医療特集
子宮頸がんは早期発見が重症化を防ぐ - 原因・症状・検査
更新日:2016/04/04
20~30代の女性に多い子宮頸がんは、検診の普及によって減少傾向にあるとはいえ、日本では年間1万人以上の女性が発症していると報告されています。
子宮頸がんについて、予防や早期発見のために大切なこと、検査や治療などについて、詳しく伺いました。

お話を伺った先生:
NTT東日本関東病院 産婦人科 部長
角田 肇(つのだ はじめ)
「子宮がん」は2種類ある
「がんは、発生した臓器の名前を付けて、胃がん・肺がん・食道がんなどと呼ばれますが、『子宮がん』は、女性が子どもを宿す子宮にできるがんを総称した名前です。しかし、実際には、『子宮頸がん』と『子宮体がん』という、できる場所も原因も、そして性質も全く違う2つのがんを包括した呼び名です」と角田肇先生は、病気の区別から順にお話しくださいました。
子宮頸がんと子宮体がんの違い
子宮は、女性の生殖器であり、腹部の下の骨盤腔に収められている内性器の1つです(図1)。厚さ1cmほどの筋層からなる袋状をしており、その内部は子宮内膜に覆われています。子宮頸部とは、子宮の下部3分の1で、膣につながる部分です。上部の3分の2は、子宮体部と呼ばれます。卵巣から排卵された卵子が受精すると、子宮内膜に着床し、出産まで子宮内で育つのです。
すなわち、子宮という臓器からは、子宮頸部に生じる「子宮頸がん」、子宮体部の子宮内膜にできる「子宮体がん」の2つの子宮がんが発生します。

図1 子宮の構造
子宮頸がん | 子宮体がん | |
---|---|---|
できる場所 |
子宮頸部
(子宮の入り口) |
子宮体部
(子宮上部の胎児が育つ所) |
発症しやすい年代 | 20代後半~40代 | 50代以降の閉経後 |
主な原因・リスク | ヒトパピローマウイルス感染 | ホルモンバランスの乱れ、肥満、出産経験がない、エストロゲン製剤の長期使用など |
初期の症状 | ほとんどない | 不正性器出血 |
子宮頸がんは若い世代に多い
子宮頸がんは、20代後半から40代と若い世代に多いのに対して、子宮体がんは、若い女性が発症することはまれで、40代から増え始めて、閉経後の50~60代にピークになります。
かつては、子宮頸がんと子宮体がんの比率は、子宮頸がん9割、子宮体がん1割であったため、「子宮がん」と言えば子宮頸がんのことで、今も「子宮がん検診」は、子宮頸がんの検診を指しています。
2011年の部位別がん罹患数は、子宮頸がん1万1378人、子宮体がん1万4763人に達しています。一方、死亡数(2013年)では、子宮頸がんが2656人、子宮体がんが2107人と、逆転しています(図2)。
※罹患数:その期間に新たにがんと診断された数

図2 部位別がん罹患数、死亡数(国立がん研究センターがん対策情報センター資料より改変)
早期発見・治療で死亡者数が激減
「日本では、がん死亡が増え続けていますが、子宮頸がんは定期的ながん検診の有効性が認められているがんで、早期発見・早期治療によって、死亡者数が激減してきた数少ないがんです」と角田先生は、がん検診の成果を挙げます。
「しかし、日本は先進国の中で子宮頸がん検診受診率が最も低く、死亡者数も最近横ばいからやや上昇している点は気がかりです」と懸念を加えられました。
子宮頸がんの原因
子宮頸がんの原因は、ヒトパピローマウイルス(human papilloma virus:HPV)への長期的な感染です。子宮頸がんのほぼ100%にHPVが検出されます。
HPV感染は、女性の8割が経験
HPVはごくありふれたウイルスで、主に性行為を通じて感染します。たった1回の性行為によってもHPVに感染することがあるため、女性の約8割は、生涯のうちに一度はHPVに感染するとされます。
しかし、そのほとんどは、免疫系によって自然に排除されてしまい、2年以内に検出されないようになります。
HPV感染時は無症状
