医療特集
脳卒中について - 注意すべき症状は?治療は一刻も早く
更新日:2017/04/13
脳卒中の疑いがあるときに行う検査内容と、発症からの時間、症状に応じた治療について伺いました。
お話を伺った先生:
NTT東日本関東病院 脳神経外科部長 脳卒中センター長兼任
井上 智弘(いのうえ ともひろ)
脳卒中が疑われる注意すべき症状
脳卒中が起きると、その種類に関わらず以下のような症状がよくみられます。気になる症状があった場合は速やかに医療機関を受診し、検査を受けるようにしてください。
どの脳卒中にもあてはまる症状
- 半身まひ(片まひ)
- 手足のしびれ(力が入らない)
- ろれつが回らない(言語障害)
- 風邪でもないのに頭痛
- 急に生じためまい
- ものが二重に見える(複視)
- 貧血や耳の病気がないのにめまい
- まっすぐに歩けず、歩行が不自由(体幹・四肢失調)
- 直線が書けない
- 意識がなくなる(意識障害)
特徴的な症状
- 脳出血は、発症したときに頭痛や嘔吐を伴うことがある
- くも膜下出血は、猛烈な頭痛と吐き気、嘔吐を伴い、そのまま意識を失うことがある
脳卒中の検査と診断
「特徴的な症状をあげることはできますが、脳卒中の症状は実際には千差万別で、患者さんの症状だけで脳梗塞か脳出血か、あるいはくも膜下出血かを特定することはできません。診断にはCTやMRI、MRA(MR angiography:磁気共鳴血管造影)などの画像検査が必要です」と井上先生は話します。
病院に来た患者さんに脳卒中の疑いがあれば、まず、意識の有無や呼吸、脈拍、血圧、体温などのバイタルチェックのほか、血液や電解質などの検査をします。さらに意識レベル、神経学的なチェック、頭部CTの画像データなどで評価して診断がつけば、病態に応じて専門医による治療がはじまります。
検査内容
以下に検査項目と内容をまとめました。
項目 | 内容 |
---|---|
家族または本人への問診 | いつ、どこで、どのように発作を起こしたかに加え、病歴や治療中の病気の有無、服用している薬の種類などを具体的に。食生活や喫煙・飲酒の習慣などについて聞かれることもある |
神経学的検査 | 脳や神経系の障害の有無や程度を調べる検査の総称。脳卒中が疑われる場合、意識の有無、体や眼球の動き、各種の間隔、体の反射などについて検査が行われることが多い |
CT(コンピュータ断層撮影検査) | 体にX線を照射してスキャンしたデータをコンピュータ処理し、体の横方向の断面図を撮影する。出血した部位がはっきり映るので出血性の脳卒中の診断に役立つ |
一般的検査 | 脳卒中の原因となる生活習慣病や合併しやすい病気の有無・程度を調べるため、胸部や腹部のX線撮影、心電図検査、血液検査、尿検査などが行われる |
MRI(磁気共鳴画像)検査 | 磁気と電波を利用して、様々な角度から体の断面図を撮影する。CTより詳しい画像が得られるため、発症直後の脳梗塞の病巣もみつけることができる |
脳卒中の治療
脳梗塞の治療
脳梗塞は詰まったところから先の血管に血液が流れていかないので、血流が途絶えた脳細胞は時間とともに壊死しはじめます。壊死する領域(梗塞巣:こうそくそう)が広がるほど、後遺症が残り、生命の危険が増すので、梗塞巣が広がらないうちに一刻も早く治療を始めなければなりません。
t-PA静注療法
t-PA静注療法は、t-PAという強力な薬を静脈から入れて血栓を強力に溶かす方法で、約10年前から利用できるようになりました。原則として発症から4時間半以内であれば、t-PAの適応となります。
「4時間半以内にt-PAを静脈注射すれば、3カ月後の予後がt-PAを行わない人に比べて極めて良好であることが欧米での研究でわかっています」(井上先生)
早い段階でt-PAを投与して血流が再開すれば、後遺症が残りにくく、また残ったとしても社会復帰の可能性が高くなります。ただし、4時間半は治療開始までの時間ですから、実際に病院で検査・診断を受ける時間を考慮すれば、およそ3時間半以内には専門病院に到着している必要があります。
反対に、4時間半を過ぎてt-PAを使うと、脳出血の危険性が高まるため使用することができません。血液の流れなくなった血管はもろくなっているので、血栓が溶けて勢いよく血液が流れ込むと血管が破れる恐れがあるからです。
