病気事典[家庭の医学]
かんせんせいしんないまくえん
感染性心内膜炎<感染症>
感染性心内膜炎<感染症>について解説します。
執筆者:
東京慈恵会医科大学感染制御部
加藤哲朗
東京慈恵会医科大学客員教授
柴 孝也
どんな感染症か
感染性心内膜炎とは、心臓の弁膜(べんまく)を中心とした内膜に病原体が定着し、そこで増殖して疣贅(ゆうぜい)(いぼ)を形成して周辺の組織を破壊していく疾患です。
健常な人では起こりにくいのですが、心臓弁膜症・人工弁置換術(ちかんじゅつ)後や先天性心疾患、心筋症など心臓基礎疾患をもった人では、心臓内の血液が逆流・乱流やジェット流を起こし、心内膜が傷つけられます。そこに一時的な菌血症からの病原体が付着・繁殖することが原因と考えられています。
原因菌としては、緑色連鎖(りょくしょくれんさ)球菌、黄色ブドウ球菌、腸球菌が多いとされます。また人工弁置換術後の人は、前述の菌のほかに表皮ブドウ球菌も原因菌になりえます。
具体的な心臓の基礎疾患としては僧帽弁(そうぼうべん)閉鎖不全症、僧帽弁逸脱(いつだつ)症候群、大動脈弁閉鎖不全症、心室中隔(しんしつちゅうかく)欠損症、動脈管開存症、ファロー四徴症、閉塞性肥大型心筋症などがあります。
また、一過性の菌血症を起こす検査・処置としては、出血を伴う歯科治療、扁桃腺(へんとうせん)摘出、消化管・気管粘膜を含む手術、食道静脈瘤(じょうみゃくりゅう)の硬化療法、前立腺手術、感染巣の切開排膿、経腟的(けいちつてき)子宮摘出、感染時の経腟分娩などがあります。
症状の現れ方
発熱のほか、全身倦怠感(けんたいかん)、易(い)疲労感、体重減少といった非特異的な症状がみられます。不明熱(コラム)の原因として診断されることもしばしばあります。関節痛・筋肉痛も認められます。また、疣贅が内膜からはがれて血流に乗ると、脳塞栓症(のうそくせんしょう)などの動脈塞栓症を起こすことがあります。
そのほか、手のひらの発疹、爪の下の線状出血、四肢末梢の結節(オスラー痛斑)などが認められることがあります。重篤な合併症として、心不全を来したり、感染性動脈瘤をつくり破裂して出血を起こしたりすることがあります。聴診では主に逆流性の心雑音が聴取されます。
検査と診断
感染性心内膜炎が疑われる場合、いちばん重要な検査は血液培養です。抗菌薬が使用されていない状況であれば、ほとんどの場合で血液培養が陽性になります。24時間以内に3セットの検体を採取し、原因菌を同定します。
心臓の超音波検査(エコー)を行うと、疣贅が認められます。経胸壁エコーよりも経食道エコーのほうが感度が高いとされています。
一般検査では、白血球増多、赤沈亢進、CRPなどの炎症反応が陽性となるほか、尿検査異常、貧血、高ガンマグロブリン血症が認められたり、リウマチ因子が陽性になることもあります。
治療の方法
原因菌に感受性のある抗生物質を大量かつ長期的に使用します。緑色連鎖球菌にはペニシリンを使用しますが、アミノグリコシド系抗生物質を併用することがあります。ペニシリンアレルギーの既往のある人や人工弁の症例では、バンコマイシンを用います。
心不全が悪化する場合、原因菌が真菌(しんきん)である場合、塞栓症が反復する場合、膿瘍(のうよう)を形成した場合などは、外科的治療の対象となります。
この病気は予防が重要になります。先に述べた心臓疾患のある人が歯科的処置などを受ける場合には、ペニシリンなどによる予防投与が必要です。
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