病気事典[家庭の医学]
きゅうせいふくじんふぜん(ふくじんくりーぜ)
急性副腎不全(副腎クリーゼ)
急性副腎不全(副腎クリーゼ)について解説します。
執筆者:
弘前大学大学院医学研究科内分泌代謝内科学助教
崎原 哲
どんな病気か
副腎皮質から分泌される副腎皮質ホルモンは、糖分の代謝や水分・電解質(酸・塩基など)のバランスに関わり、ストレスに対抗して体のはたらきを調節する重要なホルモンです。
健康な人は、常に体の状態に合わせて適切に分泌されていますが、何らかの原因でこのホルモンの分泌が急激に不足するようになると、急性副腎不全(副腎クリーゼ)の状態になります。治療が遅れると、生命を脅かすこともある重篤な状態です。
原因は何か
急激な副腎皮質ホルモンの不足は、単に副腎皮質ホルモンの分泌量が減ってしまう時だけでなく、ストレスに対して副腎皮質ホルモンの分泌が不十分(相対的不足)な時にも起こります。
副腎皮質ホルモンの分泌量が急激に減る原因としては、副腎の細菌感染や血管の閉塞(へいそく)、出血、あるいは下垂体(かすいたい)の障害による副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の分泌低下などがあげられます。一方、相対的不足は慢性副腎皮質機能低下症の患者さんに、けがや発熱、あるいは手術などの強いストレスがかかった場合に生じます。
また、長期にわたって大量の副腎皮質ステロイド薬を内服していた患者さんが、突然、内服を中止した場合にも急性副腎不全を生じます。これは長期間の副腎皮質ステロイド薬の内服により、本来正常にはたらくべき副腎が萎縮(いしゅく)してしまい、みずから副腎皮質ホルモンをつくれなくなってしまうからです。
症状の現れ方
多くの患者さんで、全身の倦怠感(けんたいかん)、食欲不振、易(い)疲労感(疲れやすい)、脱力感などが前兆として認められます。その後、吐き気、嘔吐、下痢、腹痛などの腹部の症状や発熱が現れ、急速に脱水症状、血圧低下、意識障害、呼吸困難など重い症状へと進みます。適切に対処しなければ、命に関わります。いずれの症状も副腎疾患に特徴的な症状ではなく、おなかの病気と間違われることがあります。また、症状が急速に進行するため重症になりやすく、注意が必要です。
すでに慢性副腎皮質機能低下症と診断されていたり、長期間副腎皮質ステロイド薬を服用していて最近中断した患者さんに前兆と思われる症状が現れた時は、急性副腎不全を疑い、検査と適切な処置をする必要があります。
検査と診断
血液中のナトリウム濃度の低下とカリウム濃度の上昇、白血球、好酸球の増加などがしばしば認められます。血糖値の低下(低血糖)も時々みられる所見です。
ホルモンの検査では、多くの場合、血液中の副腎皮質ホルモンのひとつであるコルチゾールの低下が認められます。コルチゾールの値は時に正常値のこともありますが、具合が悪くストレスのかかった状態での値と考えると、相対的不足と考えられます。
また、副腎に原因がある場合はACTHが増え、下垂体に原因がある場合はこれが減っています。
治療の方法
急速に悪化する病気なので、急性副腎不全が疑われた場合は、測定に時間がかかるホルモンの検査結果を待たずに治療に取りかかります。塩分とブドウ糖を含む補液と副腎皮質ホルモン薬の点滴投与で、すみやかに改善します。
病気に気づいたらどうする
早期に診断できれば、短時間で軽快する病気です。慢性副腎皮質機能低下症などの病気がすでにわかっている場合は、前兆と思われる症状があった時、どのような対処をしたらよいか、あらかじめかかりつけ医に聞いておくことが大切です。
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情報提供元 :
(C)株式会社 法研
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