医療特集

うつ病について - 症状と診断・検査

更新日:2016/06/01

うつ病になるとどのような症状が現れるのか、様々な事例と受診のタイミングについて伺いました。

NTT東日本関東病院 精神神経科 部長 秋山 剛

お話を伺った先生:

うつ病の症状

自覚症状

まず、自覚症状として、気分が憂うつ、やる気が出ない、眠れない、食欲がなくて食べる気がしないといった症状があります。その他にも、悲しくなる、不安感が強い、イライラする、本来好きだったことができなくなる、といった症状が現れることもあります。

周囲の人が気付く症状もあります。うつ病になると、仕事や家事などで普段はできていたことができにくくなります。家族や同僚がそういう状況にあるのではないかと気が付いたら「どうしたの?」と尋ねてみて「実は気分が憂うつだ」「眠れない」「食べられない」といった訴えがある場合は、医療機関の受診を勧めた方が良いでしょう。

痛みとうつ

例えば、腰痛など元々何らかの慢性の痛みがあるという人の場合、うつの状態が加わると、その痛みを非常につらく苦しく感じるようになります。そういった意味で、うつ病の人が、あちこちの痛みなど身体的な不調を訴えることもあります。

うつ病の日内変動

1日の変化を見ると、一般に朝に不調という人が多いようです。朝から調子が良いためには、夜ちゃんと寝て朝きっちり起きないといけませんが、うつ病になると不眠を伴うなどして、睡眠覚醒のリズムが乱れるので、朝になって一応目覚めたものの、何となく眠い、だるいという状態になります。

典型的でないうつ病のタイプ

厳密には前述したような典型的なうつ病の診断基準には当てはまらない、典型的な症状ではないうつ病のタイプがあります。これらには後述するように抗うつ薬が効果を示す場合があります。以下、典型的でないうつ病のタイプについて解説します。なお、「仮面うつ病」や「新型うつ病」はメディアの用語であって医学用語ではありません。

新型うつ

近年「新型うつ」という言い方を見かけることがあります。これは、これまでの典型例ではない軽いうつ病を指しています。

「10年前、20年前には存在していなかったタイプのうつ病が新たに存在してきたというのは考えにくいことです。うつ病の啓発が進んだ結果として医療機関の受診率が上がると、入院するほど重い患者さんよりは外来レベルで対応できるような軽い患者さんが増えており、それがいわゆる“新型うつ”と言われる人たちです」(秋山先生)

従来からあるうつ病は、きまじめな人が働き過ぎて過労になって発病するというのが典型的なパターンでしたが、“新型うつ”は違うタイプだと言えます。

うつ病がある程度を超えて重度になると、例えば楽しいことでもできないという特徴が出てきます。ところが軽度の場合には、ちょっと気分が憂うつだから仕事には行きたくないが遊びになら行けるという状態があり得ます。「仕事はできないが遊びには行ける」というのは典型的でないとも言えますが、軽度と捉えても同じことです。

仮面うつ病

うつ病の一種で見逃されやすいのが「仮面うつ病」というタイプです。気分が憂うつだとは余り感じない代わりに「眠れない」「食べられない」という身体症状が前面に出てくる場合です。自律神経失調症と診断されることもあります。

うつ病では脳内の神経伝達物質の働きが乱れるので、その乱れに伴って様々な機能が乱れてくることがあり、憂うつな気分だけでなく身体症状が非常に強く出てくることがあるのです。

「仮面うつ病の人は、診断基準に照らせばうつ病には当てはまりませんが、うつ病と症状が重なる面もあるので、抗うつ薬の服用によって状態が良くなる人がいます」(秋山先生)

自律神経失調症は、相反する2つの自律神経系、交感神経(活動時に優位)あるいは副交感神経(安静時に優位)が過剰に緊張することで生じる症状で、検査しても体にも心にも他の病気がないときに診断されます。憂うつな気分を訴えることはありませんが、うつ病の隣にあるような病気とも言えます。やはり抗うつ薬で改善することがあります。

