病気事典[家庭の医学]

ひよりみかんせん

日和見感染<感染症>

日和見感染<感染症>について解説します。

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日和見感染<感染症>の解説(コラム)

日和見感染とは

 感染とは、原因となる病原体がヒトの体内に侵入し、増殖することで起こります。しかし、私たちの周囲の環境には多くの微生物が存在し、また腸管内を始めとして体内にも多くの常在菌を保有しているにもかかわらず、感染症が起こらないのはなぜでしょうか?

 それは私たちの体内では、感染を防御する仕組みがうまくはたらいているからです。この仕組みを一般的に「免疫(めんえき)」と呼びます。免疫がうまくはたらいている状態では、体のなかにいる微生物はうまく押さえ込まれ、おとなしくしています。しかしいったん免疫の能力が衰えてくると、たとえ毒力が弱い病原体であっても、体内で増殖し感染を起こすことが可能になります。

 このように免疫能の低下した状態で、弱毒の病原体によって起こる感染症を「日和見感染」と呼んでいます。

免疫と病原体の関わり

 免疫は実にさまざまな仕組みによって成り立っています。大きく分ければ「自然免疫」と「獲得免疫」の2つがあります。自然免疫は好中球(こうちゅうきゅう)やマクロファージ、補体(ほたい)などがはたらき、いきなり病原体が体内に入ってきてもすぐに対処でき、どのような種類の病原体にも広く対応します。

 一方、獲得免疫ではリンパ球が主としてはたらき、特定の病原体に効率よく対処しますが、初感染の場合は迅速な対応は難しいという面をもっています。さらに獲得免疫は抗体を利用する「液性免疫」と、感染している細胞を直接攻撃する「細胞性免疫」に分類されます。

 免疫能が低下するといっても、これらの免疫のなかのどの部分が障害を受けるかによって、感染を起こしやすい病原体の種類も違ってきます。たとえば肺炎球菌やインフルエンザ菌、黄色ブドウ球菌などに対しては、好中球、マクロファージなどによる自然免疫と、抗体による液性免疫が重要です。先天性の免疫不全によってこれらの機能が低下している場合は、小児期から何度も感染を繰り返したり、重症の感染に陥(おちい)ったりします。

 一方、ウイルス、真菌、結核菌(けっかくきん)などに対しては細胞性免疫が重要であり、HIV感染症例や臓器移植後の症例では、細胞性免疫の低下に伴って、サイトメガロウイルス感染、カリニ肺炎、消化管カンジダ症、肺結核などの感染を起こす確率が高くなります。

日和見感染の原因

 先天性の免疫不全患者以外で、どのような人が免疫能が低下しやすいかを考えてみますと、がんや糖尿病、脳梗塞・脳出血、高度の熱傷や外傷などの疾患がある人があげられます。また手術や免疫抑制薬の投与など医療行為に伴って免疫不全の状態に陥る場合があり、医原性の免疫不全とも呼ばれています。

治療の方法

 治療としては、抗菌薬を用いて感染している病原体を押さえ込むことが第一ですが、日和見感染は免疫不全という状態のうえに成り立つ感染症ですから、免疫グロブリンという抗体を投与したり、G‐CSFという白血球を増やす薬を用いるなど、免疫機能を高める工夫も必要です。しかし、免疫不全を起こすもともとの病気が改善しなければ、感染症を起こす確率は高く、治療も困難な場合が多いのが現状です。

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