医療特集

その胸やけ、もしかしたら・・・逆流性食道炎 - 自覚症状と原因

更新日:2016/07/12

食べ過ぎたり飲み過ぎたりした後は胸やけがあるものだと症状を見過ごしていませんか?また暴飲暴食などしていないのに、最近胸やけがひどいといったことはありませんか?もしかしたら逆流性食道炎かもしれません。

NTT東日本関東病院 消化器内科 部長 松橋 信行

お話を伺った先生:

逆流性食道炎の原因

胃液の逆流をおこす噴門の機能低下には、以下のような原因があります。

腹圧の上昇

日常生活によるもの

腹部を締めすぎる服装やお腹に力をかける仕事などを日常的に行っている人、前かがみの姿勢を多くとる職業などの人は、腹圧が高まりやすい状態になることによって、逆流が起こりやすくなります。

「かつての日本では、腰が曲がった高齢女性がみられました。前かがみの姿勢は、お腹が圧迫されるため逆流が起こりやすく、こういった方は重度の逆流性食道炎を起こしていることがありました」(松橋先生)

最近は閉経後の女性に対する骨粗鬆症(こつそしょうしょう)への対策が広まり、また重い荷物を背負わなくてはいけないような生活は激減したため、このようなタイプの逆流性食道炎は減少しています。

肥満によるもの

一方、肥満(とりわけ内臓脂肪が蓄積する内臓肥満)による腹圧上昇も逆流の原因になります。例えば、アメリカでは肥満の増加が社会問題となっていますが、重度の逆流性食道炎も多いといわれます。

食生活

食生活にも原因が潜んでいます。過食、早食い、脂肪分の多い食物をよくとることなどによっても括約筋の機能低下、いわゆる弛緩(しかん:ゆるむこと)が起こりやすくなることが知られています。また、不規則な食事は胃の酸度を上げることになり、胃食道逆流症の要因になります。

「喫煙や過度の飲酒も噴門機能低下の原因になります。コーヒーは、胃酸分泌を増やしますが、全体としてみると胃食道逆流症の危険因子ではありません。香辛料については、胸やけ症状の誘因となることはありますが、食道炎の原因にはなりません」(松橋先生)

食道裂孔ヘルニア

その他の原因として、食道裂孔ヘルニア(しょくどうれっこうへるにあ)があります。胸部と腹部を隔てている横隔膜を食道が貫いている部分を食道裂孔といいますが、この裂孔より本来下にあるべき胃の粘膜が食道の方へ飛び出してしまった状態が食道裂孔ヘルニアです(図3)。噴門と横隔膜を適切な位置に固定する横隔膜食道靭帯がゆるむことによってヘルニアが起こり、そのヘルニアのために胃液が逆流しやすくなって食道炎が起こります。

食道裂孔ヘルニアは高齢者に多く見られ、とくに骨粗鬆症のために腰が曲がり背中が丸くなった人では、食道裂孔ヘルニアになる確率が高くなります。

正常

図3 正常

逆流性食道炎

図3 逆流性食道炎

食道裂孔ヘルニア

図3 食道裂孔ヘルニア

図3 逆流性食道炎と食道裂孔ヘルニア

ピロリ菌の影響

ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ) との関わりもあります。ピロリ菌がいると食道炎になりそうなイメージもありますが、実は逆です。ピロリ菌を退治すると、短期的なことが多いですが、逆流性食道炎の症状が強まる傾向があります。

ピロリ菌は、胃という強い酸性の環境にあっても胃の粘膜にすみつくことができる細菌で、慢性胃炎を起こして胃酸の分泌を低下させます。かつての日本ではピロリ菌感染者がとても多くいましたが、そのためもあって逆流性食道炎の患者は少なかったのです。

衛生環境の改善等によりピロリ菌感染者は減少していますが、ピロリ菌感染による胃炎は胃潰瘍や胃がんのリスクになることが分かっているため、見つかった場合はまず除菌治療することがすすめられています。

ピロリ菌を除菌すると胃は元気を取り戻します。胃酸の分泌が盛んになり胃の中の酸性度が高まった結果、新たに逆流症状が現れる場合もあります。しかし心配には及びません。松橋先生によれば「逆流性食道炎の人は、ピロリ菌除菌後1~2カ月はやや悪化することがありますが、1~2年ほどかけて徐々に治まってくる傾向があります」とのことです。これは、食道の粘膜も次第に抵抗力を獲得してくるためだとみられています。