季節性うつ病

うつ病は、人によっては季節によって発症しやすさが異なることがあります。ヒトも動物だと考えれば、一般に冬は不活発になる時期です。このため、冬にうつになりやすく夏は元気になるというパターンがあります。日本では年間の日照量の差があまり大きくないので、季節性と言われる患者さんはあまり多くはないと推定されます。もっと緯度が高い地域では日照量の差が非常に大きいので、季節性といわれるタイプも注目されやすくなります。

うつ病と鑑別すべき病気

うつ病と見誤られやすい病気に、躁うつ病、認知症、更年期障害などがあります。

特に気を付けたいのが、普通の状態とうつの状態しかなくうつ病だと思われていた人が、実は躁の状態もあったと判明することです。うつ病は単極性の障害ですが、躁の状態がある人は、うつと躁を繰り返す「 双極性障害(躁うつ病) 」です。

本人は気付きにくい躁うつ病

うつ病だと思い込んでいる患者さんでも、思い起こせば「テンションや活動性が上がった時期がある」というのが躁うつ病の診断の決め手になります。テンションが高いとき、本人は絶好調だと思いがちですが、周りの人には「最近ちょっとおかしい。ちょっと元気すぎる」と映っていますから、躁うつ病は周囲の人が気付くことが重要です。躁うつ病では抗うつ薬とは違う気分安定薬を用いますから、早期の見極めが大事です。うつ病と躁うつ病が全く別な病気なのかについては、学術的にも議論があります。

認知症や更年期障害も

認知症もうつ病と関連の深い病気です。うつを訴えていた人が認知症になりやすかったり、認知症の人にうつ症状が出やすいということは確かにあるそうで、病気になる経路が一部かぶっている可能性もあるとされます。

更年期障害でもうつ病とよく似た症状が出ることがあります。

他の病気との関連・相互作用

身体疾患との関わりも見逃せません。がん、循環器疾患、糖尿病などの人がうつ病になりやすいという傾向もみられます。逆にうつ病になると、そうした病気にも悪影響を与えます。一方、 統合失調症 は、幻聴や妄想という症状を伴う病気で、うつ病と見誤ることはあまりないはずです。

受診のタイミング

一般的に受診が遅れがちなのが、うつ病の特徴です。本当は受診した方が良いのに受診していない人は相当数いると推定されています。具合が悪くなっても、もうちょっと様子を見ようとか、精神科や心療内科には行きたくないからと、受診が遅れる場合が多いようです。

何科を受診すべきか

うつ病は、精神科と心療内科が専門の診療科ですが、実際にこれらの科を受診する患者さんは一握りで、圧倒的に多くの人は最初に内科など他科を受診します。

「内科の先生は心の病気が専門ではないので、きちんとうつ病の治療をできないことがあります。もし内科にかかっていて症状が長引いているようならば精神科や心療内科を受診してください」と、秋山先生は呼びかけます。

軽症のうつ病ならば心療内科へ

精神科と心療内科の診療内容は重なる部分も多く、軽症のうつ病ならば心療内科で十分対応できます。「自分はひょっとしたらうつ病ではないか」と思うような人は、心療内科がお勧めです。開業医も多いので、受診しやすいはずです。

診断・検査

問診

問診では症状の経過を確認していきます。うつ病の診断は、症状のあるなしや、それがどれくらい続いているのかに基づいて行われますので、初診には時間がかかります。NTT東日本関東病院では初診時に1時間の診察時間を確保しています。

光トポグラフィー検査

補助的な検査の1つとして脳の血流量を測る「光トポグラフィー検査」があります。これは、光トポグラフィー装置を頭につけてもらい課題を与えて取り組んでもらうときに、本来増えるはずの血流量があまり増加しない場合に脳の神経が今一つきちんと働いていないのではないかと判断します。

黙って座れば正確な診断を下してくれるという検査ではありませんが、クリニックなどでも受けられる所が出てきています。

秋山 剛先生の詳細プロフィール
NTT東日本関東病院 精神神経科 部長 秋山 剛

NTT東日本関東病院 精神神経科 部長

取得専門医・認定医

  • 精神保健指定医
  • 日本精神神経学会精神科専門医
  • 総合病院精神医学会指導医・専門医
  • 多文化間精神保健専門アドバイザー
  • 日本医師会認定産業医