医療特集

中高年期以降に多い慢性腰痛 - 治療(薬物、神経ブロック、手術)

更新日:2016/04/25

慢性腰痛について、治療、手術を要する場合など、気になることについても伺いました。

NTT東日本関東病院 ペインクリニック科 部長 安部 洋一郎

お話を伺った先生:

腰痛の治療

薬物治療

腰痛の治療で、最も多く行われるのが、痛みを抑えるための薬物療法です。

飲み薬や貼り薬など、さまざまなタイプの薬があります。一般には、まず、非ステロイド性消炎鎮痛薬や アセトアミノフェン が処方されます。神経障害性疼痛用の治療薬( プレガバリン など)もあります。しかし、痛みが慢性化すると、これらの痛み止めは効きにくくなるので、痛みの神経回路を遮断する目的で、オピオイド(麻薬)系の鎮痛薬も用いることがあります。薬物依存が起きないよう専門家の指導の下に、弱い物から段階的に使っていきます。

それぞれの薬には、副作用があり、非ステロイド性消炎鎮痛薬は、長期使用で消化器の合併症が起きる恐れがあります。また、神経障害性疼痛治療薬には、眠気、ふらつき、めまい、体重増加、霧視(目が霧がかかったように見える)などのリスクがあります。

徐々に痛みをなくしていく

安部先生は、「薬のメリット・デメリット・飲み合わせを考えて、少量から処方してくれるのがいい医師で、最初から大量に薬を出す医師には注意が必要です」と語ります。

また、薬物治療中も、体は適度に動かすことで痛みが軽減される効果があります。まずは、動けるくらいにまで痛みを減らしていくようにします。一気に痛みが消えてしまうと、治った気になって無理をしてしまいがちだからです。そうしたバランスを考えながら、徐々に痛みをなくしていくのが良い治療です。

神経ブロック

検査でも用いた「神経ブロック」は、神経に直接、麻酔薬を注入するもので、局所的に神経を麻痺(ブロック)させることにより、刺激の伝導経路が遮断されると、神経の興奮が収まって痛みが消えます。

神経ブロックを、薬物治療に併用することもあります。薬の効果が不十分な場合では、最も強いオピオイド系の薬を使うに至る前に、神経ブロックを行うことがあります。

神経ブロックも、まず少量の麻酔薬から初めて、状態を見ながら薬の量を加減して、痛みのピークを抑えるようにします。

動けるレベルに痛みを減らすと好循環に

前述したように、体は適度に動かすことで痛みが軽減される効果があるのですが、こうして、痛みが減れば動ける→動けると痛みがさらに減る→さらにブロックを加えてもっと痛みが減る、という好循環がもたらされます。検査と同じで、硬膜外ブロックから開始し、主原因に対して積極的な治療をしていきます。局所麻酔薬は、限られた時間しか効果がありませんが、繰り返し行うことで、作用時間が切れても痛みの悪循環を断ち切ることができ、薬を徐々に軽減できる効果があるのです。

さらに、効果期間を延長するために、針先に高周波を加えて神経を焼灼する方法や、パルス波を加えて数カ月痛みが出るのを防ぐ方法(パルス高周波法)などもあります。

一般に、慢性腰痛の人の場合、10日~2週間おきに5回、神経ブロックを行って様子を見ます。

病状、筋力、姿勢で治療効果に差

約3分の1の人では、ブロック注射によって、痛みが完全に治まるようになります。次の3分の1の人では、麻酔薬を増量したり、さらに週単位・月単位の治療(維持療法)を長期間続けていくことで改善が見られます。残念ながら、残りの3分の1の人にはブロック注射の効果が薄いようです。その場合でも、生活改善など、自分でできることを心掛けてもらって、治療効果を高めるような工夫をしていきます。

治療効果の差は、病状、患者さんの持つ筋力、姿勢の良さなどに左右されます。

治りがよいのは日常的に運動している人

「日常的に運動していている人は、筋肉もしっかりしているので、骨が変化していても、数少ないブロックや薬でスパッと治ります。力仕事をして負荷をかけている人は、それがプラスになります」(安部先生)

維持療法を続けている人も、運動をすることで、10年単位で見ると、少しずつ改善していきます。これは、末梢神経は、痛みを出しにくいように走行経路を変えたりすることができるためだとされます。

物理療法・コルセット

腰痛の治療には、温熱療法(温めて血流を改善)、牽引療法(寝て腰部を引っ張ったり緩めたりを繰り返す)、電気神経刺激療法(痛む箇所の皮膚に電極パッドを貼って微弱な電流で刺激する)などの物理療法などもあります。