t-PAは劇的な治療効果が期待できますが、一方で脳出血のリスクもともなうため、適応が厳密に決められています。過去3カ月以内に脳梗塞があった、最近大手術を受けている、血圧が高過ぎる、血糖異常などのケースには使用することができません。
血管内治療
血管内治療は、カテーテルを足の付け根の動脈から入れ、脳の血管の詰まったところまで導いて、先端に付けてあるデバイス(装置)を使って血栓を除去する方法です。t-PAによる効果がみられないとき、あるいは発症後4時間半以上たってしまったときなどのt-PA適応外で、梗塞巣があまり進展していないケースに用いられます。t-PAと併用することもあり、発症後8時間以内であれば血管内治療の対象となります。
血栓を取り除く血管内治療には、次のような方法があります。
- 1.ステントリトリーバーによる血栓回収療法
- ステント(網目状の金属製の筒)で血栓を絡め取って回収する(ステントレトリーバー)。いくつかのタイプが保険適用になっている(Solitaire FRなど)。
- 2.吸引カテーテルによる血栓回収療法
- 吸引カテーテルを塞栓の近位部密着させ、持続吸引をかけてカテーテルごと塞栓を吸引回収する。(ペナンブラシステムなど)
血管内治療は現在普及しつつある段階で、何種類かは保険適用とされ、実施する医療施設も増えています。
アテローム血栓性脳梗塞の治療
前述したとおり、アテローム性動脈硬化はゆっくり進行するため、発症しても症状が軽いことがあります。
「このようなケースには、再発予防に抗血小板薬を使います」(井上先生)
血小板とは、出血の際の血液を止める成分ですが、血管内皮に血栓をつくる原因となるので、この血小板の作用を阻害して脳梗塞を予防するのです。
また、さまざまな検査をした上でのことですが、バイパス術といって、脳の血管の末梢に頭の皮膚の血管を縫い付けるような手術をする場合があります。
プラークが頸動脈にできている場合は、頸部内頸動脈血栓内膜剥離術(けいぶないけいどうみゃくけっせんないまくはくりじゅつ)などが適応になることもあります。
心原性塞栓症の再発予防
血液が固まりにくくなる抗凝固療法を行います。しかし、この治療が効き過ぎて出血を引き起こしては、元も子もありません。これまではおもにワーファリンという薬が使われてきましたが、最近はNOAC(ノアック)またはDOAC(ドアック)と呼ばれる新しい抗凝固薬が使われるようになってきました。
NOAC/DOACは、脳出血などの出血性のイベント(発症)が起こりにくい薬です。もちろん今までどおりワーファリンを使用するケースもあります。
脳出血の治療
脳出血は、出血部位、意識のレベルなどによって治療方針が決められます。
意識のレベルがはっきりしていて、特に脳ヘルニアの心配がなければ、薬や点滴、血圧などの管理を行います。意識レベルの低下、瞳孔の拡散、血圧上昇などがみられる場合は、脳ヘルニアが疑われます。
脳ヘルニアとは、脳出血時にできる血腫や脳浮腫などが脳を圧迫し、脳を仕切っている硬膜からはみ出した状態をいいます。脳ヘルニアによって脳幹が圧迫されると生命に危険が及ぶため、急いで手術しなければなりません。
「脳の出血は、基本的には病院に来たときには止まっています。血腫が4~5cm以上占拠していると圧迫が強いと考えられ、開頭手術の適応になります」(井上先生)
くも膜下出血の治療
おもな治療は、血腫を除去して脳血管の攣縮(れんしゅく:けいれん性の収縮)を防ぎ、動脈瘤からの再出血を防ぐ手術を行います。
動脈瘤に対する手術には、クリッピング術とコイル塞栓術があります。
クリッピング術
開頭し、動脈瘤を直接クリップで挟んで止血する方法です。開頭するので患者さんへの負担が大きく、高齢者などには不向きです。
コイル塞栓術
足の付け根の血管からカテーテルを挿入して脳動脈瘤まで到達させ、金属製のコイルを詰めて、動脈瘤内への血液の流入を防ぎます。患者さんの体への負担は少なくてすみますが、大きい動脈瘤などには実施できません。
NTT東日本関東病院 脳神経外科部長 脳卒中センター長兼任
取得専門医・認定医
- 日本脳神経外科学会専門医
- ECFMG certificate
- 医学博士(東京大学)