病気事典[家庭の医学]
ぜんりつせんしっかん
前立腺疾患
前立腺疾患について解説します。
執筆者:
医療法人三誠会川口誠和病院泌尿器科 村山猛男
どのような状態か
前立腺は膀胱(ぼうこう)の出口に位置しています(図13)。壮年期はクルミ大の大きさですが、五十歳ころから次第に肥大して尿道を圧迫し排尿障害を生じるのが前立腺肥大症(ぜんりつせんひだいしょう)です。前立腺の肥大によって膀胱も過活動膀胱となり、頻尿(ひんにょう)(とくに夜間頻尿)となります。
一方、加齢により遺伝子の変化などが原因となって前立腺がんが発症します。年齢とともに発症頻度が高くなります。がんが内臓に広がると足にむくみが生じます。がんは骨に転移しやすく、腰椎(ようつい)に転移すると腰痛が生じ、転移によって腰椎骨折(病的骨折)を起こすと下半身が麻痺(まひ)します。
前立腺疾患が原因で尿路感染が生じます。急性尿路感染症では発熱、排尿痛、会陰部痛、頻尿などの症状が出ますが、慢性尿路感染症では症状は出ず、尿が混濁したり悪臭を発するようになります。
高齢者の排尿障害の原因として、薬剤も考えておく必要があります。表10に排尿に影響する代表的薬剤をあげます。
前立腺肥大症(ぜんりつせんひだいしょう)
高齢者での特殊事情
「尿の勢いが弱い」、「排尿に時間がかかる」、「排尿後に残尿感がある」、「頻尿」などの自覚症状を「国際前立腺症状スコア」という問診票で調べ、同時に排尿障害が日常生活(生活の質:QOL)に影響する程度も調べますが、高齢者では問診内容が十分理解できないことがあるので、評価は慎重を要します。
直腸診で前立腺を触り、前立腺がんかどうかと前立腺の大きさを調べます。排尿後の残尿量を計りますが、通常は超音波装置を用いて前立腺の大きさと同時に残尿量を計測します。また尿流測定をして尿の勢いを調べます。
治療とケアのポイント
治療は自覚症状と「生活の質」の状態、尿の勢いの程度、残尿量、前立腺の大きさを総合的に評価して「軽症」「中等症」「重症」に分けて決めます。
「軽症」では薬物療法を選択します。「中等症」以上で手術療法が適応されます。内視鏡手術(経尿道的前立腺切除術:TUR‐P)や開腹による前立腺摘除術が行われます。尿がまったく出ない尿閉状態や重篤な合併症で手術ができない場合は、管(カテーテル)で尿を出すようにします。長期の尿道カテーテル留置になると尿路感染や尿道出血・尿道損傷などが生じるので、カテーテル管理が重要となります。
前立腺(ぜんりつせん)がん
高齢者での特殊事情
高齢化に伴い、前立腺がんは男性では肺がんに次いで死亡率が高い病気です。血液検査で前立腺特異抗原(PSA)を測定することで、無症状での前立腺がんの早期発見ができるようになりました。
一般に数値が4ng/ml以上高値ならば前立腺がんを疑い、前立腺生検をして、がんかどうか病理診断をします。生検でがんが証明されると「グリソンスコア」でがんの悪性度が判定されます。
がんの広がりはコンピュータ断層撮影(CT)や磁気共鳴画像(MRI)検査で調べます。骨シンチグラフィーで骨転移の有無も検索します。これらの検査結果でがんの病期分類をします。
治療とケアのポイント
治療の選択は原則として病期分類に従って行われますが、悪性度も考慮します。高齢者では全身状態や家庭環境、経済的状況なども考える必要があります。80歳以上の高齢者で悪性度の低いがんに対しては積極的治療をせずに、定期的なPSA測定で経過をみる待機療法が選択されます。
積極的な治療としては抗男性ホルモン療法(内分泌療法)、手術療法(根治的前立腺全摘除術)、放射線療法などがあります。内分泌療法が広く行われていますが、根治的には手術療法を選択します。75歳以下で転移がなく、がんが前立腺内に限局している場合に適応となります。
近年、放射線療法は従来の外照射法の他に組織内照射法(小線源療法)も行われるようになりました。進行がんや内分泌療法が無効の内分泌抵抗性がんに対して最近、化学療法(かがくりょうほう)が導入され、また骨転移に対しても化学療法が行われ始めていますが、いずれの化学療法もいろいろな副作用があり、高齢者では十分な注意が必要です。手術療法では術後後遺症の尿失禁が問題で、失禁ケアが大切となります。
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