「食道炎が悪化する可能性があるからピロリ菌の退治を見合わせる、というほどの害はないので、胃がん予防のためにもピロリ菌が見つかったら積極的に除菌をしたほうがいいでしょう」と、松橋先生は助言します。

ピロリ菌除菌に伴って症状が現れた場合には、必要に応じて胃酸の分泌を抑える薬を使って様子をみることが多いようです。

患者数の傾向

逆流性食道炎は、1990年頃から増加がみられたという調査報告があります(日本消化器病学会編集「胃食道逆流症(GERD)ガイドブック」)。増加の主な原因は、食生活の欧米化とピロリ菌感染者の減少と考えられています。

NTT東日本関東病院における調査

NTT東日本関東病院の独自調査でも、この十数年で急増がみられるといいます。人間ドックで上部内視鏡検査を受けた方の写真を、2001年と2012年の、それぞれ数百人分ずつ無作為に抽出して傾向を調査したデータをご紹介します。

2001年では食道の出口付近に何も病変のない人が大半で、食道裂孔ヘルニア、逆流性食道炎のある人は、各々7%、4%でしたが、2012年になると、19%、18%へと大幅に増加していました。また、後述するバレット食道も10%から27%へと大幅に増加しています。肥満度の指標であるBMIは、この間に22.6から23.5へと増加傾向がみられました。

関連するピロリ菌陽性率に関する調査では、2006年の32.8%から2016年の12.5%へと急激な減少傾向を示し、日本消化器病学会の報告と同様の傾向を示しています。

図4 患者数の変化(NTT東日本関東病院による調査)
  • 食道裂孔ヘルニア
  • 逆流性食道炎
  • バレット食道
  • ピロリ菌陽性率

図4 患者数の変化(NTT東日本関東病院による調査)

「2000年には数%の方にしかみられなかった食道内の炎症が、ここ最近は20%程度の方にみられ、急に増えたことが確認されています。逆流性食道炎は珍しい病気ではなく、ありふれた病気になりつつあります」(松橋先生)

男性に幅広く見られる傾向

「先述のような腰の曲がった高齢女性が少なくなった現在、一般的に逆流性食道炎は男性に多い傾向があります。当院の人間ドック利用者データでも、最近では内視鏡で食道炎があったのは女性では4.5%に対し、男性では17.6%でした。人間ドックは20代後半ぐらいから受診し始めますが、逆流性食道炎は若年者から高齢者まで幅広い層に見つかります。とは言っても、加齢も関係しますから若年者に重度の逆流性食道炎はほとんど見られません」(松橋先生)

遺伝要因はあるか

発症の家族歴については明確なデータがなく、遺伝要因については明らかになっていません。しかし、松橋先生は「親が太っていれば、その子どももやはり太っていることが多いように、遺伝要因のほか食生活などの生活習慣も親子で似る傾向があるため、家族内で発症しやすい傾向はあると思います」と語ります。

バレット食道について

逆流性食道炎が長期的に続くと、バレット食道という状態に進行することがあります。

食道の粘膜は「扁平上皮(へんぺいじょうひ)」、胃や腸の粘膜は「円柱上皮」という異なる種類の粘膜で覆われています。バレット食道は、胃液が慢性的に逆流して食道粘膜が損傷を受けた結果、粘膜の性質が扁平上皮から胃と同類の円柱上皮に置き換わるというものです。ただし、本当に酸やペプシンだけでバレット食道が起きるのかについては、まだ完全に解明されていません。

食道炎との関係

バレット食道の進行を見極めることは、実はなかなか困難だとされます。食道炎があってバレット食道がどんどん進む人もいますが、食道炎がある人がすべてバレット食道にまで進むわけではありません。また、活動的な食道炎がないにもかかわらず、急にバレット食道が進む人もいます。単純な関係とは言えないようです。

バレット食道になると、腺がんというタイプの食道がんを発症するリスクが上昇することが知られています。詳しくは、後述する「食道がんとの関係」をご覧ください。

松橋 信行先生の詳細プロフィール
NTT東日本関東病院 消化器内科 部長 松橋 信行

NTT東日本関東病院 消化器内科 部長

取得専門医・認定医

  • 日本内科学会認定内科医・内科指導医
  • 日本消化器病学会専門医・指導医
  • 日本消化器内視鏡学会専門医・指導医