病気事典[家庭の医学]

ほっさせいじょうしつせいひんぱく

発作性上室性頻拍

発作性上室性頻拍について解説します。

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どんな病気か

突然脈拍が速くなり、しばらく続いたあとに突然止まる頻拍で、心房(しんぼう)あるいは房室(ぼうしつ)接合部と呼ばれる心室以外の組織が頻拍に関わっているものを指します。

突然現れて突然止まる頻拍は、一般にリエントリー(回帰興奮あるいは回帰収縮)によって起こります。発作性上室性頻拍には、WPW症候群の房室回帰性頻拍、房室結節リエントリー性頻拍、心房内リエントリー性頻拍、洞結節(どうけつせつ)リエントリー性頻拍の4種類が含まれます。

原因は何か

頻拍は、リエントリーによって発生します。発作性上室性頻拍に関わるリエントリーの特徴は、解剖学的な刺激伝導回路があることです。

回路としては相対的にゆっくりと興奮が伝わる遅い伝導路と、相対的に速く興奮が伝わる速い伝導路とがあり、両端で両方の伝導路が合わさっています。この状態で一般には伝導の速い伝導路は不応期が長く、伝導の遅い伝導路は不応期が短いのです。

すなわち2つの伝導路があり、一方は伝導速度が速く不応期は長く、他方は伝導速度が遅いが不応期は短いという条件が成立する時にリエントリーが生じます。

WPW症候群に生じる房室回帰性頻拍

興奮波が房室結節を順行し、副伝導路を心室側から心房側へ伝わる正方向性房室回帰性頻拍と、興奮波が房室結節を心室側から心房側へ逆行して副伝導路を心房側から心室側へ伝わる逆方向性房室回帰性頻拍とがあります。

房室回帰性頻拍の95%は正方向性で、逆方向性は5%程度です。

房室結節リエントリー性頻拍

房室結節へ侵入する遅い伝導路を順行し、速い伝導路を逆行する通常型と、速い伝導路を順行して遅い伝導路を逆行する希有型(けうがた)とがあります。

心房内リエントリー性頻拍

心房内の小さな回路を旋回する頻拍で、心房興奮回数は1分間に240未満とされています。心房興奮回数が1分間に240以上である場合は、心房粗動(しんぼうそどう)と診断されます。

洞結節リエントリー性頻拍

洞結節とそこに隣接する心房筋の間のリエントリーによる頻拍です。

いずれの発作性頻拍も、体位の変換に伴って起こることが多いようです。若年者では運動中に発作が起こることや、逆に睡眠中に生じることもあるようです。

症状の現れ方

発作性上室性頻拍の症状は、突然生じてしばらく続き、突然止まる動悸(どうき)や胸部違和感として自覚されます。頻拍が生じていない時はまったく正常なので、健康診断でも発作時以外は異常を指摘されることはありません。

頻拍が長時間続くと、心機能が低下してうっ血性心不全の状態になることがあります。

検査と診断

診断には、発作時の心電図所見が非常に役立ちます。発作時の心電図が規則正しい頻拍を示し、QRS波の幅が正常であれば、発作性上室性頻拍と診断できます。QRS波とQRS波の間に、P′波が常に認められれば診断は確実になります。

確定診断には、心臓の電気生理学的検査が必要です。これにより頻拍の誘発と停止が可能であり、頻拍中の心房波と心室波の関係を容易に把握することができます。頻拍中の心房の興奮状態を見ることにより房室回帰性頻拍、房室結節リエントリー性頻拍、心房内リエントリー性頻拍、洞結節リエントリー性頻拍を区別できます。

発作性上室性頻拍と区別が必要な不整脈には、心房粗動、心房頻拍、単形性心室頻拍などがあります。頻拍中にATP製剤を投与することで粗動波が明らかになれば心房粗動の可能性が、QRS間隔が少し不規則であれば自動能亢進による心房頻拍の可能性が高くなります。また、P′波あるいは心房の興奮と、QRS波あるいは心室の興奮とが解離(かいり)していれば、一般には心室頻拍になります。

