病気事典[家庭の医学]
いろいろなもんみゃくあつこうしんしょう
いろいろな門脈圧亢進症
いろいろな門脈圧亢進症について解説します。
執筆者:
朝倉医師会病院院長補佐
荒川正博
特発性門脈圧亢進症(とくはつせいもんみゃくあつこうしんしょう)(IPH)
どんな病気か
脾腫(ひしゅ)、貧血、門脈圧亢進を示し、しかも原因となるべき肝硬変、肝外門脈(かんがいもんみゃく)、肝静脈閉塞、血液疾患、寄生虫症、肉芽腫性(にくげしゅせい)肝疾患、先天性肝線維症(せんてんせいかんせんいしょう)などを証明できない病気と定義されています。バンチ病といわれたものとほぼ同一の病気と考えられていますが、本症は肝硬変に移行しないことが異なります。
この病気は、中年の女性に多いとされています。
原因は何か
旧厚生省の難病研究班で本症の原因について検討されてきましたが、いまだ解明されていません。感染症が原因といわれた時期もありましたが、現在では免疫学的機序(仕組み)が重視されています。
病態としては、肝内の門脈末梢枝が何らかの要因により潰れたり、一部では消失しているといわれています。
症状の現れ方
(1)脾腫、(2)動悸(どうき)、息切れ、易(い)疲労感(疲れやすい)などの貧血による症状、(3)吐血・下血の3大症状と、全身倦怠感(けんたいかん)、腹部膨満感(ぼうまんかん)などの症状があげられます。
予後について
食道・胃静脈瘤がコントロールできれば、多くの症例は予後良好です。少数例では肝機能が徐々に悪化し、肝不全で死亡することがあります。
肝外門脈閉塞症(かんがいもんみゃくへいそくしょう)(EHO)
どんな病気か
肝門部を含めた肝外門脈の閉塞によって門脈圧亢進を示すもので、原因となる病気の有無により、一次性と二次性に分けられます。二次性の原因としては肝硬変、特発性門脈圧亢進症、腫瘍、血液疾患、肝外胆管炎、膵炎、開腹手術などがあります。
小児には、原因が明らかでない一次性のものが、成人では二次性のものが多いといわれています。求肝性副血行路である海綿状血管の増生が特徴的所見といわれています。
原因は何か
小児期に発生するものでは、以前は先天的な病気(奇形)と考えられていましたが、最近の研究では門脈本幹の血栓による完全閉塞といわれ、臍炎(さいえん)、敗血症(はいけつしょう)、腹膜炎などの炎症に伴う凝固異常が考えられています。
症状の現れ方
初発症状は、吐血・下血と脾腫(ひしゅ)に伴う腹部膨満(ぼうまん)です。特発性門脈圧亢進症やバッド・キアリ症候群より門脈圧が高い傾向にあり、このため、食道・胃静脈瘤からの出血頻度も高いといわれています。
検査と診断
超音波検査、血管造影で海綿状血管の増生を証明することが重要で、ほかには門脈圧亢進症に伴う検査を行います。
治療の方法・予後
門脈圧亢進症に対する治療を行います。
多くの症例では、肝機能がほぼ正常に保たれています。死亡原因は約80%が消化管出血で、残り20%が肝不全です。なかには、血栓の再開通などで自然に軽快する例があります。
バッド・キアリ症候群(しょうこうぐん)(BCS)
どんな病気か
肝静脈3主幹、あるいは肝部下大静脈の閉塞、もしくはこの両者の閉塞により生じる肝後性(かんごせい)の門脈圧亢進症です。肝後性とは、血液が肝臓(肝細胞)を通ったあとのことで、肝外門脈閉塞症を肝前性の門脈圧亢進症と呼ぶのに対して、バッド・キアリ症候群を肝後性の門脈圧亢進症と呼びます。
肝臓に強いうっ血が生じます。急性に発症した症例では、急性肝不全で死亡することもあります。
原因は何か
欧米では肝静脈の閉塞が多く、血液や自己免疫の病気、血液凝固異常など血栓症を生じる基礎疾患をもっている症例が多いのが特徴です。
日本では肝部下大静脈の膜様閉塞が多く、先天性の病気と考えられてきましたが、最近では欧米と同様に血栓性閉塞と考えられるようになってきました。
症状の現れ方
急性期では肝は腫大し、うっ血性肝壊死(えし)を呈することがあります。慢性になると門脈圧は亢進し、それに伴う諸症状がみられるほかに腹水、肝脾腫、腹壁静脈の怒張(どちょう)(ふくれる)、下肢の浮腫などがみられます。肝臓は線維化が生じ、うっ血性肝硬変を起こすこともあります。
検査と診断
下大静脈造影を行うことが診断確定には重要です。最近では腹部超音波検査、CT、MRIなどの検査も有用です。
治療の方法
膜様閉塞に対しては、バルーンカテーテルによる拡張術が行われます。閉塞部が広範囲のものには、手術による血行再建術がなされることがあります。さらに、門脈圧亢進症に対する治療も必要なことがあります。
合併症
腫瘍の合併、とくに肝がんの合併が報告されています。
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