病気事典[家庭の医学]

せんしょくたいのかず・こうぞう

染色体の数・構造

染色体の数・構造について解説します。

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常染色体と性染色体

ヒトの細胞には精子細胞や卵細胞のような生殖細胞と、それ以外の体をつくる体細胞があります。体細胞には46本の染色体があり、それぞれ対になっています。そのうちの22対は男性・女性とも変わらないため常染色体(じょうせんしょくたい)と呼ばれ、残り2本が女性ではX染色体が2本であるXX、男性ではX染色体とY染色体からなるXYです(性染色体)。

常染色体には1から22番までの番号がついていますが、これは基本的には含まれるDNAの量の順となっています(図16表6)。ただし、22番染色体は21番よりも大きいことがわかっています。

体細胞の46本の染色体は、父親の精子と母親の卵子、それぞれから23本ずつの染色体を受け継いで構成されています。卵子に含まれるのは22本の常染色体と1本のX染色体で、精子には22本の常染色体とX染色体もしくはY染色体が含まれます。したがって、胎児の性別は精子によって決定されることになります。生殖細胞に含まれる23本の染色体の1組を1倍体といい、体細胞はこれが2組からなるため2倍体といいます。

ヒトゲノムとDNA

ヒトのすべての遺伝情報を含んでいる完全なDNA塩基配列をヒトゲノムといいますが、ヒトゲノムは核およびミトコンドリアに含まれるDNAからなります。このうち核のDNAは1倍体あたり約31億の塩基対(えんきつい)からなり、1細胞あたりのDNAの長さは1・5mにも及ぶとされています。

この核ゲノムDNAは、蛋白のコアに巻きついたものがさらに高次構造をとった状態で、直径10μm(1マイクロメートル=1000分の1㎜)の核に押し込まれています。染色体は、この核ゲノムDNAが細胞分裂の周期の分裂期(M期)に蛋白質とともに凝縮し、顕微鏡で観察することができるようになったものです。M期以外の細胞分裂の周期(G0、G1、S、G2期)には染色体という形態はとらず、細胞核のDNAとして存在します。

DNAと染色体の構造

DNAは2本の鎖が「はしご」状に合わさった二重らせん構造をとっています。両側の部分は5単糖のデオキシリボースとリン酸基が交互に連結した鎖で、デオキシリボースにはアデニン、チミン、グアニン、シトシンのいずれかの塩基が結合しています。

2本の鎖のそれぞれの塩基のうち、一方の鎖の塩基がアデニンであれば他方の鎖の塩基はチミン、グアニンであればシトシンと決まっており、この組み合わせの塩基の間で水素結合が結ばれ(塩基対)、これが「はしご」の段をつくっています。

このDNAの幅は2nm(1ナノメートル=10億分の1m)で、10塩基対で1旋回しています。染色体の最小単位は、146塩基対のDNAが8個のヒストン蛋白質(H2A、H2B、 H3、H4各2分子)からなるコア(直径約10nm)に、1・75回転左巻きに巻きついたヌクレオソームです。

ヌクレオソームはDNAを介して連結し(リンカー部分)、ヒストンコアに巻き付いた部分とリンカー部分を合わせた1つの単位は200塩基対となります。このヌクレオソームがらせん状に巻きついて30nmクロマチン線維となり、それがさらに折り畳まれ高次構造をとり、G0~G1期には核に収納されています。S期になると細胞の2本鎖の一部がはずれてその部分からDNAの複製が開始され、S期終了時には、もともとの2本鎖DNA1本が2本鎖DNA2本となっています。M期になるとクロマチン線維は蛋白質によってさらに凝縮され、幅700nmの染色分体となります。染色分体は2本鎖DNA2本のうちの1本が高次構造をとった状態です。2本鎖DNAが2本あるため、染色分体も2つ一組となり(姉妹染色分体)、動原体部分で結合した形をとります。これが染色体です。

細胞の分裂と染色体

染色体を構成する2つの染色分体はDNA複製によってつくられるため、1つの染色体の2つの染色分体は同一のDNA塩基配列をもっています。体細胞が分裂する際には動原体に紡錘糸(ぼうすいし)が付着して左右に引っ張ることで、各染色分体は2個の娘(じょう)細胞に分配されるので、2つの娘細胞は同一の遺伝情報をもつことになります。

染色体の両端のテロメア部分は、6塩基の繰り返し塩基配列から構成されていますが、細胞分裂に伴って短縮するため、老化細胞のテロメア部分は若い細胞よりも短くなります。

精子や卵子をつくる場合の減数分裂時には、それぞれ同じ番号の2本の染色体(1本はその人の父由来、他方は母由来)が1組となって並行して並び(対合(ついごう))、染色体の腕(染色分体)が染色体間で交差し交換され(クロッシングオーバー)、その後に染色体ごとの分裂と染色分体の分裂を経て、精子や卵子へと分配されます。

ヒトのゲノムには多少の個人差があるため、両親から受け継いだゲノムは完全に同一ではありません。減数分裂によって精子・卵子のゲノム量はその人のもつゲノム量(2N)の半分(1N)となりますが、この分裂の過程で起こるゲノムの再配列と分配によって、個々の精子・卵子がもつゲノムの構成は大変多様なものとなり、子どもへと受け継がれます。

染色体の同定

染色体は、大きさと動原体の位置からおおまかにその番号が推定できますが、個々の染色体を同定するには、染色体を適切に染色(分染)して得られるバンドのパターンを比較することが必要です。

図16はG分染による正常男性の染色体の核型、「46,XY」を示しています。正常女性は「46,XX」を示します。

Y染色体はもともとX染色体から派生したとされますが、Y染色体上の遺伝子は男性化や精子形成に関わるものが主で、その数も多くありません。X染色体はY染色体よりも大きく、当然ながら遺伝子も多くもちます。しかし、XYである男性にはとくに染色体欠損の症状はみられません。

この理由は、XXである女性では、片方のX染色体上の遺伝子は機能していますが、もう一方のX染色体上の大部分の遺伝子が機能しない状況となっていることによります。このような現象をX染色体の不活化と呼びます。したがって、男性でも女性でも1本のX染色体が機能をもっていることになります。1本のX染色体が正常に機能していれば、Y染色体やそのほかのX染色体に欠損や過剰、構造異常があっても、性成熟や身長の伸びに影響がある場合をのぞいては、発育・発達に影響がないことがほとんどです。

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