病気事典[家庭の医学]

ぜんりつせんがん

前立腺がん

前立腺がんについて解説します。

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どんな病気か

前立腺がんは、欧米では男性がんで罹患数の第1位、死亡数の約20%(肺がんに次いで第2位)を占める頻度の高いがんですが、日本では、男性罹患数は胃がん、肺がんに次いで第3位(2013年全国推計)、死亡数は膵臓がんに次いで6番目(2016年全国統計)です。

年齢別では、45歳以下ではまれですが、50歳以後その頻度は増え、60代では10万人あたり約300人、70歳以上で500人以上(2012年神奈川県)になります。このように、前立腺がんは高齢者のがんであるといえます。

今後日本では、食事の欧米化、高齢人口の増加、腫瘍(しゅよう)マーカーであるPSA(前立腺特異抗原(ぜんりつせんとくいこうげん))検査の普及に伴い、前立腺がんの患者は急速に増加し、2020~2024年には、年平均で前立腺がんの罹患数は105,800人となり、男性がんの第1位になると予想されています。

原因は何か

前立腺がんの原因は遺伝子の異常と考えられており、複数の原因遺伝子が同定されています。また、加齢と男性ホルモンの存在が影響しますが、いまだ明確ではありません。そのため、効果的な予防法も明らかではありません。

欧米での報告によると、肉やミルクなど脂肪分が多く含まれている食事を多く摂取することにより、前立腺がんの発生が増えると考えられています。一方、穀類や豆類など繊維を多く含む食事はがんの発生を抑える効果があると考えられています。ハワイや米国東海岸在住の日系人は日本人と米国人の中間の発生率であり、食事の欧米化が原因とする考えの根拠のひとつになっています。喫煙との関係を指摘する報告もあります。

前立腺がんは、遺伝の要素が強いがんのひとつと考えられているため、前立腺がんと診断された親族がいる場合、早め(40歳~)にPSA検査を受けることをおすすめします。

症状の現れ方

前立腺がんは前立腺の外腺の腺上皮から発生する率が高く、初期にはほとんど症状がありません。がんが大きくなって尿道が圧迫されると、尿が出にくい、尿の回数が多い、排尿後に尿が残った感じがする、夜間の尿の回数が多いなど、前立腺肥大症(ぜんりつせんひだいしょう)と同じ症状が現れます。

がんが尿道または膀胱に広がると、排尿の時の痛み、尿もれや肉眼でわかる血尿が認められ、さらに大きくなると尿が出なくなります(尿閉)。精嚢腺(せいのうせん)に広がると、精液が赤くなることがあります。さらにがんが進行すると、リンパ節や骨(脊椎(せきつい)や骨盤骨)に転移します。リンパ節に転移すると下肢のむくみ、骨に転移すると痛みや下半身麻痺(まひ)を起こすことがあります。

検査と診断

前立腺がんは早期では症状がないので、PSA検査で早めに診断することが大切です。PSA検査は血液検査だけの簡単な検査法です。前立腺がんの発見率は、カットオフ値4.0ng/mlで検診を受けると、50~54歳で0.09%、55~59歳で0.22%、60~64歳で0.42%、65~69歳で0.83%、70~74歳で1.25%、75~79歳で1.75%と報告されています。カットオフ値とは、この値を境に再検査や治療を始めるための数値です。

PSA値は、がんの進行とともに上昇し、診断から進展度(病気の進み具合)、治療効果の判定、再発の有無、予後までも予測することができます。しかし、PSA値があまり上昇しない前立腺がんも15~20%あるため注意が必要です。

そのほか、直腸診では前立腺がんは硬いしこりとして前立腺内に触れ、経直腸超音波診断では前立腺の変形、低エコー領域として認められます。最近は前立腺がんの早期発見の目的で、MRI検査、PET/CT検査も行われています。

これらの検査により前立腺がんが疑われたら、麻酔下に経直腸超音波検査で位置を確認しながら、前立腺の10カ所以上を針生検によって組織を採取し、がんの組織診断を行います。

