病気事典[家庭の医学]
ふくあつせいにょうしっきん
腹圧性尿失禁
腹圧性尿失禁について解説します。
執筆者:
長崎大学病院血液浄化療法部助教 西野友哉
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科感染免疫学講座准教授 古巣 朗
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科感染免疫学講座教授 河野 茂
原因は何か
膀胱や尿道の「しまり」が悪くなっている状態であり、尿道を閉じる機構(尿道括約筋(にょうどうかつやくきん)など)がうまくはたらかないことや、膀胱を支える骨盤の筋肉(骨盤底筋(こつばんていきん))が弱くなっていることが原因となります。
前者の原因としては尿道の外傷、神経の損傷などが、後者の原因としては前立腺や子宮などの骨盤内手術、妊娠や出産、子宮脱、膀胱脱、加齢などがあげられます。
症状の現れ方
腹圧が高くなる時、たとえば急に立ち上がった時や階段を上る時、重い荷物を持ち上げた時、咳やくしゃみ、笑った時などに尿がもれます。通常、睡眠中にはみられません。
腹圧性尿失禁の約30%の人は切迫性(せっぱくせい)尿失禁(急に強い尿意が出現し、トイレに間に合わず失禁してしまうこと)を合併します。
検査と診断
腹圧性尿失禁が疑われる場合には、パッドテスト(パッドをつけたあとに運動をしてもらい、1時間後のパッドの重量増加で失禁の程度を確認するテスト)を行って腹圧性尿失禁の有無・重症度を判定します。
また、尿流動態検査(尿流測定や残尿測定、膀胱や尿道の内圧測定など)や画像検査(膀胱造影や鎖(くさり)尿道膀胱造影)などの検査により総合的に診断します。
治療の方法
軽症から中等症と判断された場合には、保存的治療を行いますが、骨盤底筋訓練が腹圧性尿失禁に有効とされています。
骨盤底筋訓練は、弱くなった骨盤底筋を強化し尿道を閉じる機構を強化する体操で、肛門や腟を意識的に締めたりゆるめたりして骨盤底筋を強化するものです。正しい方法で長期間続けることが重要です。
骨盤底筋強化を目的として、電気刺激によって必要な筋肉を収縮させる電気刺激療法もあります。また、腟内コーンという器具を腟内に15分程度、1日2回ほど保持し、それを徐々に重たいものに変えていくことで骨盤底筋を強化する方法もあります。いずれも腹圧性尿失禁を軽減するのに有効です。
薬物による治療としては、尿道の括約筋を緊張させる作用のある交感神経刺激薬や、閉経後の女性に対しては女性ホルモン薬などがあります。
重症例や希望の強い場合などには、手術による治療が行われます。尿道括約筋の機能が低下している場合には、尿道の周囲にコラーゲンを注入する治療や、尿道括約筋を圧迫するように腹部の組織や人工線維で尿道を支えるスリング手術、日本ではあまり行われていませんが人工括約筋埋め込み術などがあります。
膀胱や尿道の機能を改善させるための治療として、前腟壁(ぜんちつへき)整形術、経腟的膀胱頸部(けいぶ)挙上術、恥骨後式(ちこつこうしき)膀胱頸部挙上術などがあります。
病気に気づいたらどうする
腹圧性尿失禁は頻度が高く、比較的若い女性にもみられる病気です。相談しにくいと感じる人も多いかと思いますが、症状が続くようであれば泌尿器科を受診してください。
情報提供元 :
(C)株式会社 法研
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