病気事典[家庭の医学]

どうこうのこうてんいじょう

瞳孔の後天異常

瞳孔の後天異常について解説します。

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瞳孔は虹彩(こうさい)(茶目)の中央にある円形の孔(あな)です。瞳孔は瞳孔括約筋(かつやくきん)(縮瞳(しゅくどう):瞳孔を縮める)と瞳孔散大筋(散瞳(さんどう):瞳孔を広げる)のはたらきによって大きさが決まります。暗所では散瞳し、明所では縮瞳することで、眼の中に入る光の量を調節しています。また近くを見る時も縮瞳しピントが合いやすくします(輻湊(ふくそう)といいます)。瞳孔括約筋は副交感神経に、瞳孔散大筋は交感神経にと、いずれも自律神経によって、瞳孔の大きさ(瞳孔径)は両眼同等にコントロールされています。

瞳孔が円形でない、左右の瞳孔の大きさが違う(瞳孔不同)、光が当たっても縮瞳しない(対光反応がない)など、は瞳孔の異常です。

瞳孔不同には、ホルネル症候群、瞳孔緊張症、動眼神経麻痺(まひ)、外傷・手術侵襲(しんしゅう)・点眼薬の影響などがあります。

ホルネル症候群(しょうこうぐん)

どんな病気か

眼交感神経の異常により瞳孔不同・眼瞼下垂(がんけんかすい)・発汗障害などが起きる状態です。

原因は何か

脊髄空洞症(せきずいくうどうしょう)、胸部の腫瘍(しゅよう)や手術侵襲、内頸動脈解離や海綿静脈洞(かいめんじょうみゃくとう)病変などが原因になることがあります。

症状の現れ方

瞳孔散大筋の麻痺により、患眼は散瞳しにくくなるため、暗所で瞳孔不同が顕著になります(患眼が縮瞳)。上下の眼瞼を開くはたらきの瞼板筋(けんばんきん)(ミュラー筋)も同じく眼交感神経の支配を受けているため、軽度の眼瞼下垂と瞼裂(けんれつ)狭小を伴います(図59)。

また交感神経は発汗を促すため、障害部位により顔面、首、半身の発汗障害を起こすことがあります。

検査と診断

両眼の瞳孔径を明所と暗所で観察し、暗所で瞳孔不同が著明になることを確認します。その他、コカイン・チラミン・低濃度エピネフリンなどの点眼試験を行い、各点眼薬に対する瞳孔の反応を調べることで、診断と障害部位の判定を行います。そのうえで、必要に応じてMRI等の画像検査を行い、原疾患を調べます。

治療の方法

原疾患を検索し、原疾患の治療を行うことが大切です。とくに小児の場合は腫瘍など重篤な疾患を背景に発症することが多いため注意が必要です。また頸部(けいぶ)外傷後に疼痛(とうつう)を伴って発症する場合は内頸動脈解離が原因の可能性があり、緊急な対応が必要です。

瞳孔緊張症(どうこうきんちょうしょう)

どんな病気か

副交感神経の障害により瞳孔不同が起こる状態です。20~40才の女性に多く、80%以上は片眼性です。

原因は何か

多くは原因不明です。糖尿病・ウイルス感性症・膠原病(こうげんびょう)など全身疾患の合併例も10~20%報告されています。

症状の現れ方

瞳孔括約筋の麻痺により縮瞳障害が起こるため、明所での瞳孔不同が顕著になります(患眼が散瞳)。明所での羞明(しゅうめい)感や、明るい部屋で鏡を見て瞳孔不同に気づくことが多いようです。瞳孔緊張症にアキレス腱や膝蓋腱反射(しつがいけんはんしゃ)の消失・減弱を伴うものをアディー(Adie)症候群といいます。

検査と診断

両眼の瞳孔径を明所と暗所で観察し、明所で瞳孔不同が著明になることを確認します(図60)。対光反応は欠如し光を当てても縮瞳しませんが、近見時にはゆっくりと縮瞳します。対光近見反応解離と呼ばれる瞳孔緊張症の特徴です。また、低濃度ピロカルピン点眼試験にて過剰に縮瞳する過敏性獲得も、診断基準になります。

治療の方法

時間経過とともに瞳孔は縮小していくことが多く、とくに治療を必要としないことが多いのですが、羞明が強い場合は虹彩付きコンタクトレンズを処方することがあります。

動眼神経麻痺(どうがんしんけいまひ)

どんな病気か

動眼神経内を走行する副交感神経が障害されると、瞳孔不同が起こります(患眼が散瞳)。

原因は何か

出血、梗塞、血流障害、外傷や腫瘍などさまざまな原因で起こりますが、脳動脈瘤(どうみゃくりゅう)(内頸動脈・後交通動脈部(こうこうつうどうみゃくぶ)動脈瘤)による圧迫がとくに重要です。

症状の現れ方

瞳孔不同(瞳孔散大)以外に、眼瞼下垂、眼球運動障害による麻痺性斜視(しゃし)、両眼性複視(ふくし)(だぶって見える)を伴います(図61)。とくに頭痛を伴う場合は脳動脈瘤が原因である可能性が高く、破裂すると、致命的なくも膜下出血に至る危険がありますので、緊急に脳外科での検査と処置が必要です(未破裂脳動脈瘤)。

外傷(がいしょう)・手術侵襲(しゅじゅつしんしゅう)による異常(いじょう)

眼球打撲や、白内障などの眼科手術の際に瞳孔括約筋に直接障害が及ぶと、瞳孔が散瞳状態で固定することがあり、瞳孔不同や対光反応欠如などの異常が残ることがあります。虹彩付きコンタクトレンズ装用や瞳孔形成術を行い対応することがあります。

薬物(やくぶつ)による影響(えいきょう)

自律神経に関与する薬剤を点眼・内服・注射した場合は瞳孔径に影響が出ます。代表的な薬剤としては、眼科で検査・治療に用いられるミドリン・ネオシネジン、アトロピンには散瞳効果があり、緑内障治療に用いられるピロカルピンには縮瞳効果があります。

全身的には、有機リン系毒物による中毒では著しい両眼縮瞳、モルヒネやヘロインなど麻薬中毒でも縮瞳、またシンナー中毒では軽度散瞳することが知られています。

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