HPVに感染しても無症状のことがほとんどです。感染した型によって病原性が異なり、低リスク型のHPVは良性のイボを作りますが、がんにはなりません。しかし、高リスク型のHPVが子宮頸部に居続けると、細胞の変化を起こし、そのうちごく一部が「がん化」してしまうことがあります。
HPV感染から子宮頸がんの発症までは、およそ数年から十数年かかるとされています。
なお、男性もHPVに感染すると、陰茎がんなどの原因になりますが、発症はきわめてまれです。
HPVの種類
HPVには100種類以上の型があるとされ、日本人では、性交経験のある女性の約10%から、高リスク型のHPVが発見されています。高リスク型とされるHPVは15種類程度ですが、日本の子宮頸がんの約65%を占めているHPV16型と18型は他の高リスク型のHPVに比べがん化が早いことが知られています。
HPV感染に関する誤解
「子宮頸がんにかかりやすい人として、『性体験年齢が低い』『性行為のパートナーが多い』『経口避妊薬の長期使用』といった記述をよく見かけます。このように子宮頸がんになる人は性交渉が活発と決め付けられがちですが、これは正確な記載ではありません。先ほど述べたように女性の大多数は、一度はHPVに感染しますので、子宮頸がんは誰でもかかり得る病気なのだと捉えておくことが重要です」と、角田先生は語ります。
子宮頸がんの発症は、HPV感染から数年から十数年かかるとされています。このため、最も多いのは30代後半から40代前半での発がんです。ただし、最近では性行為の低年齢化により、若い20~30代での子宮頸がん発症率が上がっています。これは性行為が早かった人は、HPVに感染する機会も早まるためで、発症する確率自体が高まるわけではありません。
パートナーの多さや避妊薬についても同様で、自分はパートナーが少ないから、避妊薬を使用していないから、と安心しないでください。
その他のリスク等
一方で、喫煙は、高リスク型のHPVの感染や子宮頸がんの発がんリスクを示すことが報告されています。
なお、HPVは、外陰部や肛門などコンドームではカバーしきれない所にも存在します。コンドームだけで子宮頸がんを予防することはできませんが、感染機会を減らすことは期待できます。
定期的な検診がなぜ重要なのか
子宮頸がんの前段階の病変である異形成(がんに進行する可能性のある異常な細胞)や、早期の子宮頸がんは、ほとんど自覚症状が現れませんから、定期的に検診を受けなければ見つけることができません。
HPV感染から子宮頸がんへのステップ
子宮頸がんは、高リスク型のHPVに感染している一部の人が、異形成、上皮内がん(子宮頸部の表面にとどまったがん)、浸潤がん(進行がん)、というステップを踏んで進行していきます。
異形成のほとんどは、免疫によってHPVが排除されて自然治癒しますが、一部は、ゆっくりと時間をかけて軽度→中等度→高度異形成と進行し、やがてはがんになります。
早期発見が重症化を防ぐ
検診などで軽度な異形成が見つかった場合は、3~4カ月ごとの検査によって、HPV感染細胞がなくなることを確認していけばいいので、特別な治療は必要ありません。
軽度異形成が中高度の異形成を経てがんに進む場合にも、慎重な経過観察を行うことで、中高度の異形成や上皮内がんの段階で発見し、速やかに治療につなげることで、がんの進行を未然に防ぐことができます。
検診の普及によって、異形成や上皮内がんが発見される頻度はむしろ増えていますが、円錐切除術という治療法が可能なために、子宮頸がんの死亡率が減っているのです。
「子宮頸がん検診」の内容
20歳以上であれば、2年に1回、自治体や職場で実施されている「子宮頸がん検診」を受けることができます。自治体によっては、検診バスで集団検診を実施している所もありますが、東京都のように、自分で近くの産婦人科を選べる所もあります。
細胞診検査
検診で行う検査は、「細胞診」と呼ばれ、子宮の入り口(子宮頸部)を、専用のブラシや綿棒でこすって細胞を採取し、ガラスに塗って顕微鏡で正常な細胞かどうかを調べるものです。膣から細い器具(膣鏡)を入れますが、妊娠を経験していない人であっても、痛みが問題になるようなことはあまりありません。
