病気事典[家庭の医学]

とうにょうびょうのきそてきりかい

糖尿病の基礎的理解

糖尿病の基礎的理解について解説します。

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どんな病気か

糖尿病はインスリン作用の不足に基づく慢性の高血糖状態を来す代謝疾患です。健常者では、空腹時の血糖値(血液中のブドウ糖の濃度)は110㎎/dl以下であり、食事をして血糖値が上昇しても、膵臓(すいぞう)のβ(ベータ)細胞からインスリンが分泌され2時間もすると空腹時のレベルに戻ります。インスリン分泌低下あるいはインスリン抵抗性を来すと、食後の血糖値が上昇し、次第に空腹時の血糖値も上昇してきます。

原因は何か

1型糖尿病、2型糖尿病、その他の疾患に伴う糖尿病および妊娠糖尿病に分類されます。

(1)1型糖尿病

自己免疫異常により、インスリンを合成する膵β細胞が破壊され、インスリンが絶対的に欠乏し、高血糖になります。遺伝様式は不明ですが、白血球の組織適合抗原のタイプにより発症の危険率が高まります。8~12歳の思春期に発症が多くなりますが、幼児や、最近では成人にも発症がみられます。日本の有病率は1万人に約1人です。

(2)2型糖尿病

糖尿病の98%以上を占め、40歳以降に起こりやすいタイプです。インスリン分泌の低下あるいはインスリン抵抗性によって骨格筋などでの糖の利用が悪くなり高血糖を来します。2型糖尿病は多因子遺伝で、家族性に起こります。日本での患者数は急激に増加し、最近では50歳以上の人の約10%が2型糖尿病です。

(3)その他の疾患に伴う糖尿病

遺伝子異常が突き止められた糖尿病(MODY、ミトコンドリア糖尿病)や、糖尿病がほかの疾患や条件(内分泌疾患、膵疾患、肝疾患、ステロイド薬服用)に伴って発症することもあります。内分泌疾患では、糖質ステロイドが過剰になるクッシング病やクッシンング症候群、成長ホルモンが過剰になる先端巨大症(せんたんきょだいしょう)、副腎髄質(ずいしつ)の腫瘍からカテコラミンが過剰に分泌される褐色細胞腫(かっしょくさいぼうしゅ)などが代表的です。膵疾患では、アルコールの過剰摂取などで膵臓が破壊され(膵炎)、インスリンの分泌が枯渇(こかつ)し、結果的には1型糖尿病と同じく、インスリン治療が必要になります。

(4)妊娠糖尿病(GDM)

妊娠中には女性ホルモンなどの影響で耐糖能(たいとうのう)が悪化し、糖尿病になることがあります。多くは出産後、正常に戻りますが、妊娠糖尿病になった女性は将来糖尿病を発症しやすいので、注意が必要です。

症状の現れ方

1型糖尿病は急激に発症し、ケトアシドーシス(インスリン不足により糖質の利用ができなくなり、脂肪が分解・利用されるため、ケトン体が生産されて血液が酸性になること)になりやすいタイプです。しかし、ゆっくりと進行する1型糖尿病もあります。一方、2型糖尿病はゆっくりと発症し、いつから糖尿病になったのかわからないこともあります。

高血糖による症状としては、口渇(こうかつ)、多飲、多尿、多食、体重減少、体力低下、易(い)疲労感、易感染などがあります。尿に糖が多量に排泄され、その甘い匂いで発見されることもあります。ケトアシドーシスでは、著しい口渇、多尿、体重減少、倦怠感(けんたいかん)、意識障害などのほかに、消化器症状(悪心(おしん)・嘔吐、腹痛)が特徴的です。とくに、呼吸は深くゆっくりしたクスマール呼吸となり、甘酸っぱいアセトン臭があり、最終的には昏睡を来します。

高血糖高浸透圧(こうけっとうこうしんとうあつ)症候群では、著しい口渇、倦怠感を訴え、著しい脱水、ショックのほか、神経症状(けいれん、躁(そう)症状、振戦(しんせん)など)などがみられ、最終的には昏睡(こんすい)を来します。

