医療特集

「てんかん」を知っていますか? - 原因・症状・検査

更新日:2016/08/01

てんかんは「発作を起こす病気」ということ以外はよく知らない、という人が多いのですが、実は発症のピークは高齢期にあり、身近にも起こりうると知っておきたい病気です。

NTT東日本関東病院 脳神経外科・てんかんセンター 医長 松尾 健

お話を伺った先生:

症候性てんかんの原因

「症候性てんかん」は、脳の障害によって起こるもので、その多くは部分てんかんです。

小児期に発症するもの

小児期に発症する症候性てんかんの原因として、先天性のものや妊娠・出産時に起きた何らかの問題による脳損傷、また頭部外傷、脳の感染症などが挙げられます。問題が起きた直後からてんかん症状が現れることもあれば、2~3年後になって、さらには10年を過ぎてから現れることもあります。

「例えばとても難産で、新生児が低酸素脳症になってしまった場合などでは、数年経ってからてんかんを発症することがあります」(松尾先生)

知的障害を伴う場合

子どものてんかんは、知的障害を伴う場合があります。知的障害のある子はてんかんを併発しやすく、逆に脳自体に何か問題があっててんかんを頻繁に起こすような子は、それによって知的障害を起こすことがあり得ます。てんかんと知的障害、どちらが先に起こったかは明確でない場合もあります。

頭部への外傷

公園の遊具から落ちたとか、急に走り出して柱に激突したとか、子どもの頃に頭を打ったという経験は誰にでも心当たりがあることですが、気にされる方も多いと思います。

「頭にこぶができるくらいのけがであれば、基本的にてんかんとは無関係だと考えていいでしょう。外傷によっててんかんを発症するのは、例えば車にはねられて半日目が覚めないというような、高エネルギー外傷と言われる強い外力が加わった場合がほとんどです」(松尾先生)

成人・高齢期に発症するもの

成人、特に50歳以降に起きるてんかんの原因で一番多いのは脳血管障害です。脳血管障害は脳卒中とも呼ばれ、脳出血、脳梗塞、くも膜下出血などが含まれます。脳血管障害になると脳の神経細胞もダメージを受けます。高齢になると足腰が弱って転倒も増えるので、頭部の外傷によるてんかんも増加する一方で、てんかんにつながる脳腫瘍も増えます。また、最近注目されているのが、アルツハイマー病などの神経変性疾患を原因とするてんかんです。

遺伝要因が関係する場合

一部のてんかんには、遺伝的要因が関係しているものがあります。常染色体(じょうせんしょくたい)優性家族性側頭葉てんかん、良性家族性新生児てんかんといった遺伝性のてんかんがあります。

また、てんかんそのものが直接的に遺伝しているのではなくて、神経線維腫症(しんけいせんいしゅしょう)I型や結節性硬化症(けっせつせいこうかしょう)といった、てんかんを起こしやすい脳の構造異常が遺伝する場合があります。こちらは、間接的なてんかんの遺伝と言えるかもしれません。

「良性」と付いたてんかんは、年齢依存性のものが多いので、例外はありますが多くは思春期ぐらいまでには治ると考えてよいでしょう。

てんかんの症状

てんかんは、意識障害やけいれんなどの発作が主な症状です。周りが気づかないくらいの短時間のものから意識を失って突然倒れ、全身けいれんに至るものなど、発作といっても様々です。

部分発作

部分発作

全般発作

全般発作

図3 発作のイメージ

部分てんかんで起きる部分発作は、脳の一部分のみが異常興奮し、体の一部分に不随意運動・感覚異常などが見られます。意識障害を伴う場合と伴わない場合があります。部分発作には、主に以下の4つがあります。

  • ①運動発作(手や顔の一部がピクピクする・眼と顔が片方へ引き寄せられる)
  • ②感覚発作(体の一部がしびれる、見ているものがゆがむ・変なにおいがする・ぶんぶんと音が聞こえてくるなど)
  • ③自律神経発作(胃のあたりから吐き気のような不快感が上がってくるなど)
  • ④精神発作(言われている言葉の意味がわからなくなる・以前見た情景がよみがえる・急に恐怖や不安を覚えるなど)

また全般てんかんで起きる全般発作は、最初から脳全体または大部分が発作を起こすもので、全般性けいれん発作が起きて多くは意識を失います。

しかし、脳波の異常が広範囲に及ぶからといって、全般てんかんが部分てんかんより必ずしも重症であるというわけではありません。例えば、子どもに多い全般発作で、2~3秒ふっと意識を失うような発作を起こすものがあります(欠神発作:けっしんほっさ)。周囲の人が全く気づかないような発作を何回か繰り返しているうちに、担任の先生がやっと気づくという例もあります。

一方で、部分てんかんの発作でも二次性に全身けいれんが起こり、5~10分間止まらないような重症の発作を起こすこともあります。

典型的な症状がない場合

けいれんはてんかんの典型的な症状の1つですが、高齢者の場合にはけいれんを起こさない非けいれん性のてんかんが圧倒的に多いのです。認知症ではないかと受診した人が脳波をとってみたところ、てんかん特有のパターンを示し、抗てんかん薬の内服で改善するといったこともあります。同様に子どもの場合にも、発達遅滞などの原因を調べる中で脳波異常が判明し、てんかんと診断されることがあります。

発作の前触れ・きっかけ

てんかん発作が起きる前に自覚できる“前触れ”はあるのでしょうか。

「発作の前触れは、人によって感じることもあれば、ないこともあります。“何となくそわそわする”といった抽象的なものから、“胃がむかむかする” “吐きそうになる”と具体的な症状を訴える人もいます。はっきりと前兆があって、その後必ず発作が起こるということであれば、前兆の始まりが発作の始まりとして捉えていいでしょう」(松尾先生)

発作のきっかけも人によって様々です。数年前に、テレビのアニメーションのピカピカした光の点滅が刺激となって、てんかんが誘発されるとして問題になったこともあります。また、精神的な緊張が引き金になることもあり、例えば、電車に乗ると発作を起こすという人もいます。きわめて特殊なケースでは、読書てんかんと言って、本を読むとてんかんを起こす人もいます。

一般的に最も多いのは、寝不足、疲労の蓄積、過度のストレス、引っ越しや転職などの環境変化がきっかけになるケースです。

「ストレスは無理のない範囲で避けるのが無難です。てんかんのきっかけが分かっている人の場合は、細心の注意を払うに越したことはありません」(松尾先生)

松尾 健先生の詳細プロフィール
NTT東日本関東病院 脳神経外科・てんかんセンター 医長 松尾 健

NTT東日本関東病院 脳神経外科・てんかんセンター 医長

取得専門医・認定医

  • 日本脳神経外科学会専門医
  • 日本てんかん学会専門医