病気事典[家庭の医学]

すとれす

ストレス

ストレスについて解説します。

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ストレスの定義

ストレスとは、本来は物理学でスプリングのなかに生じるひずみを表現する用語ですが、それが生命に生じたひずみの状態を表現する言葉として使われるようになりました。カナダの生理学者、ハンス・セリエ氏が1935年に用いたのが最初です。

すなわち、ストレスとは体外から加えられた各種の有害な原因に応じて体内に生じた障害と、これに対する防衛反応の総和と考えられています。つまり、体に悪い結果となる現象すべてを併せて、ストレスといいます。

ストレスを引き起こすもの(原因)を「ストレッサー」といいます。ストレッサーは、私たちのまわりにいくらでもあります。基本的には、人間の身体に対して、刺激となるあらゆる事物がストレッサーになりうるということです。大別すると、おおよそ4つに分けられます。

(1)物理的刺激

(2)化学的刺激

(3)生物学的刺激

(4)心理・社会学的刺激

私たちの身のまわりには、これらのストレッサーがたくさんあり、いろいろな形で複雑に作用しています。

(1)の物理的なものには、寒冷、暑熱、騒音などがあり、(2)の化学的なものには、お酒やたばこなどがあります。お酒やたばこでストレスを解消しようとしても、もともと強いストレッサーなので、かえってストレスは高まってしまうのです。細菌やウイルス感染は、(3)の生物学的なストレッサーです。

このようにストレッサーが心身にストレスをためると、いろいろな病気を引き起こすのですが、とりわけ(4)の心理・社会学的ストレッサーは、現代社会と深い関わりをもっています。

心身に起こるストレス反応

ヒトのこころや体のはたらきは、複雑に絡み合っていますが、これらは脳が中心となって調節しています。情動、内分泌、自律神経、免疫、運動、記憶、そのほかたくさんのはたらきがありますが、生体がストレッサーにさらされると、これらのはたらきが影響を受けることになります。ストレッサーに関する情報はすぐに脳に送られ、これまでに脳が獲得した経験、記憶、学習、さらに本能まで動員して、回避行動や体の防御反応など、さまざまな対応のしかたで影響を和らげるのです。

これがストレス反応ですが、ストレスの大きさは、そのストレッサーを受け取る側の状態によっても変わります。ストレッサーが、生体の適応力を超えるほど強力だと、心身に何らかの異常が起こってしまいます。逆に遺伝、経験、環境、生体の防御機構など生体側の機能が勝(まさ)っていれば、心身への影響は抑えられます。同じストレッサーでも、病気になる人とならない人がいるのはこのような背景があるからです。

精神面では、感情の揺れすべてがストレッサーになります。怒ったり、悲しんだりといった負の感情だけでなく、喜ぶ、楽しむといった一見ストレスには直結しないと思われる感情も、実はストレスの原因になります。

ストレッサーによる刺激は、大脳から視床下部へ、そして視床下部から自律神経系、内分泌系、免疫系へと伝わります。加わったストレッサーが生体に対して過剰でかつ長期にわたってあると、慢性疲労となり(図5)、心身にさまざまな症状が現れてきます(表8)。病気としては、かぜなどの感染症にかかりやすくなったり、胃・十二指腸潰瘍高血圧狭心症(きょうしんしょう)、気管支喘息(きかんしぜんそく)、過換気症候群(かかんきしょうこうぐん)、頭痛、自律神経失調症めまいなど、身体のさまざまな部位に障害が起こったりします。

ストレス原因の内容

厚生労働省の2000年保健福祉動向調査によると、何らかのストレスがある人について、その内容をみると、「仕事上のこと」31%が最も多く、「自分の健康・病気・介護」「収入・家計」「職場や学校での人付き合い」が続いています。性別でみると、男性は「仕事上のこと」が41%と際立って多く、女性は「自分の健康・病気・介護」「収入・家計」が25%を超えています。

年齢階級別にみると、24歳以下では、男女とも「職場や学校での人付き合い」が最も多くなっています。男性は、25~64歳までは「仕事上のこと」、65歳以上では「自分の健康・病気・介護」が最も多く、女性では、25~54歳までは「収入・家計」、55歳以上では「自分の健康・病気・介護」が最も多くなっています(図6)。

労働における負荷

最近のOA化などの技術革新も、ストレスを増強させる要因になっています。コンピュータ端末を長時間扱うと、眼の疲れ、肩こりなどの身体的ストレスを高める一方、OA化のテンポについていけない不安感、常時機械に対面しているための対人間的関係に対する枯渇感など、新たな心理的ストレスを増やしています。

脳・心臓疾患の労災認定

2010年、脳血管疾患および虚血性心疾患など(負傷に起因するものを除く)の労災認定基準が策定されました。脳・心臓疾患は、その発症の基礎となる動脈硬化、動脈瘤(りゅう)などの血管病変などが、主に加齢、不健康な生活習慣などの日常生活による諸要因や遺伝などにより形成され、それが徐々に進行および増悪し、あるとき突然に発症するものです。しかし、仕事がとくに過重であったために、血管病変などが著しく増悪し、その結果、脳・心臓疾患が発症することがあります。このような場合には、仕事がその発症にあたって、相対的に有力な原因となったものとして、労災補償の対象となります。対象疾患は表9のとおりです。

負荷要因として、(1)労働時間、(2)不規則な勤務、(3)拘束時間の長い勤務、(4)出張の多い業務、(5)交替制勤務・深夜勤務、(6)作業環境(温度環境・騒音・時差)、(7)精神的緊張を伴う業務、があります。(1)については、1週間あたり40時間を超えて労働した時間自体が、発症前1カ月間ないし6カ月間にわたって、1カ月あたりおおむね45時間を超える時間外労働、発症前1カ月間におおむね100時間または発症前2カ月間ないし6カ月間にわたって、1カ月当たりおおむね80時間を超える時間外労働は、十分な負荷要因として考慮されます。

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