病気事典[家庭の医学]

ふせいこうごう

不正咬合

不正咬合について解説します。

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不正咬合とは、上下の歯が適切に噛み合っていない状態をいいます。不正咬合には、上あごと下あごの位置がずれている骨格性のもの、歯とあごの大きさのバランスが悪いことによって一つひとつの歯にでこぼこやすきまが生じる歯性のものなど、さまざまな種類があります。

不正咬合の程度や種類を診断したり、治療方針を決定するためには、さまざまな検査が必要になります。一般には、歯型(口腔模型)や口のなかの写真(口腔内写真)は個々の歯の位置や噛み合わせ、歯ぐきの状態などを知るために撮影し、顔の写真(顔面写真)は顔全体の形を知るために撮影します。また、歯の数や根の状態、頭や顔全体の形を把握するためにX線写真を撮影します。さらに、あごの関節に症状がある場合には、関節のX線写真や、あごの運動、MRIなどの検査が必要になることもあります。

検査の結果をもとに治療方針を決定し、歯科矯正治療を開始します。治療開始時期や治療方法は、不正咬合の種類や年齢によってさまざまです。以下、それぞれの不正咬合の種類について解説します。

叢生(そうせい)

どんな病気か

歯がねじれたり、重なり合ったりして歯並びがでこぼこしている状態のことをいい、乱杭歯(らんぐいば)とも呼ばれています(図4)。

原因は何か

あごの大きさに対して歯の大きさが大きいため、歯が正しく並ぶのに必要なスペースが不足することによって起こります。また、乳歯がむし歯になり早期に脱落したり、永久歯が生える時期になっても乳歯がうまく脱落しない場合に、永久歯が正しい位置に生えることができず叢生になる場合もあります。

症状の現れ方

叢生によるいちばん大きな問題は、歯みがきがしにくく汚れがつきやすいため、歯周病(ししゅうびょう)やむし歯になりやすいことです。食べ物を効率よく噛めなかったり、外観上の問題から心理面に悪影響を及ぼすこともあります。

治療の方法

乳歯列期や乳歯から永久歯への生え変わりの時期(混合歯列期)には、永久歯の生える場所を十分確保するための治療を行います。永久歯列期の治療にはマルチブラケット装置(図5)がよく用いられ、歯並びのでこぼこを解消するための場所が十分得られない場合には、歯列弓(歯列の曲線)を拡大したり永久歯を抜歯したりすることもあります。

歯科矯正治療によって得られた正しい噛み合わせを、その状態で維持する必要があります。このことを保定といいますが、保定を十分に行わないと不正咬合が再発してしまいます。噛み合わせが安定するまで、長期にわたり保定装置を装着します(図6)。

空隙歯列弓(くうげきしれつきゅう)

どんな病気か

歯と歯の間にすきまがある歯列弓をいいます(図7)。

原因は何か

歯とあごの大きさの不調和がある場合(あごの過成長によるもの、歯の大きさが小さいもの)や、歯の数に異常がある場合(歯の欠損、埋伏歯(まいふくし)など)などに生じます。また、舌突出癖(ぜつとっしゅつへき)などの習癖、舌が大きい、舌の位置が低位、口輪筋(こうりんきん)の弛緩など歯列弓を取り囲む口腔周囲筋に何らかの不調和が認められると生じることもあります。

症状の現れ方

乳歯列期の空隙歯列は正常です。とくに前歯はあとから生える永久歯のほうが大きいため、自然にすきまはなくなります。永久歯列になってもすきまがある場合、よく噛めなかったり、発音に支障が生じることがあります。

治療の方法

一般的に乳歯列期の空隙歯列は正常なので、歯科矯正治療の必要はありません。

永久歯列期になってもすきまが閉じない場合は、すきまを閉じる歯科矯正治療を行います。歯の幅が小さい歯(矮小歯(わいしょうし))があったり、歯の数が足りない場合は、歯科矯正治療だけでなく、人工の歯をかぶせたり、欠如歯を補う治療(補綴(ほてつ)治療)を組み合わせて行う場合もあります。舌の運動や機能異常によりすきまがみられる場合は、筋機能療法によって癖の改善を図ったり、タングクリブといった舌の突出を抑える装置を装着して治療を行うこともあります。また、舌が大きい場合にはごくまれにですが、舌縮小術といった外科的な治療を併用する場合もあります。

上顎前突(じょうがくぜんとつ)

どんな病気か

上の前歯が下の前歯より過剰に前方に出ている状態をいいます。上あごの過度な前方への成長や下あごの不十分な成長による骨格性のものと、上の前歯が前方に傾いて生じる歯性のものに分類されます(図8図9)。

原因は何か

遺伝、または指しゃぶりなどの悪い癖が長期に続いた時や、鼻づまりなどによっていつも口をぽかんと開けていることなど後天的なことが誘因になる場合もあります。

症状の現れ方

前歯で物を噛みづらい、口を閉じにくくうまく発音しづらいといった症状や、上の前歯に外傷を受けやすくなる危険性があります。また、外観上の問題から心理面に悪影響を及ぼすこともあります。

治療の方法

あごの成長が旺盛な混合歯列期では、上あごと下あごの前後のずれがある場合、上あごの成長を抑制するヘッドギアー(図10)や、下あごの成長を促進させる機能的矯正装置を用いて治療します。

