病気事典[家庭の医学]

がくこつしゅよう(えなめるじょうひしゅをふくむ)

顎骨腫瘍(エナメル上皮腫を含む)

顎骨腫瘍(エナメル上皮腫を含む)について解説します。

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顎骨に発生する主な腫瘍としては、良性腫瘍では顎骨内に生じるエナメル上皮腫があり、悪性腫瘍では歯肉に生じる歯肉がんがあります。

エナメル上皮腫(じょうひしゅ)

どんな病気か

顎骨内に発生する良性の歯原性腫瘍(しげんせいしゅよう)です。口腔腫瘍の約10%を占め、歯原性腫瘍のなかでは最も頻度が高い腫瘍です。性差はなく、20~30歳代で診断されることが多く、下顎骨の大臼歯(だいきゅうし)部から下顎枝部に好発します(図21)。

原因は不明です。

症状の現れ方

初期には無症状ですが、増大すると顎骨の膨隆(ぼうりゅう)を来します。腫瘍が増大して顎骨の吸収が進むと、羊皮紙様感(ようひしようかん)(ペコペコした感じ)や波動(波のような動き)を触れます。また、歯の傾斜、転位、埋伏(まいふく)が認められます。

検査と診断

診断はX線、CTなどの画像診断と、生検(病変の一部を採取して顕微鏡で調べること)により確定されます。X線では境界がはっきりした単房性、多房性ならびに蜂の巣状の透過像がみられます。鑑別すべき疾患は、顎骨内に生じるその他の良性腫瘍や嚢胞(のうほう)で、画像診断と生検により鑑別されます。

治療の方法

単房性のものは、患部の摘出に加えて周囲の骨を取り除きます。小児では開窓療法(窓を開けて減圧する)を行い、腫瘍が小さくなってから摘出を行います。多房性のものでは、顎骨切除(上顎:上顎部分切除、上顎全摘出、下顎:下顎骨辺縁(へんえん)切除、下顎骨区域切除、下顎骨半側切除)を行います。

エナメル上皮腫は、良性とはいえ局所浸潤性(しんじゅんせい)に増殖するため、時に再発します。繰り返し再発することによって転移したり、悪性化することもあると指摘されています。

病気に気づいたらどうする

顎骨の無痛性の腫脹や膨隆など、疑わしい病変に気づいたら、ただちに口腔外科などの専門医を受診して、精密検査、治療を受ける必要があります。

歯肉(しにく)がん

どんな病気か

歯肉がんは、上下顎(じょうかがく)の歯肉および歯槽粘膜(しそうねんまく)に発生するがんで、口腔がんの約15%を占めます。歯肉がんの3分の2は下顎にみられ(図22)、また臼歯(きゅうし)部に好発します。男性に多く、50歳以上の中高年齢者に多く発症します。組織学的には、そのほとんどが扁平上皮(へんぺいじょうひ)がんです。

原因は何か

原因は不明ですが、誘因としては喫煙、飲酒、むし歯および不適合補綴物(ほてつぶつ)などがあげられています。また、白板症(はくばんしょう)などの前がん病変との関係も重要視されています。

症状の現れ方

初期には無症状に経過します。腫瘍が増大するにつれ、歯肉の腫脹(しゅちょう)、潰瘍、疼痛(とうつう)、歯の動揺・脱落などを来し、出血しやすくなります。腫瘍が外側へ進展すると顔面腫脹が、後方へ進展すると開口障害が生じます。顎骨内に深く浸潤(しんじゅん)すると、歯痛や三叉神経痛(さんさしんけいつう)のような疼痛あるいは知覚鈍麻(どんま)が現れます。さらには病的骨折を来すこともあります。

頸部(けいぶ)リンパ節への転移は25%に認められ、下顎歯肉がんに多くみられます。リンパ節転移は顎下リンパ節や上内頸静脈(じょうないけいじょうみゃく)リンパ節の腫脹として触れます。

検査と診断

確定診断のためには生検(病変の一部を採取して顕微鏡で調べる)を行います。顎骨浸潤(がくこつしんじゅん)の有無と程度が治療法を左右するため、X線、CT、MRI、骨シンチグラフィなどの画像診断が重要です。

鑑別すべき疾患とその方法は、以下のとおりです。外傷性潰瘍では原因を除去すれば、2週間後には潰瘍は縮小あるいは消失します。アフタ性口内炎では疼痛があり、また症状に改善の兆候がみられます。乳頭腫(にゅうとうしゅ)や白板症では骨破壊はありません。また、歯周炎では骨の吸収が歯の周囲のみに限られ、骨髄炎では骨の破壊像はがんと酷似することがありますが、症状の消長(よくなったり悪くなったりする)が認められます。

治療の方法

がんの進行状況に応じた顎骨切除(上顎:上顎部分切除、上顎亜全摘出、上顎全摘出、下顎:下顎骨辺縁(へんえん)切除、下顎骨区域切除、下顎骨半側切除、下顎骨亜全摘出)を行います。術前に放射線治療や化学療法を行うこともあります。頸部リンパ節への転移が認められる症例では、頸部郭清術(かくせいじゅつ)(リンパ節を清掃する手術)も併せて行います。

がん切除後の顎骨欠損に対しては、下顎では骨移植あるいはチタンプレートによる下顎の再建を同時に行います。その後、インプラントなどにより咬合(こうごう)再建を図ります。上顎でも骨移植を行うことはありますが、多くは顎補綴(がくほてつ)で対応します。また、頬部や口底などの広範囲切除例には皮弁(移植用の皮膚)による再建を行います。

5年生存率は約70%と比較的良好ですが、リンパ節への転移例では予後は不良となります。

病気に気づいたらどうする

前述した疑わしい病変に気づいたら、ただちに口腔外科などの専門医を受診して、検査や治療を受ける必要があります。また日ごろから歯みがき時の異常出血などに気をつけておくと、早期発見につながります。

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