病気事典[家庭の医学]

いかいようとじゅうにしちょうかいようのちがい

胃潰瘍と十二指腸潰瘍の違い

胃潰瘍と十二指腸潰瘍の違いについて解説します。

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胃潰瘍と十二指腸潰瘍の違いの解説(コラム)

 胃潰瘍と十二指腸潰瘍を併せて消化性潰瘍と呼んでいます。つまり、2つとも胃内の塩酸が原因で生じてくる病気です。もし、塩酸がなければ、ストレスがかかろうと、ピロリ菌が感染しようと、また薬剤を服用しようと、潰瘍は生じてこないのです。

 胃のなかには塩酸があるため、胃の粘膜は酸に強く、簡単には消化されない構造になっています。そのため、少々酸分泌が増えたからといって潰瘍ができることはありません。

 しかし、酸から胃粘膜を防御している機構に異常が生じれば、容易に潰瘍が形成されるのです。ですから、胃潰瘍では過酸症(かさんしょう)の人は少なく、むしろ低酸症(ていさんしょう)が多いといわれています。

 これに対して、十二指腸の粘膜には、酸に対する防御機構が十分に備わっていないので、過酸症があれば十二指腸潰瘍が生じやすくなるのです。そのため、若くて胃酸分泌が活発な世代に十二指腸潰瘍が多くみられるのに対し、高齢になり動脈硬化などで胃粘膜への血液の供給が滞ってくると胃潰瘍を生じやすくなるのです。

 内視鏡で胃の粘膜を観察すると、胃潰瘍の患者さんでは、多くの例で胃粘膜の萎縮性変化がみられますが、十二指腸潰瘍の患者さんでは、高齢者であっても胃粘膜萎縮が観察されることはまれです。

 十二指腸潰瘍の患者さんからは、胃がんの発生が極めて少ないことが明らかになっています。胃がんの発生の少ない欧米諸国では十二指腸潰瘍が多くみられ、胃がん発生率の高い日本では胃潰瘍の人が多くみられます。興味深いことに、日本で胃がんの発生率の最も低い沖縄県では、十二指腸潰瘍の人が多くみられます。

 胃酸によって生じる胃潰瘍と十二指腸潰瘍に、なぜこのような病態生理の違いがあるのか、ピロリ菌が発見されてもまだ十分にわかっていません。

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