病気事典[家庭の医学]

かんぽうやくといりょうほけんせいど

漢方薬と医療保険制度

漢方薬と医療保険制度について解説します。

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解説

近年、漢方が見直されてはきましたが、漢方治療を健康保険(社会保険)を利用して受けようとしても、難しい面があります。なぜなら、確かに漢方薬のエキス製剤の146種類は保険適用となっていますが、それでは「証」の綿密な判定を基に処方することができず、漢方薬の本領発揮とはいきません。また、漢方薬を西洋薬的に使うと副作用の心配も拭いきれません。

なぜそのようになったのかは、漢方薬の解説のところでその制度上の理由を述べましたが、ほかにも漢方治療を利用しづらくしている理由があります。

そのひとつは、仮に本来の漢方薬を全額自費で払うとしても、漢方医の診察時間に対応する保険点数(初診料や再診料、管理料)が設定されていないことです。つまり1日に数人の診察料では、経営が成り立ちません。

2つ目の理由は明治時代以降、西洋医学が重視された結果、漢方専門医や漢方薬を専門に学んだ薬剤師が非常に少ない、ということです。つまり活躍の場がないのです。逆の見方をすると、漢方治療を受けたり漢方薬局に相談に行ったりしようにも、どこに行ったらよいかわからない、という状況です。

したがって現在、医師の7割が漢方薬を使用しているといっても、それは治療上の副作用を和らげる目的で使われるケースが多いといえます。たとえば産婦人科やがんの治療などで、一般の内科ではそれほど多くはありません。

産婦人科領域では、副作用がなるべく少ないもの、ということで漢方薬が使われ、外科では、がんの手術後の体力低下防止に十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)が使われたりします。したがって漢方薬本来の使われ方はあまりされていません。

ただしすべてがそうではなく、あとはやはり西洋薬が苦手とする症例に保険が認められている漢方薬を出してみる、といった使われ方がされていると考えられます。

保険が適用されている漢方薬は薬価(保険点数)が低いので、うまく使用できれば医療費の削減につながります。最近はそういった試みをしようという動きが見受けられるようになりました。

最近になって、保険制度上の新たな問題が起きています。それは、処方日数の規制緩和です。かつて処方日数は厳しく制約を受けていましたが、一部の薬を除いて無制限に出すことが可能になりました。その目的は医療費削減にあり、医師にかかる回数をできるだけ少なくしようということです。

しかし漢方薬に長期処方はナンセンスです。漢方薬は変化する「証」に合わせて小刻みに変更されるべきで、その観点から、漢方薬の長期処方は逆に、無駄な医療費につながりかねません。

これらの状況を考えると日本では現在のところ、漢方医療あるいは漢方薬を求めるには自由診療のほうがむしろ、コストパフォーマンス(費用対効果)は高いと考えられます。

実際、自由診療のほうがよくなるケースは多いようです。

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