病気事典[家庭の医学]

じんふぜん

腎不全

腎不全について解説します。

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急性腎不全(きゅうせいじんふぜん)

高齢者での特殊事情

腎臓の糸球体(しきゅうたい)の濾過率(ろかりつ)は、30歳ごろをピークに、その後徐々に低下し、70代では若年者の60~70%になります。また、尿細管(にょうさいかん)機能(濃縮能と希釈(きしゃく)能)も加齢によって徐々に低下し、調節可能域が狭くなります。高齢者では、このような腎臓機能の低下により、急性腎不全を起こしやすくなります。

体内水分量は、若年者に比べて男女ともに約10%減少するので、脱水症状を起こしやすく、下痢、嘔吐(おうと)、発熱、利尿薬などの影響で簡単に腎前性(じんぜんせい)腎不全になります。

高齢者の場合、同時にさまざまな病気をもっている率が高いため、薬剤の投与機会が多くなり、とくに抗生剤や鎮痛解熱薬、悪性腫瘍(がん)の治療薬、あるいは検査のための造影剤使用などが腎不全の原因になることもあります。

症状はこの病気に特有なものはなく、全身倦怠感(けんたいかん)、食欲不振、吐き気、嘔吐などで、そのほか不眠、せん妄(意識障害の一種)など、精神面での症状が現れる場合もあります。しかし、まったく無症状のこともしばしばあるので、注意が必要です。

診断

急性腎不全は一般に、障害の部位により腎前性、腎性、腎後性(じんごせい)に分類されます(表11)。

急性腎不全は可逆性(元にもどることが可能)ですが、高齢者は二次的に心不全や重症感染症を発症しやすいので、早期診断、早期治療が重要です。その際は、腎性か腎前性かによって治療方針が異なるため、このうちのどちらなのかの診断も必要です。

表12に腎性と腎前性の鑑別項目を示します。このなかでも、尿中ナトリウム濃度とナトリウム排泄率(FENa)の数値が、見分ける際の指標として有用です。

治療とケアのポイント

急性腎不全を発症した場合には、まず体液が減少して脱水状態にあるのか、むしろ体液過剰で溢水(いっすい)状態にあるのかを判断します。脱水による腎前性急性不全では、電解質の数値を参考に、補液の内容を決定し、早期に補液を試みます。

脱水が改善されたり、溢水の場合には、ループ利尿薬(フロセミド)を静脈注射(静注)します。利尿反応を確認しながら20~100㎎まで増量し、その間、尿量が2倍になれば継続します。ドーパミンの持続投与や心房性ナトリウム利尿ペプチドの投与も有効な場合があり、いずれも静脈投与します。これらは併用も可能です。

これらの治療法では効果がなく、溢水となった場合、肺水腫(はいすいしゅ)、脳神経症状の出現、高カリウム血症(6mEq/l以上)、BUNが80㎎/dl以上、HCOが15mEq/l以下の場合は、透析(とうせき)療法が必要です。高カリウム血症は致命的な不整脈を誘発するので、透析を用意する間にも緊急の処置が必要です。

回復期は大量に尿が出るため、喪失分を考慮した水の補充や電解質輸液を行って、脱水状態にならないように注意します。

慢性腎不全(まんせいじんふぜん)

高齢者での特殊事情

急性腎不全と同様に自覚症状に乏しく、また、この病気に特有な症状はありません。

血清クレアチニン(Cr)値は腎機能だけでなく筋肉量にも関係しますが、高齢者では一般的に筋肉量が少ないので、腎機能低下のわりには血清クレアチニンが低値にとどまることが多くみられます。若年者と比較して栄養状態が悪く、蛋白分解による異化も亢進し、尿素窒素(BUN)が高い場合が多いことにも留意する必要があります。

診断

慢性腎不全の進行度は、糖尿病性腎症(とうにょうびょうせいじんしょう)では早く、良性腎硬化症(りょうせいじんこうかしょう)ではゆるやかであることも診断にあたっては参考にすべきです。腎不全の診断は、高窒素血症(こうちっそけっしょう)の状態をどのように判断するかによりますが、前項の急性腎不全と同様に、腎機能の評価はBUN、Crではなく、可能なかぎりクレアチニン・クリアランスで評価すべきです。最近は、年齢と性別を考慮した推算糸球体濾過率で判定することが多くなっています。

治療とケアのポイント

食事療法は、蛋白制限(0・6g/㎏以下)とカリウム制限(1500㎎以下)が重要です。薬物療法として、糖尿病性腎症やIgA腎症ではアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬が腎保護作用を示すので、少量から慎重に投与します。また、血清クレアチニン値が2㎎/dl以上であれば、サイアザイド系利尿薬は使わないで、ループ利尿薬を使います。

透析導入後は、合併症防止と日常生活動作(ADL)、生活の質(QOL)の維持、社会生活復帰が主体になります。したがって、食事療法も各種の制限は緩和されます。蛋白制限は血液透析(HD)で体重1㎏あたり1・0~1・2g、腹膜透析(CAPD)では1・1~1・3gとなります。カリウム制限は、HDでは1500㎎以下と薬物療法が必要ない保存期腎不全と同じですが、CAPDでは2000~2500㎎に緩和されます。

薬物療法は500mlの利尿が保持されていれば、体液管理の目的でループ利尿薬を使用します。

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