医療特集
大人のアトピー性皮膚炎について - 症状・原因・検査
更新日:2016/10/05
アトピー性皮膚炎は、小児期に発症するアレルギー疾患のイメージが強いですが、症状を抱える人は成人にも多くみられます。五十嵐先生は、「きちんと治療すればほとんどの方が皮膚の健康を維持できるようになります」と語ります。詳しく伺いました。

お話を伺った先生:
NTT東日本関東病院 皮膚科 部長
五十嵐 敦之(いがらし あつゆき)
アトピー性皮膚炎とは
アトピー性皮膚炎という病名は、「奇妙な」「とらえどころのない」という意味の「atopia」というラテン語に由来します。昔からある病気で、かつて日本では「尋常性湿疹」と呼ばれていましたが、1933年に皮疹を分類した米国人医師ザルツバーガーによって、「アトピー性皮膚炎」と命名されました。
アトピー性皮膚炎は皮膚のアレルギー疾患です。皮膚のバリア機能に異常があると、そこから刺激やアレルゲン(アレルギーの原因となる物質)が侵入しやすくなりますが、それを排除しようと免疫機能が過剰に反応して、痒みを伴う発疹が起こります。増悪と寛解(症状が消えた状態)を繰り返すのが特徴です。
アトピー素因
患者さんは、アトピー素因と言われる要因を持っています。これは、家族歴(家族や血縁者の病気の履歴)、アレルギー疾患の病歴(気管支喘息、アレルギー性鼻炎・結膜炎、アトピー性皮膚炎のうちいずれか、あるいは複数)、そして、アレルギーのなりやすさ(後述するIgE 抗体の産生しやすさ)が含まれます。
炎症が起こる場所は、年齢によって異なります。乳児期は、頭、顔から皮疹が出て、体幹や手足へと拡大します。また幼児期から学童期には、肘や膝の関節の内側など汗のたまる場所も皮疹が出やすくなります(図1)。

図1 乳児期から学童期
思春期や成人期になると、顔面を含む上半身に皮疹が強く出る傾向があります。成人になって治療が不十分な場合、苔癬化(たいせんか:皮膚が硬くなってしまうこと)することがあります(図2)。

図2 思春期から成人期
アレルギー・マーチ
アトピー素因のある子どもは、アレルギー性疾患を次から次へと発症することがあります。典型的な例では、生後数カ月で、牛乳、卵などの摂取による皮膚症状(皮疹やアトピー性皮膚炎)や消化器症状(下痢、腹痛、便秘など)が起こり、次に喘息の症状が現れ、さらにアレルギー性鼻炎を発症する…といったように、年齢に応じて順を追ってアレルギー疾患が現れます。これをアレルギー・マーチ(アレルギーの行進)と呼ぶことがあります。
アトピー性皮膚炎の統計
日本では、人口の1割がアトピー性皮膚炎に罹っているとされます (※1) 。伸びは緩やかになってきましたが、それでも相当な数の患者さんがいます。子どもの病気で、成人すれば治るものだと考えられがちですが、アトピー性皮膚炎の患者全体に含まれる成人の患者の割合は、アレルギー疾患の中でも多く、大人のアトピー性皮膚炎は、決して珍しくありません(図3)。
※1 厚生労働省 リウマチ・アレルギー対策委員会報告書(平成23年8月)より

