病気事典[家庭の医学]
病気とけがの基礎知識「膠原病」
膠原病(こう/げん/びょう)という病気の考え方
膠原病は、病理学者ポール・クレンペラーが1942年に提唱した「病気の考え方」です。
長い間、病気は特定の臓器が損なわれて起こるとする「臓器病理学」の考えが支配的であり、病気の診断は臓器の病変に基づいて行われていました。しかし、クレンペラーは、全身性エリテマトーデスのようにいくつもの臓器が同時に損なわれ、どの臓器が病変の中心であるのかを特定することができない病気があることに気づきました。
そして、綿密な病理組織学的検索によって、全身の結合組織が病変の場所であり、しかも膠原線維のフィブリノイド変性という病理組織学的変化が共通してみられることを示し、このような特徴をもつ疾患のことを「膠原病(Collagen Disease)」と命名しました。
クレンペラーが膠原病として最初に選んだ6つの疾患、全身性エリテマトーデス、リウマチ熱、強皮症(きょう/ひ/しょう)(全身性硬化症)、皮膚筋炎および多発性筋炎、結節性動脈周囲炎、関節リウマチは古典的膠原病とも呼ばれます。
現在ではこれらに加えて、シェーグレン症候群、混合性結合組織病、アレルギー性肉芽腫性(にく/げ/しゅ/せい)血管炎、ウェゲナー肉芽腫症、高安(たか/やす)動脈炎、側頭(そく/とう)動脈炎、好酸球性筋膜炎(こう/さん/きゅう/せい/きん/まく/えん)、成人スティル病、ベーチェット病などの原因不明の全身性疾患も膠原病の一種とされています。これらの病気には共通した特徴がみられます( 表1 )。
「膠原病」は病名ではない
膠原病の考え方は、とりわけ臨床医には広く受け入れられました。クレンペラーは「膠原病」が「診断名」としてあまりにも安易に使われすぎることを懸念し、この名称は臨床的および病理学的に理解が困難な症例に対する“くずかご的診断名”として用いられるべきではないと警告しました。クレンペラーの意図したことは疾患の概念(成り立ち)の提唱であり、決して疾患名や診断名を提供することではありませんでした。
このような経緯から、現在では欧米で「膠原病」の名称が用いられることはあまりなく、「結合組織疾患」や「リウマチ性疾患」が用いられています。一方、日本では「膠原病」の名称は、ともすると病名としても誤用されるきらいがあるものの、現在でも広く定着しています。
膠原病とリウマチ性疾患の関係
「リウマチ(rheumatism)」という言葉は、もともとはギリシャ語で「流れ」を意味し、痛みの原因になる物質が体のなかを流れると考えたことからつけられた名前です。ここから、関節・筋肉・骨などの運動器官の痛みを伴う病気をすべてリウマチ性疾患と呼んでいます。日本では単に「リウマチ」という場合は、関節リウマチという特定の病気のことを指すことが多いようです。
膠原病全般に共通する症状のひとつとして全身の関節の痛みが高頻度にみられることから、膠原病のほとんどはリウマチ性疾患でもあります。また、逆にリウマチ性疾患のなかには膠原病の特徴に当てはまる病気が多くみられます。
膠原病は自己免疫疾患
免疫はもともと外来の微生物から体を守る生体防御機構ですが、外から侵入する病原菌など(外来抗原)と自分自身を構成する成分(自己抗原)を厳密に区別して、自己抗原には免疫応答が起こらないような仕組みが備わっています。
しかし、膠原病患者の体内では自分自身の成分と反応してしまうリンパ球(自己反応性リンパ球)や抗体(自己抗体)が作られてしまい、このことが膠原病という病気を引き起こす原因になっていると考えられています。
このために膠原病は自己免疫疾患とも呼ばれます。したがって、膠原病の治療には病気を引き起こすリンパ球のはたらきを抑えたり、自己抗体の産生を抑えるために、副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制薬が用いられます。