組織診断では、悪性度(高分化:G1、グリソンスコア3+3=6、中分化:G2、グリソンスコア3+4 or 4+3=7、低分化:G3、グリソンスコア4+4=8以上)と進展度(限局がん:A、B、局所浸潤(きょくしょしんじゅん)がん:C、進行がん:D)を調べます(表3)。

前立腺がんの周囲への進み具合は、経直腸超音波検査、骨盤部のMRIによって調べます。全身のリンパ節転移は全身CT検査、PET/CT検査で、全身の骨転移については骨シンチグラフィが有用で、また最近は全身のMRI検査(DWIBS(ドゥイブス)法)の有用性が報告されています。

前立腺肥大症との区別

早い段階では、前立腺肥大症と前立腺がんに症状の差はありません。どちらも、血尿や尿が出にくくなるなどの症状が現れます。前立腺肥大症ではどんなに進んでも、骨の痛み、下肢のむくみなどはみられません。直腸診では、前立腺肥大症は、弾力性のある腫大(はれて大きくなる)した表面が平滑な腫瘤(しゅりゅう)として触れますが、がんでは、硬いしこりを触れます。PSA値は、前立腺がんのほうが高値を示します。最終的には、前立腺の針生検を行って診断します。

治療の方法

まず、がんの進み具合や悪性度別の治療方針について説明し、そのあとで各治療法について述べます。

(1)進展度、悪性度別の治療表4

a.高分化がん(G1、グリソンスコア3+3=6)

限局がんの場合は前立腺全摘出術(全摘)、小線源(しょうせんげん)療法(放射線療法)が第一選択ですが、内分泌療法も有効なので、どれを選択しても生命予後には影響しません。限局がんでもさらに初期の場合は無治療、厳重な経過観察も選択可能です。

b.中分化がん(G2、グリソンスコア3+4 or 4+3=7)

限局がんの場合は、全摘あるいは小線源療法、外照射(がいしょうしゃ)療法(放射線療法)が第一選択です。内分泌療法をまず行い、再度生検で効果を確認したあとで治療法を選択することも可能です。局所浸潤がんの場合は、内分泌療法後に放射線療法を行うのが一般的です。進行がんの場合は内分泌療法が第一選択です。

c.低分化がん(G3、グリソンスコア4+4=8以上)

限局がんの場合は、全摘が絶対的適応です。局所浸潤がんでは、内分泌療法と抗がん薬療法を行い、さらに放射線療法を併用します。進行がんでは、内分泌療法、放射線療法、抗がん薬療法を併用しますが、予後は不良です。

75歳以上の高齢者では、前立腺の全摘の代わりに、放射線療法を選択するのが一般的です。このように悪性度、進展度、患者さんの状態によりさまざまな治療法の選択肢がある一方で、どれを選んだらよいか迷う場合があります。この場合、セカンドオピニオンといって他の専門医の診察を受け意見を求めることもできます。

(2)主な治療法と副作用

a.内分泌(ホルモン)療法表5

前立腺がんの多くは、精巣および副腎から分泌される男性ホルモンの影響を受けて増殖します。男性ホルモンの作用を低下させることを目的として、「LH‐RH(GnRH)アゴニスト」製剤(リュープリン、ゾラデックス)あるいは「LH‐RH(GnRH)アンタゴニスト」製剤(ゴナックス)を皮下注射する方法が一般的です。中止すると男性ホルモンは元にもどります。精巣(せいそう)摘出術(去勢術)では同じ効果が一生続きます。最近では、これらに抗男性ホルモン薬を加えたMAB療法が一般的です。

・抗男性ホルモン薬……男性ホルモンがその受容体(AR)に結合するのを抑制して、男性ホルモンが血中にあってもその作用が起こらないようにする薬です。ビカルタミド(カソデックス)、フルタミド(オダイン)、クロルマジノン(プロスタール)そして、新規薬剤としてエンザルタミド(イクスタンジ)があります。

内分泌療法を続けると、いわゆる更年期障害が現れ、発汗異常、性欲の減退が認められます。内分泌療法としては、かつては女性ホルモン薬のエストラサイト、プロセキソールなども使われましたが、電解質の代謝異常、心電図の異常、肝機能障害、性欲の減退、女性化乳房などの副作用が起こることがあり、現在はほとんど使用されません。

b.外科療法(前立腺全摘出術)

