病気事典[家庭の医学]

はいけっかく

肺結核<感染症>

肺結核<感染症>について解説します。

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結核の歴史的背景

日本の死亡率第1位は1950(昭和25)年までは結核であり、国民病といわれ、全国に蔓延(まんえん)していました。第二次世界大戦後、肺結核は順調に減少し続けてきましたが、1997年に43年ぶりに患者数が前年より増加しました。

2007年の結核死亡率は人口10万人当たり1・7人、罹患率は19・8人です。「結核は過去の病気」という認識は誤りであり、注意しなければいけない病気といえます。日本の結核罹患率は、欧米の約5倍も高く、結核はアジア(中国、インドなど)やアフリカ・南米に多い病気といえます。

最近、とくに高齢者の集団感染が多発し、学校や老人介護施設、病院での集団感染など、社会の注目が結核に集まるようになりました。一方、リファンピシンとイソニアジドの効かない多剤耐性結核菌(4~5%)だけでなく、ほとんどの薬の効かない超多剤耐性結核菌(日本では30%)が報告され、治療を困難にしている大きな問題も生じています。抗TNFα(アルファ)抗体治療患者での結核発症や、欧米の先進国と同様、日本でも外国人移民による結核が増加しつつあります。1999年、厚生省(現厚生労働省)は「結核緊急事態宣言」を発表しました。

結核感染と結核の発病

結核は1950年代まで毎年50万人近い患者さんがあり、この時代に青春期を送った現在の高齢者は、大部分が若い時に結核に感染しています。感染した人の5~10%が発病し、発病を免れた人でも3分の1以上の人は、結核菌を体のなかに抱えたまま高齢に達しています(図3)。結核菌は体の抵抗力(免疫力)によって抑え込まれ、冬眠状態になっています。

高齢者が、(1)糖尿病、(2)エイズ、(3)抗がん薬・免疫抑制薬・副腎皮質ホルモン薬による治療、(4)悪性腫瘍、(5)塵肺症(じんぱいしょう)、(6)胃切除や空腸回腸のバイパス手術後、(7)慢性腎不全(人工透析(とうせき))、(8)極端な低栄養状態・大量飲酒、などで体の免疫力が低下すると、冬眠していた結核菌が暴れだすのです。

最近20代を中心に若い世代の結核患者の発生が目立ってきています。結核菌に感染した経験がなく、免疫力をもっていないこと、近代化されたオフィスは気密性が高く、結核菌を含んだ空気が職場内にとどまりやすい(職場での集団感染)ことが原因です。

一方、結核に対する医学教育の不足がいわれており、最近の医師の念頭に肺結核がないことも指摘されています。肺炎を発症した場合、まず結核を考える必要があります。

症状の現れ方

結核の感染・発病は、肺結核患者が咳(せき)をしたり痰を出した時に、しぶき(飛沫(ひまつ))が1m以上飛び、その結核菌を核とした飛沫を吸い込むことによって起こります(飛沫核感染)。

結核の初期症状でよくみられるのは、咳、痰、発熱、倦怠感(けんたいかん)、胸痛です。かぜや気管支炎の症状と似ていますが、咳、痰が2~3週間以上続く場合は、結核を疑って早期に医療機関を受診することが必要です。高齢者では咳が目立たず、食欲不振や体重減少を主症状とする患者さんもいます。

検査と診断

胸部X線写真では、肺の上葉(じょうよう)(肺先部)と下葉(かよう)の上部に、周辺に散布(娘(びょう)病巣)を伴う結節、空洞や石灰化を形成する病変が多く認められます(図4)。一方、HIV感染症(エイズ)に合併する結核では空洞像などが少なく、X線写真像は通常と異なります。

胸水が認められることもあり、また、血液中に結核菌が侵入すれば粟粒(ぞくりゅう)結核の病像を示し、ほかの臓器にも結核病巣を作ることが時にあります。より詳しく結核病巣を調べるために、断層撮影とCT撮影が必要です。

結核感染の有無は、ツベルクリン反応検査やQFT検査(後述)により診断します。発赤や硬結がとても大きい場合や水疱(すいほう)などを伴う強い反応を示した場合は、感染している可能性があります。

しかし、日本ではほぼ全員が幼少時にBCG接種を受けており、多くの人はツベルクリン反応が陽性を示します(90%以上)。したがって、陽性であっても結核感染の確定診断とはなりません。これを補うため「2段階ツベルクリン検査法」を行います。

最近極めて結核感染に特異的な診断法が開発されました。結核菌に存在しBCG菌に存在しない蛋白を用いたQFT(クォンティフェロン)検査(6歳以上)は、接触者検診や集団感染にツベルクリン反応よりも有用であることが示されています。

一方、ツベルクリン反応が強陽性で、かつ患者との接触歴が明らかな場合は、「感染あり」の確率が非常に高いといえます。

治療の方法

標準的な抗結核薬を表4にまとめました。イソニアジド(イソニコチン酸ヒドラジド:INH)、リファンピシン(RFP)、エタンブトール(EB)またはストレプトマイシン(SM)、ピラジナミド(PZA)の4種類の抗結核薬を治療開始後2カ月間投与し、その後イソニアジドとリファンピシンを4カ月間投与し、全期間を6カ月で終わらせるものです(図5)。

80歳以上の高齢者や肝機能障害のある人でピラジナミドが使用できない場合は、最初の6カ月はイソニアジドとリファンピシンを使います。

副作用として、イソニアジドによる手足のしびれ(末梢神経障害)、リファンピシンとピラジナミドによる肝機能障害、エタンブトールによる視力低下(視神経障害)、ストレプトマイシンによる聴力障害があります。

最近、薬が効きにくい耐性菌も出現しており、ニューキノロン系薬(抗生物質の一種)やクラリスロマイシンも使われます。ツベルクリン反応が急激に強陽性となった場合は、予防的にイソニアジドを投与することもあります。

日本では2003年から結核予防ワクチンとしてのBCG(東京株)接種は乳幼児の時の1回のみの施行となりました。小児結核(結核性髄膜炎)にはBCGワクチンが有効であることがわかっています。成人でのBCGワクチンの切れ味が弱いことから、現在新しい結核ワクチンが数種開発されつつあります。

新しい化学療法剤も開発中で、近い将来には臨床応用されるでしょう。

また、医療関係者や患者さんの家族は、結核菌を通さないマスク(N95タイプ)を使用して、結核菌を吸い込まないように注意します。

病気に気づいたらどうする

結核専門医のいる病院(とくに国立病院機構の呼吸器専門病院など)を受診し、相談する必要があります。

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