病気事典[家庭の医学]

だいおきしん

ダイオキシン

ダイオキシンについて解説します。

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ダイオキシンの解説(コラム)

ダイオキシンとは

 ベンゼン核を2つもつ特定の塩素化有機化合物の総称で200種以上の物質が知られ、最近ではポリ塩化ビフェニール(PCB)も含め、ダイオキシン類と呼ばれています。最も毒性の強いのが2、3、7、8‐テトラクロロジベンゾダイオキシン(TCDD)で、混合物の毒性は各ダイオキシンのTCDDとの毒性比の総和(TEQ)で表されます。

ダイオキシンの歴史

 かつての汚染源は農薬製造時の副産物でしたが、ヒトへの影響は不明でした。その後、1962〜1972年のベトナム戦争で使用した枯葉剤(かれはざい)で奇形児の増加が指摘され、動物実験でも証明されています。1976年にはイタリア・セベソの農薬工場の爆発事故で4万人以上の市民が極めて大量の曝露(ばくろ)(最大血中濃度が一般人の1万4000倍)を受けています。その後、動物実験で発がん性も証明され、またすべての燃焼過程で発生すること、とくに都市ゴミや廃棄物の焼却が一般環境を汚染することもわかり、各国は厳重に規制を行っています。

ヒトへの健康影響

 動物実験から疑われている健康影響には、急性中毒、慢性中毒、発がん、生殖毒性(催奇形性(さいきけいせい))、免疫毒性、肝毒性など多くのものがあります。

 急性中毒では、モルモットのダイオキシンの急性中毒量は青酸ソーダの6万倍とされていますが、大量曝露を受けたセベソの小児でも、急性中毒は顔の塩素ざ瘡(ざそう)(ニキビ)以外にはみられていません。

 その他の毒性については、ダイオキシンの大量曝露を受けていた3つの集団、すなわち農薬の製造従事者、ベトナム参戦の米国軍人、セベソの住民延べ13万人について、曝露後15〜50年の調査が行われています。幸いにして、すべての病気の総和の長期死亡率では19の報告のうちひとつを除いて有意の増加はありません。

 ヒトの発がん性の調査では、26調査のうち6調査でのみ、しかもそのなかで通常の100〜1000倍以上の曝露群で、かつ曝露後20年以上でのみ、がん死亡が1・4倍でした。

 その他、ダイオキシンの催奇形性、免疫毒性、肝毒性、ホルモン異常については多くの調査でも明確な異常はみられていません。生殖毒性について、セベソの調査で、大量曝露事件のあと数年間、生まれた子どものほとんどが女児であったという報告がありますが、同様の日本や台湾での油症の調査では、このようなことはみられていません。

 最近注目されているのが、胎児の時の曝露が生後の生殖機能や甲状腺異常に影響する可能性、すなわち環境ホルモン作用です。日本の調査では母乳中のダイオキシンと乳幼児の身体発育、甲状腺機能、精神発達、免疫機能との間に関係はみられませんでした。

 かつて猛毒で最強のヒト発がん物質といわれたダイオキシンですが、幸いに母乳中の濃度も世界すべての国で過去30年にわたって一貫して低下し、約5分の1〜2分の1になっています。いたずらに恐れることなく、正しい情報を入手し、疑わしきものは予防対策を立て、調査研究の結果で判断していくのが最善だと思います。

 なお、日本でのダイオキシンの耐容1日摂取量(TD1)は詳細な動物実験の結果に10倍の安全率をかけて、4pg/kg/日とされています。ほとんどの人の摂取量はこれ以下ですし、少しぐらいこの値を上回っても、ただちに影響がみられるというものではありません。

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