病気事典[家庭の医学]
だいちょうぽりぽーしす
大腸ポリポーシス
大腸ポリポーシスについて解説します。
執筆者:
公立学校共済組合九州中央病院病院長
飯田三雄
どんな病気か(分類)
ポリープが大腸全体に多数存在する状態とともに、大腸以外の消化管や全身の臓器にも異常を伴いやすい状態を指します。したがって、消化管ポリポーシスあるいはポリポーシス症候群とも呼ばれます。
後述するように種々の病気が含まれていますが、大腸ポリープの分類(表5)に準じて、腫瘍性と非腫瘍性に大きく分けられます。
腫瘍性の大腸ポリポーシスには、家族性大腸腺腫症(せんしゅしょう)(家族性大腸ポリポーシス、ガードナー症候群とも呼ばれる)とターコット症候群があります。非腫瘍性のものには、過誤腫性(かごしゅせい)(ポイツ・イェガース症候群、若年性ポリポーシス、コーデン病、結節性硬化症(けっせつせいこうかしょう))、炎症性(炎症性ポリポーシス、良性リンパ濾胞性(ろほうせい)ポリポーシス)、その他(過形成性ポリポーシス、クロンカイト・カナダ症候群)が含まれます。
また、表6に主なポリポーシスの特徴を示しました。腫瘍性および過誤腫性ポリポーシスに分類される病気はいずれも遺伝性があるので、まとめて遺伝性消化管ポリポーシスと呼ばれます。
家族性大腸腺腫症(かぞくせいだいちょうせんしゅしょう)
どんな病気か
大腸全体に多数(通常100個以上)の腺腫が発生し、放置すると大腸がんを高率に合併する遺伝性の病気です。
従来、この病気は大腸のみに起こると考えられていたため家族性大腸ポリポーシスと呼ばれ、体表部に骨腫や軟部腫瘍を合併するガードナー症候群とは別の病気とされてきました。しかし、近年、両方の病気は同じ遺伝子の異常で起こることがわかり、同一のものと考えられるようになりました。
この病気は胃、十二指腸、小腸、骨、軟部組織、眼などの大腸以外の全身の臓器に、ポリープあるいは腫瘍状病変を高率に合併することがわかっています。
原因は何か
5番目の染色体にあるAPC遺伝子の異常が原因で起こり、優性遺伝します。しかし、最近、この病気の一部はAPC遺伝子以外の遺伝子異常によって起こりうることが報告されています。
症状の現れ方
血便、下痢、腹痛などの消化器症状のほかに、体表部に骨腫(こつしゅ)や軟部腫瘍(表皮嚢胞(のうほう)、線維腫(せんいしゅ)など)が現れます。
検査と診断
大腸のX線検査(注腸造影(ちゅうちょうぞうえい))、内視鏡検査および鉗子生検(かんしせいけん)(組織をとって調べる)によって多数の腺腫が確認されれば、この病気と診断されます(図22)。できれば遺伝子検査まで行って、APC遺伝子の異常を確認しておくと、治療法の選択や家系員の早期診断に役立ちます。
この病気と診断されれば、胃・十二指腸のX線および内視鏡検査、骨X線検査、眼底検査などを行い、大腸以外の病変をチェックしておく必要があります。
治療の方法
診断確定後は、大腸がん合併の有無を問わず大腸切除術(結腸全摘・回腸直腸吻合(ふんごう)または機能温存的大腸全摘)を行います。家系調査によって無症状で発見された場合、大腸の予防的手術は遅くても20代前半までに行うべきとされています。
一方、大腸以外の腫瘍状病変に対しては、がん化の危険性は極めて低いので、予防的手術の必要はありません。
病気に気づいたらどうする
血便などの症状があれば消化器内科を受診してください。また、近親者がこの病気と診断されれば、無症状でも大腸の検査を受けるべきです。
ポイツ・イェガース症候群(しょうこうぐん)
皮膚粘膜の色素沈着と消化管の過誤腫性ポリポーシスを合併する遺伝性の病気です。がんの高危険群とされており、消化管がん、卵巣がん、子宮がんなど多臓器にわたってがんが高率に合併します。
ポリープは、胃から大腸までの消化管に発生しますが、とくに小腸が好発部位で、しばしば腸重積(ちょうじゅうせき)を合併し、イレウス(腸閉塞(ちょうへいそく))症状や腹痛を起こします。そのほか血便、ポリープの肛門脱出を認めることがあります。
色素沈着は口唇、口腔粘膜、四肢末端部に米粒大の黒褐色の色素斑として認められます。
治療は、大きなポリープに対して内視鏡的ポリペクトミー(ポリープ切除術)を行います。小腸ポリープについては、従来は開腹下で切除していましたが、最近では小腸内視鏡でポリープ切除することが多くなっています。しかし、腸重積と診断されれば手術の適応となります。
若年性(じゃくねんせい)ポリポーシス
消化管に若年性ポリープ(過誤腫)が多発する遺伝性の病気です。ポリープの分布によって大腸限局型、胃限局型、全消化管型の3型に分けられます。
血便やポリープの肛門脱出が主な症状ですが、ポリープの一部に腺腫やがんを合併することがあるとされています。
治療は内視鏡的ポリペクトミーを行います。
コーデン病(びょう)
消化管ポリポーシス、顔面の多発性丘疹(きゅうしん)、四肢末端の角化性小丘疹、口腔粘膜の乳頭腫(にゅうとうしゅ)を伴う遺伝性の病気です。
確立した治療法はありませんが、全身の臓器に高率に悪性腫瘍を合併するため、定期的な検査を受ける必要があります。
結節性硬化症(けっせつせいこうかしょう)
顔面の血管線維腫(せんいしゅ)、脳内多発結節性病変、精神遅滞、腎血管筋脂肪腫(じんけっかんきんしぼうしゅ)、消化管ポリポーシスを伴う遺伝性の病気です。ポリープ(過誤腫)は大腸と胃に多発しますが、悪性腫瘍(しゅよう)の合併はまれです。消化管ポリポーシスに対しては内視鏡的切除の適応とはなりませんが、定期的な検査は必要です。
クロンカイト・カナダ症候群(しょうこうぐん)
消化管ポリポーシス、皮膚色素沈着、爪の萎縮、脱毛などを伴う非遺伝性の病気で、原因は不明です。そのほか、消化管からの蛋白漏出による低蛋白血症、貧血、味覚異常も認められます。
ポリープは、胃、小腸、大腸、まれに食道にもみられ、腺腫やがんを合併することもあります。
治療は、がん合併例を除いて保存的に行います。薬物療法(副腎皮質ホルモン薬の投与)や栄養療法が行われます。
予後は一般的に不良とされていますが、最近は栄養療法の導入によって改善されつつあります。
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