検査と診断

(1)糖尿病の診断基準

a.(1)空腹時血糖値が126㎎/dl以上、(2)75gブドウ糖負荷試験(OGTT)2時間値が200㎎/dl以上、(3)随時血糖値(来院時に任意の条件下で測定された血糖値)が200㎎/dl以上、(4)HbA1Cが6・5%以上(日本の測定値では6・1%以上)のいずれかを認めた場合は、「糖尿病型」と判定します。別の日に再検査を行い、再び「糖尿病型」が確認されれば糖尿病と診断します。ただし、HbA1Cのみの反復検査による診断は不可です。

また、血糖値とHbA1Cが同一採血で糖尿病型を示すこと((1)~(3)のいずれかと(4))が確認されれば、初回検査だけでも糖尿病と診断します。

b.糖尿病型を示し、かつ次のいずれかの条件が満たされた場合は、1回だけの検査でも糖尿病と診断できます。

・糖尿病の典型的症状(口渇、多飲、多尿、体重減少)の存在

・確実な糖尿病網膜症の存在

c.過去において上記のaないしbが満たされたことがあり、それが病歴などで確認できれば、糖尿病と診断するか、その疑いをもって対応します。

d.以上の条件によって、糖尿病の判定が困難な場合には、糖尿病の疑いをもって、3~6カ月以内に血糖値とHbA1Cを同時に測定して再判定します。

75gOGTTにおける判定基準を表1に示します。

(2)糖尿病の治療に必要な検査

・血糖値

通常、糖尿病の治療のためには空腹時や食後に血糖値を測定します。なお、空腹時血糖は10時間以上絶食したあとの血糖で、食後血糖値は食事開始後の血糖であり、何時間後かを覚えておく必要があります。

日本糖尿病学会による血糖コントロールの目安を表2に示します。

・グリコヘモグロビン(HbA1C

赤血球中のヘモグロビン(Hb)にブドウ糖が非酵素的に結合したもので、赤血球の寿命が120日であることから、HbA1Cは少なくとも過去1~2カ月の平均血糖値を反映します。HbA1C値は糖尿病の経過を評価するのによい指標になります。日本のHbA1Cの測定値(JDS)での正常値は4・3~5・8%です。

・尿検査

尿糖、尿蛋白、尿潜血、また糖尿病腎症(とうにょうびょうじんしょう)が疑われる場合には、尿中アルブミン排泄量を年に数回測定することがすすめられます。

・眼底検査

糖尿病網膜症(とうにょうびょうもうまくしょう)の有無を検査するため、眼底を無散瞳(さんどう)眼底カメラにより撮影したり、眼科医によるチェックが必要です。

・神経学的検査

糖尿病神経障害(とうにょうびょうしんけいしょうがい)の発見のため、膝蓋腱(しつがいけん)反射やアキレス腱反射の有無を検査したり、温痛覚・触覚・振動覚のチェックが必要です。

・その他の検査

糖尿病の患者さんは、高血圧脂質異常症を合併しやすいので、血圧測定や総コレステロール、中性脂肪(トリグリセリド)、HDL‐コレステロール(善玉コレステロール)などの血中脂質濃度の検査も時々必要です。脂肪肝なども合併しやすく、肝機能検査も時に必要です。糖尿病腎症による腎機能障害などをみるため、血清クレアチニンや尿素窒素(ちっそ)や尿酸などの測定も時に必要です。

心疾患のチェックのため、年1回ぐらいは胸部レントゲン写真や心電図検査を受けることも忘れてはなりません。

治療の方法

1型糖尿病では、生涯にわたるインスリン治療が必要になります。2型糖尿病では、過食や肥満、運動不足などの生活習慣の乱れを、食事療法や運動療法で改善することで血糖値は低下します。食事療法や運動療法のみで不十分な場合には、インスリン分泌を刺激する薬剤やインスリン抵抗性を改善する薬剤、ブドウ糖の吸収を遅らせる薬剤が必要になります。詳しくは、各項目を参照してください。

病気に気づいたらどうする

無症状のことも多いのですが、健康診断などで尿糖や血糖が高いと指摘されたら、内科、あるいは糖尿病を専門とする内分泌・代謝科などを受診してください。網膜症のチェックのため、定期的に眼科を受診する必要もあります。

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