病気事典[家庭の医学]

へんけいせいせきついしょう

変形性脊椎症

変形性脊椎症について解説します。

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変形性頸椎症(へんけいせいけいついしょう)と頸椎症性脊髄症(けいついしょうせいせきずいしょう)・神経根症(しんけいこんしょう)

(1)変形性頸椎症

成人の頭は5~7㎏と重く、これに加えて両側の上肢の重さも頸椎にかかり、頸椎は寝ている時以外はかなり大きな負担を強いられることになります。変形性頸椎症はこうした負担に耐えている頸椎が、徐々に傷んでくる状態です。

頸椎では、早い人は30代から徐々に椎間板がつぶれてきたり、前後左右に張り出してきたりします。椎間板はクッションの役割を果たしているので、これが減ってくると、次は椎体(積み重なっている円筒状の骨の部分)が余分に硬くなったり(骨硬化)、棘(とげ)のような骨の出っ張り(骨棘(こっきょく))が出てきたりします。また、脊髄の後ろ側にある上下の骨をつなぐ靭帯(じんたい)(黄色靭帯)が厚くなることもあります。これらをまとめて変形性変化と呼んでいます。

頸椎が変形性変化を起こすこと自体は、自然な加齢に伴う変化です。しかし、これに伴い頸部の痛みや肩こりが起こることがあります。こうした症状が続く時は、整形外科でX線検査をするとよいでしょう。X線写真では、変形性変化の進み具合がわかります。

治療は、温熱療法や牽引(けんいん)療法などの理学療法、消炎鎮痛薬や筋弛緩薬(きんしかんやく)などの薬物療法を主に行います。

(2)頸椎症性脊髄症(けいついしょうせいせきずいしょう)と頸椎症性神経根症(けいついしょうせいしんけいこんしょう)

変形性頸椎症に伴い、張り出した椎間板や骨棘、肥厚した黄色靭帯によって、神経が圧迫されて症状が出ることがあります。脊髄が圧迫される場合を頸椎症性脊髄症、神経根(脊髄から出る神経の枝)が圧迫される場合を頸椎症性神経根症といいます。

頸椎のレベルで脊髄が圧迫されると、手がしびれる、字を書いたりはしを使ったりという手の細かい動作がうまくできない、歩く時にふらつく、足がしびれるといった症状がみられます。進行すると手足の知覚が鈍くなったり、ふらついて歩けなくなったり、膀胱の障害が現れることもあります。また、神経根の圧迫では、肩から手にかけて痛む、手がしびれたり知覚が鈍くなる、手の力が入りにくくなるといった症状が出ます。

こうした症状が出た場合に整形外科では、症状や神経所見を確認し、X線とMRI検査を行い、脊髄や神経根への圧迫の有無を調べます。

神経根症の治療

脊髄症と神経根症とでは、治療法はやや違います。

神経根症は治療をしなくても治る傾向があります。内服薬としてはビタミンB12剤などを使いますが、効果は高くありません。頸椎の牽引は神経根の出口である椎間孔(ついかんこう)を広くする効果があり、症状の改善につながります。また、頸椎カラーで頸部の安静を保つことも有効です。症状が強い場合、手術を行うこともありますが、多くは保存療法で改善します。とくに高齢者の場合は手術については慎重に検討します。

脊髄症の治療

脊髄症の場合は、自然経過での改善はあまり期待できません。脊髄は脳と同じで神経細胞と神経線維の両方があるため、一度傷んでしまうと改善しにくい性質があります。ですから、脊髄症が原因で手が思うように動かない、ふらついて歩けないなどの症状が生じた場合は、できるだけ早期に治療を始める必要があります。

頸椎の牽引はあまり効果がありませんが、頸椎カラーは1カ月ほど装着すると症状が改善することが多くあります。一方、薬剤はあまり効果がありません。症状が6カ月以上続くと改善の見込みが低くなります。したがって、歩行困難や膀胱障害などの強い症状が出る場合や、急激に症状が進んでいく場合などは、早めの手術がすすめられます。手術は、脊髄の通り道を広くする脊柱管拡大術がよく行われています。

