病気事典[家庭の医学]
けっかんえんしょうこうぐん
血管炎症候群
血管炎症候群について解説します。
執筆者:
順天堂大学医学部附属順天堂越谷病院内科先任准教授
小林茂人
どんな病気か
血管炎を原因とした多種多様の臨床症状ないし疾患群を総称して、血管炎症候群といいます。原疾患が血管炎である場合に「原発性血管炎」といい、膠原病(こうげんびょう)などの他の疾患に血管炎が合併した場合には「続発性血管炎」と呼ばれます。
罹患(りかん)した血管の口径の太さや抗好中球(こうちゅうきゅう)細胞質抗体(ANCA)の有無などの観点から血管炎が分類されています。
症状の現れ方
血管炎の一般的な症状は、発熱、体重の減少、関節痛・筋肉痛、倦怠感(けんたいかん)、高血圧などの全身症状です。検査所見は白血球数増加、CRP高値、赤沈亢進など非特異的炎症所見(この病気に特有ではない所見)を示します。
また、さまざまな症状を示すため、感染症、悪性リンパ腫、他の膠原病などと区別が難しいこともあります。
検査と診断
確定診断には、画像診断(血管造影)や生検による所見が重要です。血管炎は一般的に罹患血管が支配する臓器の虚血(きょけつ)を起こすため、腎、肺、脳、心などの重要な臓器障害を起こし、生命維持に関わる危険性があります。
また、急性期を脱しても腎不全や多発性単神経炎などの後遺症を残す可能性があります。さらに、再発が多いことも知られています。このため、早期発見・早期治療が必要です。
治療の方法
治療はステロイドを中心とした免疫抑制療法のため、治療中に感染症、脊椎(せきつい)圧迫骨折、糖尿病、脂質異常症(高脂血症)、高血圧などの合併症が起こる可能性もあります。
以下、代表的な血管炎について解説をしていきます。
高安動脈炎(たかやすどうみゃくえん)
どんな病気か
1908年に眼科医の高安右人によって報告された病気で、大動脈炎症候群ともいわれます。大動脈およびその分枝の血管が損なわれます。このためさまざまな症状が現れます。日本、東南アジアに多く、20~50歳の女性に多い(男女比1対9)ことが特徴です。
原因は何か
原因はわかりませんが、女性ホルモン、ウイルス、遺伝要因(HLA‐B52、B39)などが考えられています。
症状の現れ方
発熱、めまい、失神発作、頸部痛(けいぶつう)、脈拍が触れにくくなる、血圧の左右差、間欠性跛行(かんけつせいはこう)(片足が正常に動かず、引きずるようにして歩く)などの症状があります。
検査と診断
臨床症状および血液検査の所見から診断します。診断の確定は画像診断(血管造影、シンチグラフィ、CT、MRA)などによって行います。
治療の方法
副腎皮質ステロイドであるプレドニゾロン20~30㎎/日から治療を始め、徐々に減らしていきます。抗血小板療法を併用することもあります。外科的には、血管再建術、大動脈弁置換術(ちかんじゅつ)、動脈瘤置換術などが行われます。予後は改善し、5年生存率は90%前後です。
側頭動脈炎(そくとうどうみゃくえん)
どんな病気か
60歳以上の高齢者に多い中・大型動脈の血管炎です。「巨細胞性(きょさいぼうせい)動脈炎」とも呼ばれています。
原因は何か
原因は不明です。白人に多くみられ、人種差があります。
症状の現れ方
発熱、体重減少、倦怠感などの全身症状と、頭痛、頸部・肩甲部痛、顎関節の疲れ、視力障害が現れます。頭痛は圧痛(押すと痛む)があり、拍動性で、片側が多く、有痛性の側頭動脈を触れます。また、視力障害、失明(約10~20%)にも注意が必要です。「リウマチ性多発筋痛症」は本疾患の亜型です。
検査と診断
年齢や先述の症状と、採血でCRPや赤沈が高値であり、他の疾患が否定された場合、側頭動脈の生検が重要です。側頭動脈の病変がない亜型が報告され、大動脈から大腿動脈までのCT(コンピュータ断層撮影)やMR(磁気共鳴画像)による血管造影をすすめます。FDP‐PET/CTが検査感染症や悪性腫瘍との鑑別にも有用です。
治療の方法
ステロイドを1日30~40㎎内服し、症状や検査所見が改善すれば漸減・中止します。視力障害は早期に生じ、失明の可能性が高いため、眼科を受診し、ステロイド・パルス療法を行うことが重要です。抗血小板・抗凝固薬の内服もすすめられます。
病気に気づいたらどうする
初期は失明を避けることが重要で、まず眼科を受診し、それから内科(膠原病内科)を受診してください。その後は、ステロイドによる合併症を予防することが大切です。
ANCA関連血管炎(エーエヌシーエーかんれんけっかんえん)
顕微鏡的多発血管炎(MPA)、ウェゲナー肉芽腫症(にくげしゅしょう)(WG)、アレルギー性肉芽腫性血管炎(AGA)では、血清中に好中球(こうちゅうきゅう)に対する自己抗体である抗好中球細胞質抗体(ANCA)が検出されます。後述するこれらの病気を総称してANCA関連血管炎と呼びます。
ANCAには、好中球のミエロペロキシダーゼ(MPO)などに反応するP‐ANCAと、プロテイネース3(PR‐3)に反応するC‐ANCAがあります。前者は主にMPA、AGA、後者はWGの患者さんの血清中に検出されます。
一般的にANCAの値はこれらの血管炎の活動期には高く、治療後には低くなります。このため、ANCAは血管炎の診断や治療効果の判定に重要です。
