病気事典[家庭の医学]
下痢がある
執筆者: 昭和大学横浜市北部病院院長 田口 進
便・排便の異常
正常な便は、黄色から褐色がかった色調で、粘液や血液などが付着していない半ねり状の塊です。心身の何らかの異常により腸に障害が起こると便は様相を変え、泥のような・水のような下痢便になったり、硬くて十分に量が出ない便秘になったりします。
色や形なども異常を知らせるサインです。赤、黒、白などの色の便が出ているなら要注意。一度、きちんと調べてもらってください。
下痢から考えられる主な病気
主な症状と、付随する症状から、疑われる病気を調べることができます。
病気名を選択すると、その病気の解説へ遷移します。
症状 | 疑われる病気名 | |||
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急性 | 腹痛あり | 腸炎ビブリオ食中毒 、 黄色ブドウ球菌食中毒 、 サルモネラ食中毒 、 カンピロバクター食中毒 、 病原性大腸菌食中毒 、 ウエルシュ菌食中毒 、 ボツリヌス食中毒 | ||
とくに左下腹部痛、新鮮血の下血 | 虚血性大腸炎 | |||
ペニシリン系抗生物質服用後、トマトジュースのような下痢(血性下痢) | 出血性腸炎 | |||
発熱、全身倦怠感、食欲不振、黄疸、茶褐色の尿、白っぽい便 | A型急性肝炎 | |||
吐き気、嘔吐 | 細菌性赤痢 、 クリプトスポリジウム症 | |||
脂肪便、胆嚢炎様の症状 | ジアルジア症 | |||
腹痛なし | 嘔吐、米のとぎ汁様の便 | コレラ 、 ロタウイルス下痢症 | ||
嘔吐、発熱、呼吸器症状 | ノロウイルス感染症 | |||
慢性 | 腹痛あり | 血便・粘血便 | 潰瘍性大腸炎 | |
痔瘻、肛門周囲膿瘍 | クローン病 | |||
体表部の骨腫・軟部腫瘍 | 家族性大腸腺腫症 | |||
便が細くなる、残便感、便秘、貧血 | 大腸がん | |||
便秘 | ウサギの糞のような便 | 過敏性腸症候群 | ||
腹部膨満感、時に発熱、血便 | 大腸憩室症 | |||
脂肪便 | 顔面・下肢などのむくみ | 蛋白漏出性胃腸症 | ||
体重減少、むくみ、全身倦怠感、貧血、けいれん | 吸収不良症候群 | |||
黄疸、右上腹部痛、肝臓の圧痛、食欲不振、嘔吐 | アルコール性肝障害 | |||
腹痛なし | 顔面・手足など日光にあたる部分の皮膚炎、認知症、不安 | ニコチン酸欠乏症 | ||
色黒、全身倦怠感、脱力感、体重減少、下痢、低血圧、不安感 | アジソン病 | |||
レイノー現象、皮膚が硬くなる、嚥下障害、咳、息切れ、関節痛 | 全身性強皮症 | |||
倦怠感、めまい、動悸、頭痛、息切れ、肩こり、下痢 | 本態性低血圧症 | |||
慢性的な不安・緊張・イライラ、頭痛、肩こり、動悸、不眠 | 全般性不安障害 |
- [ご利用上の注意]
- 一般的な医学知識の情報を提供するもので、皆様の症状に関する個別の診断を行うものではありません。気になる症状のある方は、医療機関にご相談ください。
下痢
下痢とは、便に含まれる水分量が多くなり、本来の固形状の形を失って泥や水のようになった状態を指します。一般に排便の回数が増えますが、回数は関係なく、たとえ1日1回でもその便が泥や水のようなら下痢と判断します。
下痢は、腸の運動が正常より高まったり、腸内で十分に水分が吸収されなかったり、水分や分泌液が多すぎたりすると起こります。
下痢は、急性下痢と慢性下痢に分けられ、成人の場合でふつう3週間以上続く下痢を慢性下痢と呼んでいます。急性、慢性ともに、さらに感染性下痢と非感染性下痢に分けられます。
急性下痢
急性の感染性下痢は、細菌やウイルス、寄生虫などによって起こります。厚生労働省の統計によると、2009年の食中毒の原因として最も多かったのはノロウイルスで、食中毒患者総数20249人のうち1万874人と半数強を占めています。次いで多かったのはカンピロバクターという細菌で2206人でした。
ノロウイルス感染症は感染性胃腸炎のひとつで、特に冬期に多く発症します。潜伏期間は24~48時間で、主な症状は吐き気、嘔吐、下痢、腹痛で、通常、数日で治ります。最近、食品取扱者からの食品の汚染、施設内でのヒトからヒトへの感染が増えています。感染原因となる食品で知られているのは、ノロウイルスに汚染された二枚貝がありますが、十分に加熱すれば感染は起こしません。
一方、非感染性の急性下痢は、暴飲暴食やお酒の飲みすぎ、寝冷え、寒さ・暑さ、毒物や薬物、食物アレルギー、神経症などによって起こります。
急性下痢が起こっても随伴する症状もなく2~3日で治るならとくに問題ありませんが、ほかに症状があるなら医療機関を受診し、原因を調べてもらうようにしてください。
慢性下痢
慢性の下痢は、細菌やウイルスなどによる感染性の場合もありますが、そのほとんどは非感染性で、消化器とくに小腸や大腸の病気によって発症します。
現在、発症率が増加して危惧されているものに、潰瘍性大腸炎(かいようせいだいちょうえん)とクローン病があり、消化器系の病気のなかで難病中の難病といわれています。どちらも原因は不明で、若い人に多く発症します。潰瘍性大腸炎は、病変が大腸だけに発生しますが、クローン病は口腔から肛門までの消化管のあらゆる部位に発生します。
潰瘍性大腸炎の主な症状は、下痢、血便、粘血便、腹痛、悪化すると体重減少や貧血、発熱がみられます。クローン病は下痢、腹痛、体重減少、全身倦怠感(けんたいかん)がよくみられ、血便はあまりはっきりしないこともあります。この2つは病態が似ているため、まとめて非特異性炎症性腸疾患とも呼ばれます。
慢性の下痢は、しばしば精神的なストレスによっても起こります。過敏性腸症候群(かびんせいちょうしょうこうぐん)は腸自体には障害はないのですが、腹痛とともに突然、下痢が起こります。
通勤電車のなかや会議中など緊張している時に急に便意を催すことが多く、ひどくなると不安感が増して電車に乗ることができなくなるなど日常生活に支障を来すこともあります。
ちなみに過敏性腸症候群は、下痢型、便秘型、交代型に分類されます。便秘型ではウサギの糞のように便がコロコロになり、排便が困難になります。交代型は下痢と便秘を交互に繰り返します。日本を含む先進国に多い病気で、日本では消化器系を受診する人の約3分の1を占めています。