あごの成長がほぼ終了した永久歯列期では、マルチブラケット装置を用いて治療し、必要に応じて歯を抜いたり、上あごの歯を後ろに動かすためにヘッドギアーを併用したりする場合もあります。近年、ヘッドギアーのかわりにインプラントを使うこともあります(図11)。上下のあごのずれが大きい場合は、外科手術を伴う矯正歯科治療が行われることもあります。

下顎前突(かがくぜんとつ)(受(う)け口(くち)、反対咬合(はんたいこうごう))

どんな病気か

下顎前突(受け口)とは、一般に上あごと下あごの前歯が反対に噛み合っている状態のことをいいます。(図12図13)。下顎前突には、下あごの過度な成長や上あごの成長不十分による骨格性のものと、上の歯が後方に傾斜したり下の前歯が前方に傾斜している歯性のものがあります。

原因は何か

遺伝、口唇裂(こうしんれつ)・口蓋裂(こうがいれつ)、内分泌疾患などの病気や、舌の位置・大きさ、悪い癖が長く続いた場合などが原因となります。

症状の現れ方

噛み合わせが反対になっているために噛む力が弱くなったり、サ行やタ行などが発音しづらくなることがあります。また、下あごが前に出ているため外観上の問題から心理面に悪影響を及ぼすこともあります。

治療の方法

幼少期に骨格性のあごの前後のずれがみられる場合、下あごの成長を抑制するチンキャップ(図14)、上あごの成長を促進させる上顎前方牽引(じょうがくぜんぽうけんいん)装置(図15)を用いて治療します。歯の位置に異常がある場合には、機能的矯正装置(図16)、床矯正装置やリンガルアーチ(図17)などの装置を用いて治療します。

永久歯列期では、マルチブラケット装置による治療を行い、また、必要に応じて歯を抜いて治療をする場合もあります。あごのずれが大きい場合は、外科手術を伴う歯科矯正治療が行われることもあります。

過蓋咬合(かがいこうごう)

どんな病気か

過蓋咬合とは、上下の噛み合わせの重なりの度合が大きい状態をいい、時に下の前歯がほとんど見えないほど深く噛み込んでいる場合もあります(図18)。奥歯で噛みしめた状態で、上下の前歯の噛み合わせは、通常2~3㎜程度の重なりがあるのが望ましいといわれています。

原因は何か

上あごや下あごの骨格が、もともと噛み合わせを深くしやすい形をしている場合や、前歯が過剰に伸び出しているのが過蓋咬合の原因です。むし歯歯周病などで奥歯が抜けて噛み合わせの高さが低くなり、前歯の噛み合わせが深くなることもあります。

症状の現れ方

成長期においては、下の前歯に上の前歯が過剰におおいかぶさるので、下あごの前方への成長が妨げられたりすることもあります。また、下あごの前方や横方向への運動をスムーズに行うことができず、あごの関節の病気(顎関節症(がくかんせつしょう))の一因になる可能性があります。

治療の方法

混合歯列期では、床矯正装置や機能的矯正装置を用いて噛み合わせを浅くすることがあります。永久歯列期には、マルチブラケット装置により前歯を骨のなかに押し込んだり、奥歯の高さを高くして噛み合わせを上にあげる方法をとります。最近では、インプラントを使用した矯正治療を行うこともあります。

交叉咬合(こうさこうごう)

どんな病気か

左右どちらか一方、あるいは、両方の奥歯が反対に噛み合っている状態のことをいいます(図19)。

原因は何か

原因は、上あごと下あごの歯列弓(歯列の曲線)の大きさに不調和がみられるものと、あごの骨の形によるものの2種類に大きく分けられます。上あごと下あごが噛み合う時に、ずれが生じて起こる場合もあります。先天的要因や後天的(環境的)要因によって生じるといわれていますが、原因が定かでないものも多くあります。

また、頬杖や横向きの姿勢で寝るなど横方向から持続的に力をかける習慣が、成長期の骨の形成に影響することもあるといわれています。

症状の現れ方

左右どちらか一方に交叉咬合がみられるような場合では、正面から見ると歯並びとともに下あご自体がずれていることも多く、顔が左右非対称になっている場合があります。また、あごの運動に制限が生じやすいので、あごの関節に負担がかかり、痛みや雑音などの症状がみられることもあります。

治療の方法

歯列弓の大きさの異常に対しては、機能的矯正装置や側方拡大装置を用いて上下の歯列弓の大きさと位置を整えていきます。

上あごの歯列弓が狭い場合は、歯列弓を広げる必要があります。歯列弓の幅を広げる治療法には2つあります。

ひとつは、急速拡大装置と呼ばれる装置を用いてあごの幅を広げる方法(図20)で、上あごの幅が狭い場合に行われます。上あごの骨は左右2つの骨が中央部で結合しており、その結合部を開くことにより上あごの幅を拡大します。一方、歯の傾きが内側に傾斜している場合は、緩徐拡大装置と呼ばれる装置で、歯を徐々に外側に傾斜させることによって歯列弓を拡大する方法(図21)が選択されます。

骨の形に異常がみられる場合の治療は困難で、著しくずれている場合は、外科手術を伴う歯科矯正治療を行う必要があります。若齢者の交叉咬合を放置しておくと、顔やあごの成長・発育に悪影響を及ぼす場合があるので、できるだけ早期に矯正歯科医に相談してください。

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