「難病」としての膠原病
膠原病は原因が不明で治療法のない「難病」というイメージがありました。事実、日本では膠原病とその近縁疾患の多くは、厚生労働省によって特定疾患(いわゆる難病)に指定され、公費補助対象疾患とされています( 表2 )。
しかし、近年の医学の進歩によって、膠原病の生命予後は大きく改善しました。膠原病の代表的疾患である全身性エリテマトーデスでは、ステロイド治療が導入される以前の3年生存率は50%以下でしたが、1960~70年代には5年生存率75%、1980年代以降の5年生存率は90%以上と劇的な生命予後の改善がみられています。このような生命予後の改善傾向は他の膠原病についても確認されています。
これは、ステロイド薬の導入のみならず、ステロイド薬のきめ細かい投与法の確立、免疫抑制薬の開発、人工透析(とう/せき)による腎不全死の減少、抗生物質の進歩による感染症の克服など、医療全般の向上が関係していることは疑いありませんが、その一方で診断技術の向上による早期診断、また従来は見逃されていた軽症例の増加も関係していると考えられます。
膠原病の現在の問題
全般的な生命予後が向上する一方で、依然として治療法が確立していないために死亡率が高く、または重い障害を残すような難治性病態がクローズアップされるようになりました。
このような障害としては、全身性エリテマトーデスの重症腎障害、中枢神経症状、肺胞(はい/ほう)出血や、強皮症の線維化病変、ステロイド抵抗性筋炎、膠原病に合併する間質性(かん/しつ/せい)肺炎や肺高血圧症、結節性多発動脈炎やウェゲナー肉芽腫症などの全身性血管炎、劇症型抗(げき/しょう/がた/こう)リン脂質抗体(し/しつ/こう/たい)症候群、難治性の関節リウマチやアミロイドーシスなどがあげられています。
また、膠原病自体の症状というよりも、むしろその治療によって誘発される症状があり、ステロイド薬による精神症状、骨粗鬆症(こつ/そ/しょう/しょう)、日和見(ひ/より/み)感染症、糖尿病、大腿骨頭壊死症(だい/たい/こっ/とう/え/し/しょう)、動脈硬化症や、免疫抑制薬による感染症や悪性腫瘍の誘発などが大きな問題になってきています。
膠原病の新しい治療法
近年、膠原病の原因や成り立ちが次第に明らかにされつつあり、このような知見に立脚した新しい治療方法が開発されています。TNF‐α(アルファ)やインターロイキン(IL)‐6などのサイトカイン(炎症を引き起こすもととなる蛋白質)やそのレセプター(受容体)に対するモノクローナル抗体、サイトカイン拮抗薬などの生物学的製剤を用いた抗サイトカイン療法は、とくに関節リウマチで広く応用され、大きな成果をあげています。さらに、抗体産生細胞であるBリンパ球を標的とした抗CD20抗体も難治性の全身性エリテマトーデスなどで効果が期待されています。
また、ガンマグロブリン大量療法、血漿(けっ/しょう)交換療法、末梢血幹細胞(まっ/しょう/けっ/かん/さい/ぼう)移植療法などで、膠原病へも適応が拡大されてきています。このような膠原病の難治性病態に対処する有効な治療法が確立されれば、膠原病の生命予後とQOL(生活の質)はさらに向上することが期待されます。
本章の分類・編成について
本章で取り上げた疾患は、すべて膠原病とその関連・類似疾患とされるものです。クレンペラーがあげた古典的膠原病に加えて、多様な自己免疫現象がみられ、他の膠原病にも合併することの多い疾患は膠原病のなかに分類しました。
一方、膠原病の類似疾患ですが、免疫異常があまり認められないものは原因不明の全身疾患として分類しました。免疫不全症候群は膠原病ではありませんが、膠原病では外来微生物に対する免疫応答は低下していることが多く、ステロイド薬や免疫抑制薬による治療の結果としても起こることがあるので、その関連から本章で取り上げることにしました。
執筆者:三森経世