病気事典[家庭の医学]
頭が痛い(頭痛)
執筆者: 昭和大学横浜市北部病院院長 田口 進
頭痛
私たちの頭部は、脳実質を中心にして軟膜、くも膜、硬膜、頭蓋骨、筋肉、頭皮によって何重にもとり巻かれ、そのなかに血管や神経が複雑に入り込んでいます。何らかの原因で、頭部血管の拡張、筋肉の緊張、神経の圧迫、炎症や出血があったりすると頭痛が起こってきます。また、眼や鼻、耳、歯などの異常によっても、さらにはっきりした病気だけでなく、身体的・精神的な状況、生活・環境因子によっても、頭痛は起こります。
頭痛は、その起こり方や持続時間、痛み方、部位、随伴症状などに注意します。頭痛は、起こり方から急性頭痛、亜急性進行性頭痛、慢性頭痛の3つに大別することができます。
頭痛から考えられる主な病気
主な症状と、付随する症状から、疑われる病気を調べることができます。
病気名を選択すると、その病気の解説へ遷移します。
急性頭痛
亜急性進行性頭痛
慢性頭痛
症状 | 疑われる病気名 |
---|---|
主に頭の片側に脈打つような痛み、吐き気・嘔吐、光や音に過敏 | 片頭痛 |
主に後頭部に圧迫されるような重い痛み、首筋の張り、肩こり | 緊張型頭痛 |
片側の目の奥や側頭部に激しい痛み、結膜充血、流涙、鼻みず | 群発頭痛 |
吐き気、嘔吐、てんかん、片麻痺、言語・感覚・視野障害 | 脳動静脈奇形 |
発汗過多、動悸、やせ、便秘、胸痛、視力障害 | 褐色細胞腫 |
不安、緊張、いらいら、肩こり、動悸、めまい、頻尿、下痢、不眠 | 全般性不安障害 |
その他 | 三叉神経痛 、 高血圧 、 低血圧症 、 うつ病 、 眼精疲労 、 睡眠時無呼吸症候群 、頭頸部筋肉・靱帯の障害、貧血、目や鼻の炎症、ストレス、睡眠不足、薬物、椅子の高さが合っていないなど |
- [ご利用上の注意]
- 一般的な医学知識の情報を提供するもので、皆様の症状に関する個別の診断を行うものではありません。気になる症状のある方は、医療機関にご相談ください。
急性頭痛
激しい頭痛が数分から数時間で急激に進行する頭痛です。
くも膜下出血
その代表がくも膜下出血で、くも膜と脳の間のくも膜下腔に出血した状態です。最も多い原因は脳動脈瘤(りゅう)の破裂で、脳の動脈がこぶのようにふくれて破裂することで発症します。
頭痛は、頭全体、時に前頭部、後頭部に起こります。頭痛の第1の特徴は、突然に起こり、持続することです。この突然とは、○時○分○秒にとか、部屋を出て3歩歩いたら頭痛が起こった、というほどの突然さです。第2の特徴は、「バットで殴られたような痛み」などとも表現される、今まで経験したことがないほどの強い頭痛であることです。
頭痛と同時に、吐き気、嘔吐、首の後ろ(うなじ)が凝(こ)る(項部硬直(こうぶこうちょく))などの髄膜(ずいまく)刺激症状が起こり、出血量が多い時には、すぐに意識がなくなってしまいます。
なお、やはり危険な出血である脳出血でも頭痛が起こりますが、必ず頭痛が起こるとは限らず、意識障害、片麻痺(体のどちらか片側の麻痺)、吐き気、嘔吐、失語症などが多くみられます。
急性頭痛のなかには、命にかかわるものが少なくありません。強い頭痛や意識障害などが出現したら、大至急、救急車を呼び、心肺蘇生法を行うことが必要です。
亜急性進行性頭痛
数日から数週間で進行するもので、はじめはそれほどでもない痛みが次第に強くなっていきます。
脳腫瘍
頭蓋内にできた腫瘍がだんだんと大きくなり、それに伴って頭痛をはじめ、さまざまな症状が現れてきます。頭痛は突然に起こることは少なく、慢性的に持続し、一般に朝起きた時に強く、次第に弱くなっていく傾向にあります。
頭痛のほか、吐き気、嘔吐、けいれん、麻痺、眼のぼやけ、言語障害、性格の変化、行動異常、意識の低下なども現れてきます。成人で、今までにてんかん発作の経験がない人が初めて発作を起こした場合は、脳腫瘍が強く疑われます。
慢性硬膜下血腫
慢性硬膜下血腫は、軽い頭部外傷ののち、脳の硬膜とくも膜の間に血液がたまる病気です。受傷1~2月ほどたったころ、頭痛や意識障害、片麻痺や失語症などが現れてきます。男性、とくに中年以降でアルコールを大量に飲む人に多く発症します。
軽い外傷のため、受傷したことを忘れていることもよくあり、右記のような症状が週・月・年単位で現れてくるようなら、この病気の可能性があります。
慢性頭痛
頭痛の多くは慢性頭痛で、脳自体に何か病気があって起こるものではありません。大別して、次の3つがあります。
片頭痛
片頭痛は一般に、頭の片側にズキンズキンと脈打つような拍動性の痛みが起こる頭痛で、吐き気や嘔吐を伴い、光や音に対して敏感になります。女性、なかでも比較的若い年齢層(10~40代)に多く発症します。
片頭痛は、頭痛が起こる前に予兆や前兆を伴うことがあります。予兆としては、食欲亢進、あくび、感覚過敏、むくみ、興奮、疲労感などが、頭痛の2~3日から現れます。
前兆としては、閃輝性暗点(せんきせいあんてん)(視野にキラキラ光る境界をもった見えない部分)などの視野障害や感覚障害、運動障害などが現れます。この前兆は通常4~60分間続き、前兆が消えてから60分間以内に頭痛が始まります。頭痛は長くても3日以内で治まります。
緊張型頭痛
痛みというより、重い感じ、圧迫される感じ、何かをかぶった感じ(被帽感)などと表現される頭痛で、日本人の20~30%がもつといわれる最も多い頭痛です。口やあごの機能異常、ストレス、不安、うつなどが誘因となって、頭部を支える筋肉が緊張して痛むと考えられています。
頭痛は徐々に始まり、多くは1週間~10日ほど続きます。時には1カ月のうち15日以上、ほとんど毎日続くことがあります。
片頭痛のように吐き気や嘔吐、光過敏・音過敏を伴うことはあまりなく、歩行などの日常動作でも頭痛が増悪しません。
群発頭痛
ある一定の期間、毎日のように激しい痛みが、片側の眼の奥や上部、または側頭部に起こる頭痛で、よく「眼の奥がキリでえぐられるような」などと表現されます。多くの場合1~2カ月間、毎日、夜間や明け方のほぼ一定の時間に1~2時間続き、その後自然に治まっていきます。
頭痛とともに、結膜の充血、流涙(りゅうるい)、鼻みず、鼻づまり、まぶたのむくみ、縮瞳(しゅくどう)、眼瞼(がんけん)下垂、前頭部・顔面の発汗などの症状を伴います。
原因はまだわかっていません。有病率は0・1%以下とされ、まれな頭痛です。片頭痛が女性に多いのに対し、群発頭痛は男性に多いことが特徴です。