これらは、古くから整形外科で実施されている治療法で、筋肉の緊張が緩和されて、効き目が実感できる人もいます。ただし、あまり急激な力を加えることは危険です。

腰椎コルセットは、急性期に腰の動きをサポートするために一時的に用いるのは有効ですが、使用が長期に及ぶと、筋力やバランス力の低下を招く弊害の方が多くなります。

“天然のコルセット”は筋肉

「筋肉が怠けてしまわないよう、運動によって強化して、“天然のコルセット”づくりに励むことが何より大事です」(安部先生)

腰痛の治療においては、薬物やブロック注射を使いながら、患者さん自身が治療に参加をして、自分でも日常的な努力をすることが必要なのです。

手術を要する場合

脊柱管狭窄症

腰痛をきっかけとして見つかり、手術が必要になる病気もあります。

厚生労働省の国民生活基礎調査によると、65歳以上の人が訴える痛みのトップが、腰下肢痛(腰と足の痛み)です。その主要な原因の一つに脊椎疾患が挙げられ、中でも高齢者に最もよく見られる疾患が「脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)」です。

これは、もともと脊柱管が狭めの人に起こりやすいのですが、加齢に伴って、軟骨が膨らんだり余分な骨ができるといった変化が重なると、神経や血管を圧迫して痺れや痛みを生じてきます。

排便・排尿障害があれば即手術を

加齢に伴い、誰しも多少なりとも脊柱管は狭まってきます。かなり狭くなっているのに、全く痛みも出ず、平気な人もいます。狭窄している箇所にあるのは、脊髄ではなく、馬尾(ばび)という末梢神経ですが、末梢神経は少しずつ改善するからです。

ただし、尿や便が出にくい、筋力が落ちて足が上がらない、運動神経が麻痺するなどといった症状があれば危険信号です。排便・排尿の機能が落ちている場合には、速やかに手術した方がよいでしょう。

脊柱管狭窄症の手術

手術は、整形外科で行います。弱くなって、狭窄している箇所の骨を削って圧迫を取る除圧に加えて、骨のずれが大きい場合は、そこに金具を入れて固定します。メスを入れるのを最小限にして内視鏡下手術で数個の金具を入れることもあれば、仙骨から椎骨まで金具を積み上げるように入れる手術を行うこともあります。重力を受けていれば、その上下がまた痛んできて、加齢によって、治療が追いつかなくなる恐れがあるからです。

なお、自家骨移植と言って、金具ではなく、自分の骨を別の場所から採取して植える方法もあります。

急を要する人以外は、手術をせずに、経過観察を行うこともあります。手術を待っている間に神経ブロックを行って、痛みが改善することもあります。一方で、手術をしても再発する人も少なくありません。

「どの手術法にも、メリット・デメリットはありますが、5年たって痛みが消えていれば、成功だと言えるでしょう」(安部先生)

腰椎椎間板ヘルニア

もう1つ、手術が必要な代表的な病気に、「腰椎椎間板(ようついついかんばん)ヘルニア」があります。

椎間板は加齢とともに傷み、外側を覆っている部分(線維輪)に亀裂が入ってきます。それが圧力に耐えかねて、軟骨の中心部にある髄核の中身が飛び出して神経を圧迫した状態が椎間板ヘルニアです。大福餅の皮が破れて、中のあんこが飛び出してしまったような状態です。

腰椎椎間板ヘルニアの手術

椎間板ヘルニアの70%以上は自然に治癒します。飛び出した箇所が自然に吸収される人がほとんどですが、飛び出した箇所はそのままでも、痛みが消えることがあります。自然治癒せず、痛みが続く場合は手術を考えます。

手術は整形外科で行い、切開して、はみ出した部分を切除します。内視鏡下手術では、最小限の傷で行うことができます。

高齢者ではさまざまな影響を及ぼす

最初は椎間板ヘルニアだったのが、放置するうちに二次的、三次的な変化をもたらして、脊柱管全体が狭くなっていくこともあります(脊柱管狭窄症)。高齢者では腰痛と関連して坐骨神経痛がよく見られます。これは、椎間板の変性や骨の変形、神経周囲の癒着など、複合的な原因によって起こっています。

椎間板ヘルニアも脊柱管狭窄症も、加齢によって軟骨も含めた骨の近くの軟部組織が変性したために症状が出てくる病気なので、生活習慣で予防を心掛けることも大切です。

安部 洋一郎先生の詳細プロフィール
NTT東日本関東病院 ペインクリニック科 部長 安部 洋一郎

NTT東日本関東病院 ペインクリニック科 部長

取得専門医・認定医

  • 日本ペインクリニック学会認定医
  • 日本麻酔科学会麻酔指導医