病気事典[家庭の医学]
さいせいいがく
再生医学
再生医学について解説します。
執筆者:
兵庫医科大学遺伝学准教授
中野芳朗
傷害や疾病によって失われたり、機能できなくなった組織や臓器を取り替えようという治療法は、古くから行われてきました。しかし提供される組織や臓器の数は圧倒的に足りないし、移植時には拒絶反応という大きな問題を抱えています。そのようななかで、自然には再生できない組織や臓器を再生させ、機能を回復させようという試みがなされています。これらを「再生医学」といいます。
再生医学には、大きく2つの方法が考えられます。
再生修復能力を引き出す
ひとつは、生体のもつ再生修復能力を引き出す方法です。
人間の体は、切り刻んでも元どおりの形に再生できるプラナリアや、切れても元にもどるイモリの肢のようには、再生できません。しかしながら、皮膚の小さな傷や、切り取られた肝臓が元にもどることは知られています。
最近の多くの研究により、組織には体性幹細胞(かんさいぼう)といって、ある特定の細胞群に分化できる幹細胞の存在が確認されています。これらの幹細胞群を、成長因子や分化因子の導入により、活性化や分化の増進を図ることによって治療を行おうという試みが始まっています。
幹細胞による再生医療
もうひとつは、再生能力をもった細胞を体外で増殖分化させ、その細胞を移植して治療するという方法です。たとえば骨髄(こつずい)移植は、体性幹細胞を応用した再生医療として、現在最も研究の進んでいる移植療法で、移植された他人の造血幹細胞が、患者さんの造血組織のなかで血液細胞をつくり続けるというものです。
無限増殖能と多分化能を兼ね備えたヒトのES細胞の樹立、そしてさまざまな組織での体性幹細胞の発見によって、造血系以外でも同様な治療が可能になるのではと考えられています。さらにES細胞と同等の能力をもったiPS細胞(induced pluripotent stem cell)が、皮膚などの細胞から作製できることが示されたことにより、クローン技術を使うことなく患者さん自身の細胞を使って、拒絶反応のない幹細胞の作製を行うという、夢のような医療が現実視されるようになってきています。
患者さん自身の細胞からiPS細胞を調整し、必要な組織の幹細胞のみを大量に増やして治療に使ったり、あるいは遺伝子治療を施したiPS細胞から目的の組織幹細胞のみを増やして治療に使ったりということが、将来的には可能になると思われます。しかしまだ安全性の面を含めて、さまざまな検討がなされなければなりません。
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