病気事典[家庭の医学]
のうへるにあ
脳ヘルニア
脳ヘルニアについて解説します。
執筆者:
慶應義塾大学医学部救急医学専任講師
並木 淳
脳ヘルニアとは
頭部外傷によって、頭蓋骨よりも内側(頭蓋内)に血腫や脳のむくみ(脳浮腫(のうふしゅ))が生じると、脳は硬い頭蓋骨で囲まれて余計なスペースがないため、頭蓋内の圧が高まり(頭蓋内圧亢進(ずがいないあつこうしん))、軟らかい脳はすきまに向かって押し出されます。
組織が押し出されることをヘルニアといいます。押し出された脳は深部にある生命維持中枢(脳幹(のうかん))を圧迫し、呼吸や心臓の機能を損ないます。
症状の現れ方
初期症状は意識障害と瞳孔(どうこう)の異常です。一般的には、脳に障害のある側の瞳孔が開き(瞳孔不同)、光に対する瞳孔収縮の反応が失われます(対光反射消失)。この時期を過ぎると呼吸が不規則で遅くなり(この前に異常に速い呼吸になることもある)、瞳孔の異常は両側になります。また、痛み刺激で手足を突っ張る除脳姿勢(じょのうしせい)を示すこともあります。
さらに進行すると呼吸が止まります。呼吸が停止した最重症例では、治療を行っても救命の可能性は低くなります。次いで脈が乱れ、血圧が下がって死に至ります。
検査と診断
意識、瞳孔(および除脳姿勢など)の臨床症状から診断します。原因の診断のため、頭部CTは必須です。脳ヘルニアを示すCTの所見として、正常では左右対称の脳の構造が圧迫のためゆがんで見えたり(正中構造の偏位)、頭蓋内圧亢進のため脳脊髄液(のうせきずいえき)が満たされている脳のすきま(脳室や脳槽(のうそう))が圧迫されたり、あるいは消えてなくなったりします。
治療の方法
瞳孔異常の初期症状がみられたら、治療は一刻を争います。原因に対する治療が優先され、血腫があれば開頭血腫除去術(かいとうけっしゅじょきょじゅつ)が行われます。
脳ヘルニアが進行し、脳幹の機能が失われた場合は(たとえば呼吸停止)、手術の危険が高く、開頭手術を行えないこともあります。
血腫がないか少量の場合は手術の効果が低いため、薬物療法が選択されることが多く、頭蓋内圧亢進に対する脳圧降下薬(グリセオールやマンニトール)の点滴注射が行われます。頭蓋内圧亢進に対する特殊な治療法にはバルビツレート療法や低体温療法がありますが、副作用も大きいため適応は慎重に判断されます。頭蓋骨を外す外減圧術(がいげんあつじゅつ)が行われることもあります。
予後は原因によりますが、一般的には症状の進行程度と、症状出現からの時間経過に比例して悪くなります。
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