病気事典[家庭の医学]

しょう

「証」

「証」について解説します。

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解説

西洋医学では基本的に病気を個々の臓器や器官、組織の異常としてとらえます。診断は、患者さんの状態を見、話を聞いたり体に触れたりして、それらの異常を推定します。そして必要があればそれを確認するために検査をし、その異常を数値化したり画像化したりして「病名」を決めます。

一方、漢方では病気の原因=きっかけを個々の組織の異常ではなく、体内バランスの乱れと考えます。そして「病名」ではなく「証(しょう)」という概念で、その「証」を診断することによって病気の状況を判断します。したがって、症状の現れた個々の臓器などを検査で調べることはしません。

「証」というのは、診察した時点での患者さんの多角的な状態を表す用語で、症状や異常の内容と程度、体型、「気(き)・血(けつ)・水(すい)」の乱れなどを診ます。したがって複数の「証」を判定し、その時の患者さんの全身状態を把握します。つまり体内バランスの乱れをマトリクス(多角的)にとらえるのです。

「証」は患者さん固有の状態で、次のような要素により影響を受けます。

・証に影響する要素……年齢、性別、基礎体力、体質、生活環境、生活習慣、食習慣、性習慣、嗜好(しこう)、病歴、遺伝的要素、気候など。

判定される「証」には、陰(いん)証・陽(よう)証、虚(きょ)証・実(じつ)証、表(ひょう)証・裏(り)証、寒(かん)証・熱(ねつ)証、気虚(ききょ)証、お血(おけつ)証、水毒(すいどく)証などという判定の目安がありますが、実際にはこれらが複雑に絡み合っています。

漢方ではこの「証」を治める、元にもどすために、それぞれの「証」に合った漢方薬の処方を組み合わせることで治療します。したがって同じ症状でも「証」の内容が違えば、処方の組み合わせはまったく違ってきます。また逆に、まったく違う症状でも、体内バランスの乱れである「証」が同じであれば、同じ処方となることもあります。

もし「証」に合わない処方を服用した場合、いつまで経ってもよくならないばかりか、逆に副作用が出る場合もあります。漢方薬を服用し始めて2カ月ほど経っても変化がない場合、処方の組み直しが必要になる可能性があるので、処方医か調剤した薬剤師に相談しましょう。

また「証」は日々、変化します。なぜなら、生活習慣や環境要素などにより体の状態が変化しますし、また、漢方薬が効いてくると「証」も変化(改善)するからです。したがって基本的に、漢方では同じ処方は短期間(数日から数週間)しか出しません。

そこで、漢方医による診察時、あるいは薬剤師との相談時の重要なポイントは、前記の「証」に影響を及ぼす要素について、ご本人のありとあらゆる情報を包み隠さず、忘れることなく伝えることです。逆にそれらについて、こと細かに聞かれても正直に答えなければ、誤った「証」の診断が下されることになります。

そのため漢方医による診察、あるいは漢方薬局における相談は、とても時間がかかる(長い場合2〜3時間)のです。

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