2年に一回の検査でだいじょうぶなの?と少し不安な人もいるかもしれませんが、「2年に1回きちんと検診を受けていれば、無症状の異形成や上皮内がんの段階で発見され、適切な治療が可能です。」(角田先生)
【関連】 子宮頸がん検診(人間ドック体験談)を読む
要精密検査の場合
検査結果で「要精密検査」という通知をもらっても、脅えたり、慌てたりするには及びません。2~3割は「疑陽性」で、実際には異常のない人たちです。また、7~8割は軽度の異形成で、HPV感染はあるものの、治療が必要ないという人がほとんどです。経過観察中に、ウイルスが排除される人も大半です。
角田先生は、「中等度から高度異形成は、将来的にがんになるポテンシャルのある病変と考えて、何らか治療をした方がいいのではないかと捉えますが、緊急性の高い治療ではなく、妊娠を希望している場合は、妊娠を優先することも可能です。落ち着いて、しかるべき婦人科を受診して、次の検査に進んでください」と呼びかけます。
中高年を過ぎても検診は必要
50代、60代になっても、子宮頸がんのリスクはありますので、油断はできません。中高年を過ぎて子宮頸がんが見つかる人は、出産してから、きちんと検診を受けていないという人が多いようです。
HPV-DNA一括検査
検診の精度を高めるには、HPV検査の併用が有用です。HPV-DNA一括検査は、特に頻度の高い高リスク型の13種類の型(16、18、31、33、35、39、45、51、52、56、58、59、68)のHPVの感染の有無を検出するものです。日本産婦人科医会では併用を推奨しており、併用検診を受けて陰性の場合には、3年おきの検診でいいのではないかという議論もあります。
精密検査
コルポスコピー
「細胞診」で陽性と判定された人が次に受ける検査は、コルポスコピー(膣拡大鏡診)という検査です。
これは、コルポスコープと呼ばれる膣拡大鏡を挿入して、子宮頸部を拡大して観察する検査です。肉眼では分からない病変部をしっかり見ることができます。細胞診はどこの施設でも受けられますが、コルポスコピーは実施できる施設が限られています。NTT東日本関東病院など、がん治療に豊富な実績がある病院では、受診当日にすぐ施行できるようにしている所もあります。
生検、その他の検査
異形成やがんが疑わしい場合、コルポスコープで見ながら子宮頸部の組織を一部分切り取って、顕微鏡で確認する生検(組織診)を行います。
また、子宮頸がんと診断された場合は、内診や画像検査(CTやMRIなど)、腫瘍マーカーなどの血液検査を行って、周囲の組織も含めて、がんの広がりや転移の有無を調べます。
【関連】 腫瘍マーカーの検査(病気事典)を読む
子宮頸がんの症状
繰り返しになりますが、子宮頸がんは初期には無症状です。症状がおこる前に検査を行うことが大前提ですが、もし進行してしまった場合には、以下のような症状が現れます。
不正性器出血が現れるのは進行してから
子宮頸がんは初期には無症状ですが、進行すると、最初の異変として、不正性器出血が現れることがあります。これは、性交渉時の出血や生理ではない原因不明の出血などです。さらに進行してくると、悪臭を伴うおりものが増える、生理の量が増え期間が長くなる、腰・腹部などの痛み、血尿、足のむくみなども現れることがあります。
角田先生は、「子宮頸がんで、症状をきっかけに受診したときには、既にかなり進んだ段階になっています。それでも治療で助けられる人は多いのですが、子宮を残したいという希望には応えられないことがほとんどです」と語り、無症状な人が定期的な健診を受けることの重要性を重ねて強調しています。

NTT東日本関東病院 産婦人科 部長
取得専門医・認定医
- 日本産科婦人科学会専門医
- 日本婦人科腫瘍学会専門医
- 日本臨床細胞学会指導医
- 母体保護法指定医
- 日本がん治療認定医機構暫定教育医
- 日本がん治療認定医機構がん治療認定医
- 婦人科腫瘍暫定指導医
- 日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医