります。

一部の解熱薬が乳幼児の脳炎や脳症の発症に関連しているのではないかといわれていますが、まだ明確ではありません。ただ、否定できるわけではないので、疑わしい薬剤については気をつけるべきです。それらのなかで安全性が高い解熱薬はアセトアミノフェンです。

原因療法では、数年前からインフルエンザウイルスに直接効く薬が使われています。インフルエンザウイルスがヒトの細胞に感染する最初の過程を抑えるアマンタジン(シンメトレル)、複製された子どものウイルスが細胞から出て行く過程を抑えるザナミビル(リレンザ)とオセルタミビル(タミフル)です。

後二者については、有効成分をまったく含まない薬(プラセボ)と効果を比較した試験で、はるかによく効くことが確かめられました。肺炎などの重症の合併症を併発する率もはるかに低いことが確かめられましたが、直接ウイルスに効く薬のため、ウイルスが体内で減り始める3日目以降には効き目が極端に落ちてしまいます。インフルエンザの治療に関しても早期治療が重要です。

病気に気づいたらどうする

インフルエンザでは早期受診、早期診断、早期治療開始が重要であることを力説してきました。合併症を併発しやすい人や重症化しやすい人ではとくに重要です。「感冒(かぜ)」の項でインフルエンザワクチンを打つべき人としてあげた人たちは、ワクチンを打って予防するだけでなく、発症したらすぐに医師の診察を受けることが大切です。

予防の方法

予防の基本はワクチンの接種です。ワクチンはかかるのを防ぐのではなく、重症化を抑えるものであることもあって、いまだにインフルエンザワクチンは効かないと思っている人もいますが、ワクチンの効果は内外ですでに実証されています。

海外では20万人以上を対象に、ワクチンを打った人と打たなかった人とに分けて調査した成績が複数あります。いずれもワクチン接種によって、インフルエンザや肺炎による入院患者数が30~60%減り、死亡者数が50~70%減っただけでなく、脳血管疾患(脳出血脳梗塞(のうこうそく)など)や心疾患(心筋梗塞(しんきんこうそく)や心不全など)による入院患者数と死亡者数が明らかに減っていました。インフルエンザは、肺炎以外にそれらの病気をも誘発していたのです。

米国では、肺炎の原因菌として最も多い肺炎球菌に対するワクチンも普及していますが、2つのワクチンを打つとさらに効果のあることが実証されています。肺炎球菌ワクチンを打つべきとしてすすめられているのは、インフルエンザワクチン接種をすすめられている人とほとんど重なります。日本でも普及し始めているので、医師に相談してください。

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