病気事典[家庭の医学]

だいどうみゃくりゅう

大動脈瘤

大動脈瘤について解説します。

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どんな病気か

大動脈瘤は、胸部大動脈あるいは腹部大動脈の径が拡大し、こぶ状になってきたものです。多くの大動脈瘤は、徐々に径の拡大が進行するために、初めはほとんど症状がありません。とくに、胸部大動脈は胸のなかにあるため胸部大動脈瘤の自覚症状は乏しく、胸部X線写真で異常な影を指摘されて、初めて気づくことがまれではありません。

腹部大動脈瘤は、へそのあたりにどきどきと拍動するこぶを触れることにより発見されることが多いのですが、痛みを伴うことはまれなため見過ごされることもめずらしくありません。体をX線で輪切りにして調べるCT検査で見た腹部大動脈瘤の一例を図27に示します。直径7㎝の大きな腹部大動脈瘤が、へその真下の腹部中央に認められます。

この人の場合はこぶが大きいので、おなかを触ると、拍動する腫瘤(しゅりゅう)が触れるはずです。大きな拍動性腫瘤をおなかに触れれば、腹部大動脈瘤の可能性が高いと考えられます。

大動脈瘤が怖いのは、破裂することがあるためです。大動脈瘤が破裂すると大量に出血するため、破裂した動脈を人工血管に取り替えないかぎり助かりません。破裂した場合の致死率は、かなり高いと考えられます。破裂する前に動脈瘤の部分を人工血管に取り替えて、健康な生活を維持したいものです。破裂のしやすさは、大動脈瘤の径の大きさによります。つまり、直径が大きければ大きいほど、破裂しやすいというわけです。

正常な胸部大動脈の径は2・5㎝ほどなので、径が拡大して正常径の2倍を超えた5~6㎝になると破裂の危険性が出てきます。胸部大動脈瘤の径が6㎝を超える場合は、破裂防止のために手術治療が考えられます。

一方、腹部大動脈瘤の場合は、正常な腹部大動脈の径が1・5~2・0㎝ほどなので、その2倍の径4㎝を超えると破裂の危険性が出てきます。腹部大動脈瘤の場合は、こぶの径が5㎝になれば手術が必要です。

原因は何か

原因は不明です。ただし、大動脈瘤は高血圧の人や家族に大動脈瘤の人がいるとできやすいといわれ、家族的、遺伝的傾向が認められています。

大動脈には常に血圧のストレスがかかっているため、高血圧の人は動脈の拡大が起こりやすくなります。動脈の径の拡大が認められる人は、定期的な健診が必要です。また、破裂防止のためには、高血圧の治療が重要です。

症状の現れ方

胸部大動脈瘤の場合は、先ほど述べたように無症状のことが多く、健診で胸部X線検査を行い、初めて指摘されることがあります。胸部X線検査で胸部大動脈の拡大が認められた一例を図28に示します。この人の場合は、胸部大動脈の径が7㎝に拡大していることがわかりました。

胸部大動脈瘤が大きくなると、周囲を圧迫してさまざまな症状を引き起こすことがあります。声帯を支配している神経(反回神経)を圧迫すると、左側の声帯のはたらきが悪くなって、しわがれ声(嗄声(させい))が出てきます。そのため、初めに耳鼻科で診てもらってから心臓血管外科に紹介されてくる人もいます。

気管を圧迫すると呼吸困難になり、食道を圧迫すると食べ物をのみ込むことが困難になります。こうした症状が出てきた場合は、動脈瘤がかなり大きくなっていると考えられます。

胸部大動脈瘤が破裂した場合は、胸の痛みが出てきて、呼吸困難になります。胸部X線検査では、血液が胸部大動脈から周囲に出血している写真が得られることが多く、その場合はすぐに手術ができる病院に搬送する必要があります。

腹部大動脈瘤の場合は、前述したようにおなかに拍動性腫瘤を触れることが典型的な症状です。しかし、動脈瘤が小さかったり、肥満でおなかに脂肪がたまっていたりする場合は、触ってもわからないことがあります。腹部の超音波検査や、CT検査で初めて発見されることがまれではありません。

腹部大動脈瘤が破裂した場合は、激烈な腹痛や腰痛が出てきます。腹部大動脈からの出血は、腹部から後方の腰の部分に広がることが多いためです。出血が一時的に止まって、腹痛や腰痛の症状が初めは軽いことがあります。しかし、その後に大出血して意識不明になることも多く、腹部大動脈瘤の破裂が疑われた場合には、ただちに手術が可能な病院に搬送する必要があります。

検査と診断

胸部大動脈瘤の有無は、胸部X線検査で調べることができます。ただし、心臓の影の裏に動脈瘤がある時には見逃されることがあるので、正面と側面から胸部X線写真をとることによって、胸部大動脈の拡大の有無をチェックします。しかし、正確な胸部大動脈の径を知ることは胸部X線写真からでは困難です。胸部大動脈瘤を診断するには胸部のCT検査が最適で、胸部大動脈の正確な径を知ることができます。手術が必要かどうかも知ることができます。

腹部大動脈瘤の有無は、腹部エコーや腹部CT検査によって知ることができます。よく健診で腹部エコー検査を行いますが、胆嚢(たんのう)や肝臓は調べても腹部大動脈を調べないことがあり、腹部大動脈瘤が見逃されることがあります。腹部エコー検査の時には、腹部大動脈も診てもらう必要があります。

CT検査によって、腹部大動脈の正確な径と手術が必要かどうかがわかります。

治療の方法

大動脈の拡大が軽度であれば手術は行わず、血圧を調べて高血圧があれば血圧を上げないように薬による治療を行います。しかし、動脈瘤を治す薬はありません。

大動脈瘤が大きくなれば手術が必要になります。大動脈瘤に対する手術の基本は、人工血管による大動脈の置換術(ちかんじゅつ)です。腹部大動脈瘤に対する人工血管置換術の模式図を図29に示します。動脈瘤が大きい場合は、全身麻酔による胸部の開胸術、あるいは腹部の開腹術が必要になります。 

最近は、足の付け根からカテーテルという管を大動脈内に挿入して、人工血管を大動脈の内側から固定する方法が実用化されています。この特殊な人工血管は「ステントグラフト」と呼ばれ、全身麻酔による胸や腹の手術(オープン手術)に代わる方法になっています。ただし「オープン手術」がよいか、「ステントグラフト治療」がよいかはその人の状態によります。現在のところは「オープン手術」が基本です。

病気に気づいたらどうする

胸部大動脈瘤あるいは腹部大動脈瘤があることが疑われた場合には、CT検査を受けることをすすめます。CT検査によって、大動脈の正確な径がわかるので、その大きさによってその後の治療方針を決めることになります。

CT検査で大動脈の径の拡大があり、本来の径の2倍を超えるようであれば、破裂の危険性が出てきます。その際には、心臓血管専門医との慎重な検討が必要です。手術は、あくまで破裂予防のための手術なので、手術の危険性と破裂の危険性を十分に検討し、納得のうえでその後の方針を決めることになります。

一般に、よく準備された腹部大動脈瘤の手術の危険性は低い(2~3%)と考えられています。したがって、径が5㎝に及ぶ腹部大動脈瘤では手術あるいは「ステントグラフト治療」をすすめています。胸部大動脈瘤の手術の危険性は、腹部大動脈瘤よりは高いとされています。

手術の決定にあたっては、患者さんの状態や手術の方法について十分に検討することが必要です。経験のある心臓血管外科専門医と相談することをすすめます。

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