ほかに頸椎で神経の圧迫を来す疾患には、頸椎椎間板(けいついついかんばん)ヘルニア後縦靭帯骨化症(こうじゅうじんたいこつかしょう)などがあります。

変形性腰椎症(へんけいせいようついしょう)と腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)

(1)変形性腰椎症

変形性腰椎症は、加齢とともに進む腰椎の変形性変化で、頸椎と同じように、椎間板が傷んできて、椎体が硬くなり、骨棘ができます。進行の程度には個人差があり、症状の出方もさまざまです。痛みは、長距離歩行時、長時間同一姿勢をとっていた時、転んだり重い物を持ったあとなどに起こることが一般的です。こうした負担の直後に痛むこともありますが、高齢者の場合は2~5日くらいたってから痛むこともよくあります。

通常、安静だけで徐々に改善しますが、痛みが強い場合やなかなか改善しない場合は、病院での診察がすすめられます。病院ではX線などの検査をして、感染症や腫瘍などほかの病気がないことを確かめます。また、神経圧迫の症状がないかを確かめて、温熱療法などの理学療法、コルセット、消炎鎮痛薬や筋弛緩薬などの内服、外用などが治療に用いられます。

慢性の痛みには、減量、腹筋や背筋の強化、腰や下肢のストレッチも有効です。変形性腰椎症では、手術をすることはありません。

(2)腰部脊柱管狭窄症

変形性腰椎症の結果、脊髄からつながる腰椎レベルでの神経(神経線維の束で、馬の尻尾のようなので馬尾(ばび)と呼ぶ)や神経根の圧迫による腰痛や下肢の痛みや神経症状が現れることがあり、これを腰部脊柱管狭窄症といいます。

腰部脊柱管狭窄症の症状は、間欠性跛行(かんけつせいはこう)、両下肢のしびれ、冷感、知覚鈍麻(ちかくどんま)、筋力の低下、膀胱の障害などです。間欠性跛行は腰部脊柱管狭窄症の典型的な症状で、決まった時間の歩行で下肢痛を生じ、少し休むとまた歩き始められる、というものです。

間欠性跛行は、閉塞性動脈硬化症(へいそくせいどうみゃくこうかしょう)(動脈硬化で下肢への血流が悪くなった状態)でも現れますが、腰部脊柱管狭窄症の場合では次のような特徴があります。

(1)下肢の筋力低下や知覚鈍麻を伴う。

(2)前傾姿勢での歩行や、自転車であれば痛みを生じない。

(3)疼痛出現後の休憩時間が数分間と短い。

(4)前屈位(ぜんくつい)や、しゃがみこんだ状態での休息がとくに効果的である。

日常生活では、重い物を急に持ち上げない、中腰の姿勢は避ける、物を持つ時はできるだけ体幹に近づけて持つ、腰部を冷やさない、無理に長距離歩行や長時間の立ち仕事をしないなどの注意が必要です。

こうした症状に対して病院では、神経症状の確認、X線撮影、MRI撮影などを行い、神経症状の有無や程度、画像上の神経圧迫の有無を確かめます。

腰部脊柱管狭窄症の治療は、神経の血行をよくするプロスタグランジン製剤やビタミンB12剤の内服、ブロック注射(腰やその周辺の神経の通り道への局所麻酔薬の注射)、消炎鎮痛薬などです。

また、強い神経症状、すなわち知覚の完全麻痺、下垂足(かすいそく)(足首がまったく反らない状態)、尿閉(にょうへい)(尿がまったく出ない状態)や失禁などの強い膀胱障害が出た場合は、すぐに手術をする必要があります。時間がたつと手術で神経の圧迫を取り除いても、神経症状が治らないことがあるからです。

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