結節性多発動脈炎(けっせつせいたはつどうみゃくえん)・顕微鏡的多発血管炎(けんびきょうてきたはつけっかんえん)
どんな病気か
結節性多発動脈炎(PN)は、主に中等度の太さ(中型)の動脈の動脈壁に炎症が生じる病気です。全身の諸臓器に分布する血管に動脈炎が生じるため、多様な症状を示します。
新しく顕微鏡的多発血管炎(MPA)が分類されたことから、一般に抗好中球(こうちゅうきゅう)細胞質抗体(ANCA)陰性で中型の動脈炎を生じるものを古典的多発動脈炎(cPN)といい、ANCA陽性で中・小型動脈から静脈までの血管炎を生じるものをMPAと分類します。
原因は何か
原因はわかりません。男性にやや多く、MPAは高齢者に多く認められます。ウイルス感染や大気汚染などが考えられています。
症状の現れ方
cPN・MPAともに高熱(38℃以上)、体重の減少、関節痛、紫斑(しはん)、皮膚の潰瘍、貧血、胸痛、腹痛、血痰(けったん)、高血圧、脳出血・脳梗塞(のうこうそく)、腎機能の低下、血尿・蛋白陽性・潜血(せんけつ)反応陽性などが認められます。重い症状として、MPAでは腎機能の低下、腸出血、肺出血があります。
検査と診断
ANCAの検索、皮膚・筋肉などの生検、血管造影が診断に重要です。区別すべき病気は、他の血管炎および膠原病です。
治療の方法
cPN・MPAともに入院し、大量のステロイドで治療を開始し、以後、薬の量を減らしていきます。同時に免疫抑制薬のシクロホスファミド(エンドキサン)を約6カ月間服用します。腎不全時には、血液透析(とうせき)を受けます。
cPN・MPAともに診断6カ月未満の死亡率が高くなっています。10年間の死亡率は研究班の報告ではそれぞれ52%、41%で、予後は決してよいとはいえません。感染症、肺出血、腎不全が主な死亡原因です。
病気に気づいたらどうする
生命や臓器不全の危険性があるので、専門医の意見を聞き、入院治療を受けることが重要です。早期診断・早期治療が望まれます。膠原病(こうげんびょう)内科、腎臓内科などを受診してください。さまざまな病態・症状のため専門医による指導を守ることが大切です。なお、この疾患は、国の特定疾患(難病)に指定されています。
アレルギー性肉芽腫性血管炎(せいにくげしゅせいけっかんえん) (Churg-Strauss症候群(しょうこうぐん))
どんな病気か
気管支喘息などのアレルギー性の病気があり、好酸球が増えて発症する血管炎です。
原因は何か
原因は不明ですが、アレルギーが関与していると考えられています。
検査と診断
好酸球が白血球数の10%以上で、MPO‐ANCAは約半数が陽性です。胸部Ⅹ線では、一過性・移動性の新しい肺浸潤像がみられます。(1)気管支喘息、(2)好酸球の増多、(3)血管炎症状と生検組織所見(細小血管に著しい好酸球の浸潤を伴う肉芽腫性・フィブリノイド壊死性血管炎)によって診断されます。
治療の方法
ステロイド・パルス療法や高用量のステロイドの服用が必要です。免疫抑制剤の併用はステロイドを減量することができるため必要です。
最近、ガンマグロブリンの大量治療が保険適用になりました。
病気に気づいたらどうする
呼吸器内科、膠原病内科など受診し、診断・治療することが大切です。
ウェゲナー肉芽腫症(にくげしゅしょう)
どんな病気か
鼻と肺の肉芽腫、壊死性(えしせい)半月体糸球体腎炎が認められる全身の血管炎です。1939年にドイツのウェゲナーによって報告されました。略称でWGと呼ばれています。
原因は何か
免疫の異常および上気道感染やブドウ球菌の関与などが考えられていますが、原因はわかりません。
症状の現れ方
発熱、全身倦怠感(けんたいかん)、食欲不振などの炎症症状と、(1)鼻、眼、耳、咽喉頭などの上気道、(2)肺、(3)腎の3つの臓器の炎症による症状が順次、または同時に起こります。
検査と診断
血清中のC(PR‐3)‐ANCA(抗好中球(こうちゅうきゅう)細胞質抗体)が陽性であること、組織の生検で肉芽腫性血管炎が証明されること、および臨床症状で診断されます。ANCAが陰性であること、典型的な組織所見が得られないことも多く報告されています。
治療の方法
早期発見・早期治療が重要です。初期に、免疫抑制薬(シクロホスファミド:エンドキサン、アザチオプリン:イムラン)、副腎皮質ステロイドを主体とする免疫抑制療法を行うことにより、病気を落ち着いた状態(寛解(かんかい))へ導くことが可能です。その際、「全身型WG」と「限局型WG」で、使用する免疫抑制薬の量を調整して治療します。日本では「限局型WG」が多いので注意する必要があります。
厚生労働省研究班の報告では、10年間での死亡率は21%です。治療法の向上から死亡率の低下が認められています。
病気に気づいたらどうする
専門医(耳鼻科、膠原病内科、腎臓内科)の指示に従い、治療を行うことをすすめます。上気道の細菌感染症に対する対策が重要です。
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情報提供元 :
(C)株式会社 法研
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