病気事典[家庭の医学]

ひふがん(ゆうきょくさいぼうがん/きていさいぼうがん/ぱじぇっとびょう)

皮膚がん(有棘細胞がん/基底細胞がん/パジェット病)

皮膚がん(有棘細胞がん/基底細胞がん/パジェット病)について解説します。

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どんな病気か

皮膚は表皮(上皮)と真皮からなり、真皮では血管や神経など、さらには汗(汗腺)、あぶら(脂腺)や毛(毛包(もうほう))などの上皮成分(付属器)が入り込んだ複雑な構造になっています。表皮成分や真皮成分からも悪性のできものが発生しますが、そのなかでは上皮系のがんである有棘細胞がん、基底細胞がん、パジェット病が最も多くみられます。

そのほかにも、汗腺がん、脂腺がんや毛包がんなどの付属器がんもまれながら生じます。また、上皮系以外にも悪性黒色腫(あくせいこくしょくしゅ)(神経外胚葉系腫瘍(しんけいがいはいようけいしゅよう)のひとつ)、血管肉腫(けっかんにくしゅ)(間葉系(かんようけい)腫瘍のひとつ)、あるいは、皮膚T細胞リンパ腫(リンパ造血組織腫瘍のひとつ)などがみられます。

原因は何か

(1)有棘細胞がん

日光曝露(ばくろ)が原因であることから過半数の患者さんでは顔面や頭部に生じます。それ以外にも、やけどやけがなどの傷跡から発生します(瘢痕(はんこん)がん)。また、前項のボーエン病日光角化症あるいは白板症が盛り上がってくると、転移能(血管やリンパ管を伝わって肺や肝などの内臓臓器にできものがとぶ能力)をもった有棘細胞がんに移行します。

(2)基底細胞がん

基底細胞(表皮と真皮の間にあり、分裂して表皮細胞をつくる細胞)に類似した細胞が増殖する悪性のできものであり、皮膚がんのなかでは最も発生頻度が高いがんです。顔面に好発するため、有棘細胞がんと同様に日光紫外線の関与が推測されています。また、近年がん抑制遺伝子の異常が関わっていることも明らかになりました。

(3)パジェット病

乳房部と乳房外に分けられ、前者は乳がん、すなわち乳管浅部がんの皮膚への広がり(浸潤(しんじゅん))です。また、後者は外陰部に多くみられ、そのほかにも汗腺の一種であるアポクリン腺が存在する肛門の周囲や腋窩(えきか)に生じます。しかし、皮膚の下にアポクリン腺がんを認めることはまれであるため、その起源はアポクリン腺の表皮開口部(表皮内汗管(かんかん))からの「表皮内がん」とする説が最も有力です。

なお、以下の記載はパジェット病のなかでは最も多い外陰部パジェット病についてです。

症状の現れ方

(1)有棘細胞がん

皮表から外側に向けて盛り上がったできもの(隆起性腫瘍)で、その表面はびらんあるいは厚いかさぶた(角質塊(かくしつかい))に覆われます。時に盛り上がらずじゅくじゅく(湿潤)した局面となったり、あるいは、堤防状に盛り上がりその中央に潰瘍を形成することもあります。また、しばしば悪臭を伴います。

(2)基底細胞がん

高齢者の頭頸部(とうけいぶ)、とくに眼のまわりや鼻、耳の周囲などに好発する黒色から灰黒色の盛り上がり(結節)で、ゆっくり増大するとともに中央が崩れて潰瘍をつくるようになります。また、辺縁では灰黒色のつぶ(小結節)が真珠の首飾り状に配列するのが特徴とされます。

(3)パジェット病

境界が比較的はっきりした淡紅色から褐色調、あるいは、びらんや粉(鱗屑(りんせつ))をのせた斑状局面としてみられ、時に色が白く抜けたりすることもあります。また、進行すると斑状局面が大きくなるばかりか、その一部が硬くなったり盛り上がってきて、リンパ節転移や血行転移を生じるようになります。

検査と診断

(1)有棘細胞がん

やけどやけがなどの傷跡が盛り上がったり潰瘍を生じた時は、本症を念頭において皮膚生検を行います。また、進行すると血液検査でSCC関連抗原の上昇をみるようになります。

(2)基底細胞がん

日本では黒色を呈することが多いので、高齢者で目や鼻のまわりに黒いできものを生じたら、基底細胞がんの可能性を考慮します。また、若年者の発症や多発例では、色素性乾皮症(しきそせいかんぴしょう)などを疑い精査することもあります。

(3)パジェット病

男性ではペニスの根元に病巣の中心をもつことが、また、女性では太腿の根元に左右同時に発生することが多いようです。なお、進行がんではCEAなどの腫瘍マーカーが参考になります。

治療の方法

(1)有棘細胞がん

外科的切除が原則ですが、高齢などで手術に耐えられない患者さんには放射線療法や凍結療法などを行います。

(2)基底細胞がん

転移を生じることはほとんどないのですが、眼や鼻など顔面の重要な器官に近いため、切除した後の再建術に苦慮します。

(3)パジェット病

外科的切除が原則ですが、有棘細胞がんと同様に手術に耐えられないような高齢の患者さんなどには、放射線療法や凍結療法などを選択します。

病気に気づいたらどうする

(1)有棘細胞がん

傷跡にできものができたり、いつまでも治らない潰瘍は、そのまま自宅で治療するのではなく、一度皮膚科専門医を受診してください。

また、類症として疣(いぼ)状がんやケラトアカントーマなどが知られています。

疣状がん

口腔粘膜、足の裏、外陰部などに生じるカリフラワー状のいぼに似たできものであり、ヒト乳頭腫(にゅうとうしゅ)ウイルスの関与がいわれています。

ケラトアカントーマ

中央部にかさぶた(角質塊)を入れたクレーターのような陥凹(かんおう)をもつドーム状のできもので、急速に増大したあと、自然に小さくなっていきます。また、高齢者の顔面に生じることが多いことから、日光紫外線が発症に関与した毛包由来の良性のできものと考えられています。

いずれも典型例ではその場で大きくなりますが、転移能はもたないとされます。しかし、非典型例も多いため、放っておくより有棘細胞がんとして対処するほうが無難です。

(2)基底細胞がん

黒色調の盛り上がりとしてみられることが多いので、ほくろのがん(悪性黒色腫(あくせいこくしょくしゅ))や老人のいぼ(脂漏性角化症(しろうせいかくかしょう))と鑑別しないといけません。

いずれにしても、黒いできものを生じた場合は一度皮膚科の専門医を受診してください。

(3)パジェット病

外陰部であるため病院に行くのが恥ずかしく、「いんきんたむし」あるいは湿疹と自己診断して市販薬を購入し、使用している患者さんを多く見かけますが、当然のことながらこれらの治療には反応しません。

また、初期であれば、大きな手術になることもなく簡単に摘出することができるので、外陰に異変を生じたならば、ためらうことなく皮膚科専門医を受診してください。

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