病気事典[家庭の医学]

はんかいしんけいまひ

反回神経麻痺

反回神経麻痺について解説します。

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どんな病気か

発声時には左右の声帯が中央方向に近寄って気道が狭まるので、呼気により声帯が振動して声が出ます。また嚥下(えんげ)時には、嚥下したものが気管に入り込まないように左右の声帯は強く接触して気道を完全に閉鎖します。反回神経麻痺によりこのような声帯の運動性が障害された結果、息もれするような声がれや、誤嚥(ごえん)、むせるといった症状が起こります。

また、両側の反回神経が障害されて左右の声帯が中央付近で麻痺して動かなくなると、気道が狭くなるため呼吸困難や喘鳴(ぜんめい)(ぜーぜーした呼吸音)が起こります。

原因は何か

声帯を動かす神経(反回神経)は脳幹から枝分かれして頭蓋内から下降してきますが、一度そのまま声帯の横を素通りし、胸郭(きょうかく)内に入り、左側では大動脈弓、右側では鎖骨(さこつ)下動脈の部分で折れ返り、食道の両脇をたどって上行し、甲状腺の裏側を通ったあとに声帯の筋肉を支配するという独特の走行をしています。このため、その経路のどこで障害が起こっても反回神経麻痺が発生します。

脳幹付近では頸静脈孔(けいじょうみゃくこう)腫瘍、頸部では甲状腺腫瘍、胸部では肺がん食道がん縦隔(じゅうかく)腫瘍乳がんなどの縦隔リンパ節転移、弓部大動脈瘤(りゅう)などによって、反回神経麻痺が起こります。

症状の現れ方

前記の原因疾患の治療後、たとえば腫瘍が反回神経周囲に浸潤したため神経を合併切除した、もしくは術後の局所の浮腫や循環障害などにより麻痺が発生する場合もありますが、声がれが初発症状で発見されることもあります。したがって、反回神経麻痺と診断された場合には、原因を徹底的に検索する必要があります。

また、気管内挿管による局所の循環障害によっても生じることがあります。脳幹付近の障害では、舌咽(ぜついん)神経や副神経などの他の脳神経が近くを走行しているので、声がれやむせなどのほかに、声が鼻にもれる、飲み込んだ時に鼻へ逆流してくる(舌咽神経麻痺の症状)、肩が痛い、肩が上がりにくい(副神経の症状)などの症状が合併して起こります。

検査と診断

ファイバースコープにより声帯の動きを観察することでわかります。その原因が特定できない場合には、頸部、胸部のX線検査やCT、食道造影、上部消化管内視鏡検査などを行います。

外傷や気管内挿管後に生じた声がれでは、声帯の軟骨(披裂(ひれつ)軟骨)が脱臼している場合があります。この場合、ファイバースコープでは反回神経麻痺と区別がつかないことがあり、筋電図や発声時のX線透視検査を行って鑑別します。筋電図は、麻痺の程度や回復の見込みを判断するうえでも極めて有用です。

治療の方法

通常、麻痺の発症から6カ月経過しても症状の改善がない場合は、機能改善手術を行います。誤嚥などの症状が強い場合には、その時期を早めることもあります。

手術には、麻痺した声帯にコラーゲンや脂肪を注入してふくらませる方法と、頸部を切開してシリコン板を挿入するか、声帯を動かす軟骨や筋肉を牽引(けんいん)する方法があります。コラーゲンや脂肪の注入術では、そのあとに注入した物質が吸収される可能性があり、繰り返しの治療が必要な場合があります。外切開による方法では、局所麻酔下に発声させながら、どのくらいまで声の改善が得られるかを確認しながら手術するので、確実性と安定性があります。また、皮膚を美容的に縫合すれば傷もほとんど残りません。

発声時の左右の声帯のすきまが小さい場合は、音声訓練が有効なこともあります。両側反回神経麻痺による気道狭窄(きょうさく)に対しては、気管切開、片側声帯の外方牽引術などが行われます。

病気に気づいたらどうする

すみやかに専門医の診察を受け、原因を検索します。原因が見つかったら、その治療を優先し、それがある程度終了した時点で反回神経麻痺の治療を受けることになります。

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