がんが前立腺内に限られている時、手術により精嚢腺を含む前立腺全体を摘出してがんを取り除く方法です。下腹部を切開して行う開腹手術に、最近は腹腔鏡による治療法やさらにロボット支援下手術も行われています。入院期間は約2週間で、原則として開腹手術では輸血に備えて自己血貯血(ちょけつ)を行いますが、腹腔鏡、ロボット支援下手術では不要となりました。合併症には、尿失禁、勃起不全(ぼっきふぜん)などがあります。

c.放射線療法

高エネルギーの放射線を使ってがん細胞を殺す方法です。近年、放射線治療技術が進歩し、陽子線や重粒子線を使用したり、IMRT(強度変調放射線治療)や3D(三次元原体照射)の使用で副作用を減らし、治療効果の改善が得られています。

また、これまでの外照射療法のほかに、小線源療法といって前立腺に放射線を出す小線源(ヨウ素125)を埋め込む方法(組織内照射療法)があります。副作用は、排尿痛、血尿、直腸からの出血などがみられます。

d.化学療法(抗がん薬)

内分泌療法が効きにくい低分化がんや、再発・再燃した時に行う治療法です。抗がん薬として現在は一般的にドセタキセル(タキソテール)、そして新規薬剤としてカバジタキセル(ジェブタナ)が使用され、一定の効果が認められていますが、効果が続く期間が短いという欠点があります。副作用としては、手足のしびれ、骨髄機能の低下などがあります。

e.その他の治療法

・アビラテロン酢酸エステル(内服薬:ザイティガ)療法……副腎由来の男性ホルモンを遮断(CYP17阻害)する新しいタイプの内分泌治療薬で、原則としてステロイド薬のプレドニゾロン(プレドニンなど)との併用で使われます。

・塩化ラジウム(223Ra注射薬:ゾーフィゴ)療法……骨転移に対する新しい放射線同位元素を用いた治療法です

・ビスホスフォネート製剤……もともと高カルシウム血症の治療に使われていた薬ですが、前立腺がんの骨転移の痛み、骨折の軽減などに有効なことがわかってきました。点滴で投与します。

・ストロンチウム療法……ストロンチウムが体内でカルシウムと同じはたらきをすることから、ストロンチウムの放射性同位元素を投与して、骨転移の痛みを和らげる治療です。放射性物質のため治療のできる施設が限られます。骨髄機能が低下する可能性があります。

(3)再発と再燃

治療によりいったん低下したPSA値が再び上昇したり、局所の再発、リンパ節または他臓器に新たに転移がみられた場合、再発といいます。最初から進行がんと診断され、内分泌療法を中心に治療し、いったん低下したPSA値が再び上昇した場合を再燃(去勢抵抗性前立腺がん:CRPC)といいます。再発・再燃に対する標準的な治療法はまだ定まっていません。どのがんもそうですが、再発あるいは再燃したら根治治療は難しいのが現状です。

(4)治療成績と予後

前立腺がんは早期発見例が増加したことと、内分泌療法が有効なため、他のがんと比べると治療成績と予後は比較的よいがんといえます。

5年生存率は、限局がんでは90%以上、局所浸潤がんで70~80%、進行がんで40~50%です。とくに、限局がんでも高分化、中分化がんでは5年生存率は100%近くになります。最新の情報はインターネットなどで得られます。

病気に気づいたらどうする

一般開業医あるいは検診センターでPSA検査を受けてください。PSA検査を継続的に受けることで、前立腺がんの死亡率が低下することが報告されています。PSA検査の結果が4ng/ml以上だったら、泌尿器科専門医の診察を受けてください。PSA値が4~10ng/mlをグレーゾーンといい、針生検で20~30%の割合でがんが発見されます。PSA値が10ng/ml以上だったら、針生検を受けることをすすめます。

生活での注意は、脂肪の多い食事はひかえ、繊維、穀物、豆類を多くとり、運動をして太らないようにします。もちろん禁煙です。

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