病気事典[家庭の医学]
いにくしゅ
胃肉腫
胃肉腫について解説します。
執筆者:
慶應義塾大学医学部一般・消化器外科講師
才川義朗
国際医療福祉大学三田病院消化器センター准教授
吉田 昌
国際医療福祉大学三田病院院長
北島政樹
どんな病気か
胃の悪性腫瘍(あくせいしゅよう)のうち、上皮性の(胃粘膜から出た)ものを胃がんといい、非上皮性の(粘膜以外の細胞から出た)ものを肉腫といいます。胃肉腫は胃の悪性腫瘍のうち約5%といわれ、比較的少ない病気です。胃肉腫のうち頻度が多いのは、悪性リンパ腫と間葉系(かんようけい)腫瘍です。悪性リンパ腫は本来、血液の病気であり、血液内科が担当する機会が増えています。
間葉系腫瘍(GIMT)には、神経の特徴をもった神経系腫瘍と平滑筋の特徴をもった平滑筋系の腫瘍があります。原則として神経の特徴も平滑筋の特徴もないものをGISTと呼びます。GISTは多かれ少なかれ悪性腫瘍としての特徴をもちますが、悪性度は超低リスク、低リスク、中リスク、高リスクの4段階に分類され、「良性」「悪性」の2段階にはっきり分けられるものではありません。
原因は何か
原因は不明ですが、GISTの約90%に細胞を増殖させる遺伝子(c-kit遺伝子)の機能を伴った突然変異が認められます。何らかの原因でc-kit遺伝子が突然変異を起こし、細胞増殖が過剰に起こることが重要と考えられています。
症状の現れ方
多くの胃肉腫は、胃がん検診の際に無症状で見つかります。気がつかないで大きくなると胃の痛み、不快感、食欲不振、吐き気、嘔吐、腹部膨満感(ぼうまんかん)などの症状の原因となります。出血して吐血・下血を起こしたために検査をして発見されることも少なくないです。まれに腫瘍が大きくなって破裂したり、おなかの中(胃の外)に出血を起こすことがあります。
検査と診断
胃肉腫の診断には上部消化管の造影検査と内視鏡検査、超音波内視鏡検査、腹部超音波検査、腹部CT検査が有用です。上部消化管の造影検査と内視鏡検査では、胃粘膜下腫瘍として診断され、超音波内視鏡検査、腹部超音波検査、腹部CT検査で胃の外からの圧排(あっぱい)ではなく、胃の腫瘍であることを確認します。
悪性リンパ腫は胃がんよりも診断が難しいこともありますが、繰り返し内視鏡検査を行い、組織の一部をとって顕微鏡で調べることで診断がつくことが多いです。間葉系腫瘍では手術で腫瘍を切除し、特殊な染色を行った顕微鏡検査で、初めて最終的な診断が得られます。
治療の方法
悪性リンパ腫は、抗がん薬による化学療法で治療することが多くなります。間葉系腫瘍は切除することで診断と治療を同時に行います。
間葉系腫瘍はリンパ節転移を起こすことはまれです。リンパ節転移を起こしている場合は、かなり進んだ腫瘍であることが多く、リンパ節を切除しても治療効果は不明です。したがって原則としてリンパ節を切除せず、腫瘍の部分をまるごと切除して胃は残す場合が多いです(胃局所切除術)。ただし胃の入り口(噴門(ふんもん))、出口(幽門(ゆうもん))やその近くに腫瘍ができた場合は、噴門側胃切除術や幽門側胃切除術が必要になることがあります。
前述したc-kit遺伝子をもった腫瘍が再発(肝臓転移や腹膜転移が多い)した場合には、イマチニブという薬が腫瘍を抑え込むのに有効な場合が多いです。
病気に気づいたらどうする
悪性リンパ腫の診断がつけば、血液内科の専門医に相談します。また、がん検診などで胃粘膜下腫瘍として診断されることが多いのですが、胃粘膜下腫瘍には肉腫のほかにカルチノイドのような上皮性の腫瘍や、異所性膵(いしょせいすい)(別名、迷入膵(めいにゅうすい):膵臓の組織が胃の壁の中にできるもの)、炎症性腫瘤などの可能性があります。1㎝以下の小さいものでは、成長する速度も遅いものが多いため経過観察として、上部消化管内視鏡検査を繰り返し受けることが多くなります。
腫瘍ができた場所などにもよりますが、胃粘膜下腫瘍で手術を考慮するのは2㎝が目安になるので、2㎝の大きさがあれば専門医に相談しましょう。
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