病気事典[家庭の医学]

させい

嗄声

嗄声について解説します。

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どんな症状か

声は、肺から流れ出る「呼気(こき)」によって声帯が振動することで生じる複合音です。よい声は、声帯が良好な状態にあって、かつ発声時の声門下よりの圧力・呼気の流量・声門抵抗が一定の状況にある時につくられます。

嗄声、すなわち「かすれ声」は、音色に関する総合的な声の異常であり、声帯の振動が乱れた状態ともいえます。実際に嗄声を来す疾患としては、声帯の器質的病変(図8)や運動麻痺が主体ですが、機能的な障害も考えられます。

検査と診断

音声障害の病態としては、音声の(1)高さ、(2)大きさ、(3)長さ、(4)音色の4つの要素での障害が考えられます。したがって嗄声の評価は単一の方法では不十分であり、さまざまな尺度で評価する必要があります。

声の聴覚的印象からその程度を評価する方法や、音声の最大持続時間の測定は、簡便にできる方法です。音響分析や発声機能検査など、特殊な装置を用いて行う検査もあります。

器質的病変を確認するためには、喉頭ファイバースコープや喉頭硬性側視鏡(こうせいそくしきょう)による内視鏡検査が必要になります。また、喉頭ストロボスコピーによって、声帯振動がある程度把握できます。

治療の方法

(1)保存的治療

薬物治療

嗄声の多くは、急性喉頭炎慢性喉頭炎などが原因になります。消炎薬や局所吸入治療(ネブライザー療法、吸入ステロイド薬)による消炎が主体になります。浮腫が高度な場合には、ステロイド薬の全身投与が行われることもあります。

音声訓練

機能性発声障害などでは、音声訓練による発声法の指導で改善する場合もあります。過緊張発声ではリラクゼーション法、声門閉鎖不全型の発声ではプッシング法などを用います。

声の衛生

声の安静、適切な発声方法、禁煙、生活習慣の改善などは、基本的な指導項目で、「声の衛生」と呼ばれます。とくに声の酷使による音声障害に対しては、声の衛生を十分守ることが重要になります。

(2)外科的治療

手術方法としては、局所麻酔による内視鏡手術、全身麻酔による顕微鏡下喉頭直達鏡(ちょくたつきょう)手術(喉頭微細手術)(図9)、外切開により喉頭の軟骨を操作する喉頭枠組み手術などが行われますが、ここでは疾患別に治療法を紹介します。

良性腫瘤性(しゅりゅうせい)病変

声帯ポリープ図8のa)、声帯結節(同、b)、ポリープ様声帯(同、c)、声帯嚢胞(のうほう)などは、切除により声帯の振動状態を改善することが可能です。通常は喉頭微細手術で切除しますが、症例によっては外来通院による局所麻酔下内視鏡手術が可能です。

腫瘍性病変

喉頭乳頭腫(にゅうとうしゅ)図8のd)、喉頭白板症(はくばんしょう)(同、e)、喉頭がん(同、f)などの腫瘍性病変は、早期発見・診断および治療が必要になります。

喉頭所見のみでは判別が困難な場合も多く、病理診断のために、内視鏡下もしくは喉頭微細手術での組織生検が行われます。

治療においては、音声障害の改善よりも病変の完全除去が優先になります。

声帯麻痺(反回神経麻痺

喉頭の内部の筋群を支配する反回神経(はんかいしんけい)の麻痺(まひ)は、声帯の可動性障害と声帯の萎縮(いしゅく)により、音声障害を引き起こします。回復不能例に対しては、声帯の位置を補正するために喉頭枠組み手術である甲状軟骨形成術1型や披裂(ひれつ)軟骨内転術が、萎縮に対しては声帯内注入術などが行われます。

けいれん性発声障害

ボツリヌス毒素を注入して喉頭内筋を麻痺させる方法が効果的ですが、その効果は3~6カ月と一時的で、繰り返しの治療が必要になります。また、日本では薬剤の入手が難しく、限られた施設でしか治療を受けられないという問題もあります。

最近では、喉頭微細手術による内筋切除や甲状軟骨形成術なども試みられています。

萎縮性病変

萎縮した声帯に対しては声帯内注入術(充填術(じゅうてんじゅつ))が行われます。充填材料としてはコラーゲン、自家(自分の)脂肪、自家筋膜などが用いられています。

反回神経麻痺による声帯筋の萎縮には有効ですが、声帯溝症(せいたいみぞしょう)などのように振動部にあたる粘膜下組織の欠損した病態では、音声の改善が難しくなります。

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