病気事典[家庭の医学]
せんてんせいししつたいしゃいじょうしょう
先天性脂質代謝異常症
先天性脂質代謝異常症について解説します。
執筆者:
山形大学医学部小児科学講座教授
早坂 清
リピドーシスについて
体を構成する細胞はさまざまな物質を合成していますが、一方、古くなった成分や外部から取り込んださまざまな物質を分解(加水分解)して再利用もしています。後者の廃棄物再生工場としての役割を果たしているのが、リソソームという細胞内の小器官です。
リソソームにおける物質の分解が障害されると、リソソーム内に物質がたまり、細胞が障害されます。膜に多く含まれるスフィンゴ脂質の分解が障害されて、蓄積する病気をリピドーシスといい、ニーマンピック病、ゴーシェ病、テイ・ザックス病などが該当します。
リピドーシスでは、神経細胞内にたまると脳の機能が障害され、肝臓や脾臓(ひぞう)にたまるとこれらの臓器が肥大してその機能が障害されます。肺にたまるとX線写真で浸潤像(しんじゅんぞう)が認められ、呼吸機能も低下します。
以下に、ニーマンピック病、ゴーシェ病、テイ・ザックス病について説明します。
ニーマン・ピック病(びょう)
どんな病気か
スフィンゴミエリナーゼの異常により、スフィンゴミエリンとコレステロールがたまり、肝臓、脾臓の腫脹(しゅちょう)、肺の浸潤、そして重症の患者さんでは脳にもたまり、精神運動発達の退行(一度獲得した能力を失っていくこと)やけいれんが現れ、寝たきりとなり、死に至ります。
原因は何か
スフィンゴミエリナーゼの遺伝子異常が原因で、常染色体劣性遺伝(じょうせんしょくたいれっせいいでん)します。
症状の現れ方
重症型(A型)では、生後数カ月から肝臓、脾臓がはれて巨大化します。3カ月前後からミルクの飲みが悪くなり、吐いたり、下痢をします。1歳ころには、すでにできるようになっていたお座りなどができなくなり、首の座りも不安定になり、周囲に関心を示さなくなって、3歳前後に死亡します。
軽症型(B型)では神経症状はなく、乳児期から肝臓、脾臓の腫大と呼吸器障害が認められます。
検査と診断
眼底にチェリーレッドスポット(黄斑部に赤紫色のさくらんぼ様のスポットが認められる)が約半数に認められ、胸部X線写真では浸潤陰影像があり、骨髄(こつずい)細胞に泡沫(ほうまつ)細胞およびリンパ球の空胞化が認められます。リンパ球や培養細胞を用いて酵素活性を測定し、診断します。
治療の方法
重症型には有効な治療法がなく、軽症型では骨髄移植が有効と報告されています。
病気に気づいたらどうする
先天性代謝異常症および小児神経を専門とする医師による診察が必要です。
ゴーシェ病(びょう)
どんな病気か
グルコセレブロシダーゼの異常により、グルコセレブロシドが肝臓、脾臓、骨髄、重症型では脳にもたまり、それぞれの機能を障害する遺伝性の病気です。
原因は何か
グルコセレブロシダーゼの遺伝子異常が原因で、常染色体劣性遺伝します。
症状の現れ方
重症型では、乳児期から肝臓、脾臓が腫脹し、けいれんが現れて進行し、早期に死亡します。軽症型では神経症状は認められず、肝臓、脾臓の腫脹、骨痛、骨折などが認められます。中間の経過をたどる患者さんもいます。
検査と診断
骨髄に泡沫細胞およびリンパ球の空胞化が認められます。リンパ球や培養細胞を用いて酵素活性を測定し、診断します。
治療の方法
重症型には有効な治療法はなく、軽症型では骨髄移植療法や酵素補充療法が行われます。
病気に気づいたらどうする
先天性代謝異常症および小児神経を専門とする医師による診察が必要です。
テイ・ザックス病(びょう)
どんな病気か
β(ベータ)‐ヘキソサミニダーゼAの異常により、神経(脳)にGM2ガングリオシドがたまり、障害される遺伝性の病気です。
原因は何か
β‐ヘキソサミニダーゼAの遺伝子異常が原因で、常染色体劣性遺伝します。
症状の現れ方
重症型では、生後数カ月から筋緊張低下(ぐにゃぐにゃする)や聴覚過敏(音に驚きやすい)が認められます。軽症型では、10歳以降に歩行障害や言語障害が現れます。ふらついたり、筋の緊張の亢進や低下が認められ、いずれも寝たきり状態となり、死に至ります。
検査と診断
眼底にチェリーレッドスポットが認められ、リンパ球や培養細胞を用いて酵素活性を測定し、診断します。
治療の方法
現在のところ、有効な治療法は確立されていません。
病気に気づいたらどうする
先天性代謝異常症および小児神経を専門とする医師による診察が必要です。
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