治療の方法

発作性上室性頻拍の治療は、頻拍の停止と頻拍の予防に分けると理解しやすいでしょう。発作性上室性頻拍は、房室回帰性頻拍と房室結節リエントリー性頻拍とが90%を占め、ともに房室結節がその頻拍の回路に含まれています。ですから、房室結節の伝導を抑えると頻拍は止まりますし、予防もできる可能性があります。

薬物療法

房室結節伝導を抑える薬物としては、カルシウムチャネル遮断薬、β(ベータ)遮断薬、ジギタリス、ATP製剤などがあります。カルシウムチャネル遮断薬としては、ベラパミルとジルチアゼムが一般に使われています。ベラパミルは静脈注射(静注)でも経口投与でも使われ、ジルチアゼムは主に経口投与で使われます。ジギタリスの静注薬を、短時間の点滴として投与することもあります。

同じような静注薬として、ATP製剤の急速静注もすすめられます。ATP製剤はゆっくり静注したのでは効果が低く、急速に静注すると房室結節伝導を抑えます。一過性の血圧低下、頭痛、吐き気、嘔吐などの副作用が必ずあるのが難点ですが、ごく短時間に薬効がなくなるので、これらの症状はすぐに回復します。この性質を利用すると、ATP製剤は反復投与が可能なので、最近では頻繁に使われるようになりました。

さらに、心房内リエントリー性頻拍のなかで、房室結節の近くに小さなリエントリー回路のある頻拍は、ATP製剤に感受性が高く、少量のATP製剤の急速静注で頻拍が止まります。また、洞結節リエントリー性頻拍が関わる組織も房室結節に似てゆっくりと興奮が伝わる反応を示すので、ATP製剤によって止まる可能性があります。

したがって、QRS幅が正常な頻拍を止めるには、ATP製剤の急速静注が最も効果的です。

非薬物療法

確実に発作性上室性頻拍を止めるには、直流通電による電気ショックを選択します。これは非薬物療法のひとつです。

別の非薬物療法としては、高周波カテーテル・アブレーション(コラム)があります。頻拍が関わる組織を焼灼(しょうしゃく)して頻拍を根治させる治療法で、治療成績がよいので薬物療法に取って代わられようとしています。頻拍を根治させるので予防的治療法になります。

WPW症候群の房室回帰性頻拍であれば副伝導路を、房室結節リエントリー性頻拍では心房後壁から房室結節へ侵入する遅い伝導路をアブレーションの標的にします。この2つの頻拍に関しては、高周波カテーテル・アブレーションが予防的治療法の第一選択になっています。

心房内リエントリー性頻拍と洞結節リエントリー性頻拍では、頻拍中に最も早く興奮している心房部位を標的にします。

病気に気づいたらどうする

発作性上室性頻拍があっても症状がほとんどなかったり、短時間で止まるようなら治療の必要はありません。ただし、頻拍を繰り返すようなら生活の質(QOL)を損なうので治療が必要です。症状がなくても、頻拍が長期間続くと心不全(しんふぜん)を引き起こすことがあるので注意が必要です。

とりあえず、急に始まる動悸を自覚したら、内科・循環器科のある病院、とくに不整脈に詳しい医師のいる病院を受診するべきです(コラム)。

頻拍は運動も含めた体位の変換に伴って、あるいは睡眠中に生じることが多いようです。日常生活での予防は、落ちた物を手を伸ばして拾わないようにする、発作が多い時には運動しない、といったことしかありません。

患者さんによって対処の方法は違いますが、もしも頻拍が起こったら、息ごらえをする、水を飲む、片方の頸部(けいぶ)の動脈を触れるところを抑えながらマッサージする、しばらく横になって休むなどを試してください。このような動作は房室結節の伝導を抑制するので、発作性頻拍を停止させる可能性が高いのです。

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