病気事典[家庭の医学]

はっせいしょうがいのいろいろ

発声障害のいろいろ

発声障害のいろいろについて解説します。

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発声障害のいろいろの解説(コラム)

(1)機能性発声障害

 器質的異常に基づかない発声障害を一般的に機能性発声障害といい、心因性失声症(しんいんせいしっせいしょう)、音声衰弱症(すいじゃくしょう)、ピッチ障害、仮声帯(かせいたい)発声、過緊張性発声障害、変声障害などが含まれます。

 声帯を含めて喉頭の形態が正常で、発声以外の生理的動作は円滑に行われるにもかかわらず、音声の異常や、発声に伴う異常感(喉頭痛や疲労性)を訴える病態です。

(2)声変わり障害(変声障害)

 変声期の男性に発症する音声障害です。心因的な要因が背景にあると考えられており、成熟拒否のため声変わりも受け入れない状態であるとされています。声がかすれる、話し声が高い、大きな声が出ないなどを訴え、高い声や裏声で会話するなどの所見があります。

 声変わりの機序(仕組み)を説明し、発声指導を行うことで比較的短期間に治療が可能です。胸声(きょうせい)を発声しやすくさせるため、甲状軟骨喉頭隆起を後下方に圧迫する発声法(カイザー・グッツマン法)が有効といわれています。

(3)心因性失声症

 ヒステリー性失声症とも呼ばれ、古くから知られています。思春期から30歳以前が好発年齢で、女性に多くみられます。

 突然に起こる失声が典型的な症状です。声帯は中間位あるいは開大位に固定され、高度の気息性嗄声(きそくせいさせい)を示します。通常、囁(ささや)き声での会話は可能ですが、高度な場合には失声となります。発声時には声門が閉鎖しないのに、反射や咳(せき)払いなどでは閉鎖するなどの解離(かいり)現象がみられます。問診で精神的外傷などの心的誘因が見出されることも多いようです。

 (1)病前音声の再獲得、(2)症状成立機転への自己洞察、(3)社会生活への再適応を目標として治療が行われます。まず発声の生理を、次に声帯に病変のないことを、そして声帯の内転(発声時両側声帯が内側に移動し、声門が閉じること)と呼気の必要性を本人に理解させます。発声練習では、咳払いやハミング、裏声に近い声などから有響音を出すように誘導します。母音が継続できるようになったら、単語、自由会話へと順次移行します。一度有響音が獲得できると比較的短期間で正常化し、予後は良好です。

 他の心因性症状を持つ例、再発例、不安・抑うつなどの精神症状の強い例などでは、精神神経科医による診断・治療を積極的にすすめます。

(4)けいれん性発声障害

 声帯の過緊張と声門の過剰閉鎖のため、圧迫性・努力性となり、声がとぎれとぎれとなる特有の発声様式を示す発声障害で、女性に多くみられます。声(とくに起声時)の出しにくさ、のどがつまった感じなどを訴えます。話し声に現れやすく、低めの声で誘発されますが、高音や裏声では症状が軽減し、笑い声などは正常です。

 精神的緊張状態やストレスが症状の出現や悪化につながることから、以前は心因的要素が発症要因として重要視されていました。最近では神経系の異常と関連があるともいわれていますが、本態はいまだ不明です。

 音声訓練から薬物療法、音声外科的手法まで、筋の緊張低下や麻痺を生じさせる治療が行われますが、原因不明のため根本的な治療法はなく、難治性です。

・保存的治療

 音声訓練は、楽な発声を促すリラクゼーション法(チューイング法、あくび・ため息法)、ハミング、軟起声(なんきせい)(声をやわらかく出し始める)などが用いられます。軽症例や発症後まもない例には有効で、他の治療法とも併用されます。精神安定薬や筋弛緩薬(きんしかんやく)などの薬物も補助的手段として使用されますが、有効性は低いようです。

・音声外科的治療

 外科的対応がある程度可能であるという点では、心因性発声障害と異なります。手術方法としては反回神経(はんかいしんけい)切断術、選択的反回神経枝切断術、甲状軟骨形成術、内筋切除術などがありますが、甲状軟骨形成術、内筋切除術が効果的とされています。

・ボツリヌス毒素

 神経筋接合部に作用し筋収縮を抑制するボツリヌス毒素を声帯(甲状披裂筋(こうじょうひれつきん))に注射し麻痺させることで、緊張性発声を取り除く方法です。麻痺が強い時期には気息性嗄声や誤嚥(ごえん)が生じますが、2週間以内で消失し、次第に良好な発声状態となって3〜4カ月ほど継続します。

 外来で可能な簡便な手法ですが、再注射が必要になることや、対応できる施設が限られていることなどが欠点です。

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