図3 アレルギー疾患の年齢別患者構成割合の比較(平成26年)
厚生労働省 アレルギー疾患の現状等(平成28年2月)より
小学生であれば、1クラスに数人のアトピー性皮膚炎の患者さんがいるはずですが、多くの人は年齢が上がるにつれて、自然に症状が治まってきます(自然治癒)。一方、ごく一部の重症の患者さんでは、20歳を過ぎても治りきらないことがあり、65歳以上の高齢者になっても症状のある人もいます。東京都健康長寿医療センター研究所の調査によれば、高齢者ではアトピー性皮膚炎の人が1~3%いるとのことです。
幼い頃にアトピー性皮膚炎にかかったことがなくても、20歳を過ぎて発症する人はいます。しかし、中高年でいきなり発症する人はまれです。成人の患者は、前述した家族歴や他のアレルギー疾患の既往歴のある人がほとんどで、全く何も素因のない人が急にアトピー性皮膚炎を発症することはまずありません。
アトピー性皮膚炎の原因
遺伝要因
アトピー素因にも家族歴が含まれているように、遺伝的体質は大きな要因です。しかし、例えば一卵性双生児であっても、2人ともアトピー性皮膚炎である割合は50%程度との報告もあり、遺伝的な体質で100%決まる病気ではありません。
環境要因
アトピー性皮膚炎の原因となる環境要因として、季節・天候、気温・温度、衣服、住環境(ホコリやダニ、ペット)などがいわれています。
年間でみると夏や冬に悪化しやすく、周期的に増悪を繰り返すことがあります。
夏は汗をかいたり、赤外線を含む日差しを浴びて皮膚温が上昇したりすることで、痒みが強くなります。
冬は大気が乾燥することで皮膚も乾燥し、痒みの閾値(いきち:境界値)が下がることで、痒みを感じやすくなる傾向があります。また、花粉症が合併している人が多いので、相乗的に春には皮膚症状が悪化することがあります。
衛生仮説
先進国では、全般的にアレルギー疾患が増加していますが、その原因を説明する考え方として、「衛生仮説」と言われるものがあります。
これは1989年に英国の研究者により提唱されたもので、衛生環境が整ってくるとアレルギー疾患が増えるという説です。乳児期まで不衛生な環境であると、免疫系が細菌やウイルス、寄生虫などの攻撃に向かうので、アレルギーの発症は低下します。一方、衛生的な環境になると細菌やウイルスなどに反応する免疫細胞が成熟しなくなり、替わって、花粉・ダニ、ホコリなどに反応する免疫細胞が優位になって、アレルギー疾患が起きやすくなるというものです。
実際に、先進国では発展途上国に比べてアトピー性皮膚炎の有病率が高いといわれ、日本でも都市部に多く農村部には少ない、という報告もあります。この仮説をヒトで証明することは難しいのですが、動物実験では証明されています。
二重抗原曝露仮説
アトピー性皮膚炎の発症は食物アレルギーと関連が深く、近年「二重抗原曝露仮説(にじゅうこうげんばくろかせつ ※2 )」という説も唱えられています。
※2 曝露(ばくろ)とは、アレルギー原因物質にさらされることです。
これまで食物アレルギーは、消化が未発達な子どもがタンパク質を摂取すると、十分に消化されないまま腸管を経由して吸収され、それが抗原(こうげん:アレルギーの原因物質=アレルゲンのこと)となって、腸管で感作(かんさ:アレルギー反応を起こし得る状態となること)が成立すると考えられていました。このため、アレルギー素因のある子には、早いうちから離乳食をあげるのは良くないとされていたのです。
二重抗原曝露仮説は、腸管ではなくまず皮膚で感作されるという考えです。家のホコリの中には、食べこぼしなどによる、卵のタンパク質や牛乳といった抗原が存在しています。乳児に皮疹があって皮膚のバリア機能が落ちている所へそのようなホコリが付くと、食べ物の抗原が皮膚を通して吸収(経皮吸収)され、皮膚で感作されてアレルギー疾患になるというものです。
経皮感作をひき起こした事例
これを証明するような事件が2010年に起こりました。滑らかさを保つ成分として小麦が用いられたせっけんを使っていた人が、小麦が原料の食品を食べてアナフィラキシー (※3) ・ショックを起こし、社会問題になったのです。これは、小麦が経皮的に感作されてアレルギーが成立し、次に食物アレルギーが起こったと考えられます。
※3 アナフィラキシーとは、急性の重度なアレルギー反応のことで、蕁麻疹などの皮膚症状、唇の腫れなどの粘膜症状、くしゃみ、息切れなどの呼吸器の症状や血圧低下などの症状が複数同時に現れ、呼吸困難などで命を落とす危険もあります。ショック状態になった場合を アナフィラキシー・ショック といいます。
経皮的に感作される例は他にもあります。例えばカイガラムシからとるコチニールという赤い色素は、口紅などに使用されます。まれに、荒れた唇から吸収されたコチニール色素で感作が成立し、コチニール色素が入った食品(かまぼこやリキュールなど)を飲食して息苦しくなったり、蕁麻疹といったアレルギー症状が出たりする人がいます。ほとんどは、口紅を使う女性に起こります。
アトピー性皮膚炎にとって大切なことは、子どもの頃から皮膚の状態をしっかりコントロールしておかないと、後から色々なアレルギーが出てきてしまうという点です。最近は、小児期からスキン・コンディションを整えることの必要性が唱えられています。
アトピー性皮膚炎の診断・検査
アトピー性皮膚炎は一般に皮膚科で診断します。小児で食物アレルギーや喘息がある場合は、小児科の受診を促すケースもあります。
アトピー性皮膚炎の診断は、皮疹の状態をよく観察し、痒みや経過などについて患者さんに詳しく問診することから始めます。NTT東日本関東病院の皮膚科では、アトピー性皮膚炎の初診の患者さんには、最低15分かけてじっくり診ています。
血液検査
重症度などをさらに正確に調べるには血液検査を行います。まず、IgE(免疫グロブリンE)抗体の量を調べます。血清総IgE値とは、言わばアレルギーのなりやすさを測るもので、正常な人には少量しかありませんがアレルギーの人は高い値を示し、アトピー性皮膚炎患者も約8割は高値を示します。
通常の治療をして良くなっていれば特別な検査はしませんが、良くならない場合は、アレルゲンを突き止めるといった目的で血液検査やプリックテストを行うことも有効です。
プリックテスト
プリックテストは、アレルギーの原因を検査するために用いられるテストです。Ⅰ型と呼ばれる「即時型」のアレルギー(ダニ、ハウスダスト、花粉、真菌、食物など)の特定ができます。
前腕の皮膚に細い針で浅い傷(プリック)を付け、アレルゲンのエキスを1滴ずつ落として、15分ほどして赤味や痒みが出ないかどうかを確認します。
血液検査は結果が出るのに数日かかることが多いですが、プリックテストは短時間で確認できるメリットがあります。
重症度の評価
アトピー性皮膚炎の短期的な重症度や病勢の参考とするために、血液検査で好酸球数、血清LDH(lactate dehydrogenase)値、TARC値(Thymus and activation-regulated chemokine)などを調べることもあります。これらの数値は病勢と関連して変動し、皮膚の状態が良くなると下がってきますので、治療効果を実感するためにも使えます。

NTT東日本関東病院 皮膚科 部長
取得専門医・認定医
- 日本皮膚科学会専門医